腫瘍溶解性ヘルペスウイルスは小児の高悪性度神経膠腫に有望

放射線療法と改変型ヘルペスウイルスの併用療法は、高悪性度神経膠腫の患児において忍容性が良好で臨床効果の徴候も認められた。この第1相臨床試験結果が、4月10日~15日開催のAACRバーチャル年次総会2021第1週で発表された。

本試験のデータは、New England Journal of Medicine誌にも同時掲載された。

「残念ながら、進行性神経膠腫の子どもたちの転帰は非常に悪く、過去30年間でこの恐ろしい病気の転帰が大きく改善されたことはありません」と発表著者のGregory Friedman医師(アラバマ大学バーミンガム校(UAB)小児科学教授、UAB O’Neal Comprehensive Cancer Center研究員、Alabama Center for Childhood Cancer and Blood Disorders at UABおよびChildren’s of Alabamaの治療開発部長)は述べた。同医師は「現在の標準治療に伴う毒性は、受け入れがたいほど高いものです。そのため、小児に対して効果的で毒性の低い標的療法が大いに必要とされています」と続けた。

今回の第1相臨床試験でFriedman医師らは、小児の高悪性度神経膠腫に対して、ヘルペスの一般的な原因として知られる単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)改変型による単独治療および放射線療法との併用治療における安全性および有効性を検討した。HSV-1は末梢神経系や中枢神経系の細胞に感染する性質を持つため、このような治療法にとって脳腫瘍は格好の標的だった、とFriedman医師は説明する。腫瘍細胞には感染するが正常な細胞には感染しない改変型HSV-1(別称G207)は、遺伝子組み換え技術を用いて製作された。

本臨床試験では、前治療で進行した高悪性度神経膠腫の7歳から18歳までの患児12人を対象とした。12人の患児全員に腫瘍内に挿入されたカテーテルを通じてG207を投与した。また、一部の患児には、G207の注入後24時間以内に直接腫瘍に向けて少量の放射線の単回照射を行ったが、これはウイルスの複製と腫瘍全体への拡散を促進するためであるとFriedman医師は説明する。

治療効果は画像診断、腫瘍病理検査、および患者の全身状態で評価した。12人の患児のうち11人に反応がみられた。全生存期間中央値は12.2カ月で、小児の進行性高悪性度神経膠腫における典型的な全生存期間である5.6カ月に比べ120%上昇した、とFriedman医師は説明する。同医師によると、現在までに36%の患児が、新規発症の高悪性神経膠腫患児の全生存期間中央値である18カ月を超えて生存しているとのことである。 生存期間中央値は、治療開始後にHSV-1抗体陽転となった患児では18.3カ月であったが、治療開始時にHSV-1抗体を保有していた患児では5.1カ月と短かったことから、HSV-1への曝露歴が治療効果の重要な決定因子である可能性が示唆された。

G207は単独でも放射線治療との併用でも忍容性が良く、用量制限毒性やグレード3/4の治療関連有害事象は出現せず、血流、唾液、結膜へのウイルス排出の証拠も認められなかった。

Friedman医師は、「第2相臨床試験でさらに検討が必要ですが、改変型ヘルペスウイルスを用いた腫瘍溶解性の免疫ウイルス療法は、小児の高悪性度神経膠腫に対して安全で有効性の高い手法であるということが、私たちの結果で示唆されました」と述べている。

さらに、治療前後の腫瘍組織を分析したところ、G207の注入後2~9カ月以内にCD4陽性およびCD8陽性T細胞などの腫瘍浸潤免疫細胞の数が増加したことが明らかになった。「今回の結果で、この治療法は免疫細胞がほとんど存在しない、免疫学的に『冷たい』小児高悪性神経膠腫を、免疫細胞が多く存在する『熱い』腫瘍に変えることができるとわかりました。これは、脳腫瘍の子どもたちに有効な免疫療法を開発するための重要なステップです」とFriedman医師は述べた。

Friedman医師らは、小児に最も多い悪性脳腫瘍である髄芽腫などの進行性小脳腫瘍を対象とした第1相試験を実施中である。今後の研究では、より大規模な第2相臨床試験でこの治療法の安全性と有効性を検討する予定で、年内に患者登録を開始する見通しである。さらに、異なる患者集団でG207を評価することを計画しており、その中には高悪性度神経膠腫の新規発症患者も含まれる。Friedman医師らは、G207とさまざまな治療法の併用による抗腫瘍免疫応答の改善の可能性についても検討している。

本研究の限界として、患者数が少ないこと、主に単一機関での研究であったことが挙げられる。これらの限界に対処するため、近々行われる大規模な第2相試験は、多施設小児コンソーシアムを通じて実施される予定である。

本研究は、米国食品医薬品局(FDA)稀少疾病用医薬品臨床試験助成プログラム、Cannonball Kids’ cancer Foundation、Rally Foundation for Childhood Cancer Research、Hyundai Hope on Wheels、St. Baldrick’s Foundation、Kaul Pediatric Research Instituteの支援を受けた。G207はTreovir LLC社より提供された。

Friedman医師は、アラバマ大学バーミンガム校、イーライリリー・アンド・カンパニーおよびファイザー社との契約により一部支援を受けている。

翻訳担当者 白濱紀子

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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