NCIのCCDI構想により小児・AYA世代がんの研究が加速

Norman E. Sharpless医師の報告

2019年7月、研究者、支援者をはじめ多くの人々が一堂に会して、小児、思春期および若年成人(AYA)がんに対する研究を加速させるために必要なデータの収集、分析、共有のより効率的かつ効果的な手段を開発する方法を検討した。 

NCIが構想する小児がんデータ構想(CCDI)は、2020年に米国政府から5,000万ドルの投資を受け、今後9年間は毎年5,000万ドルの追加投資が提案されているが、今回の取り組みはCCDIにおける新たな一歩となった。

小児およびAYA世代のがんは稀であり、米国で毎年診断されるがんの約4%に過ぎない。このため、研究には多くの課題がある。

一例として、この患者集団から採取できる組織検体は限られていることが挙げられる。また、これらの検体から得られる臨床データおよび生物学的データは、通常、それぞれ異なるデータベースに保管されており、広く利用できるものではない。このため、研究者がこれらの検体やデータを集約して利用し、小児やAYA世代のがんの理解を深め、新たな予防、診断、治療方法を開発することが非常に困難になっているという問題もある。

CCDIの究極の目的は、小児やAYA世代のがんの治療法の開発を現状よりも早いペースで進展させることにある。研究者がアクセスできるデータの幅と質を広げ、それらのデータへのアクセスと利用をより容易にすることで、この目標を達成できると信じている。

データの「エコシステム」を構築し、研究インフラを最適化することがこの取り込みの中核となる。このエコシステムによってデータの保存場所や登録機関の間の垣根がなくなり、複数の機関や他の研究者にデータ提供を依頼しなくても、小児やAYA世代のがんの患者から個々に収集された情報を研究に利用することが可能になる。

小児がんデータ構想専門部会の報告書

NCIはこの1年間、CCDIを前進させるため奔走してきた。2019年11月、NCIはこのデータ構想の中でも将来の優先事項に関する一般的なガイダンスを作成するため、科学顧問委員会(BSA)の特別専門部会を招集した。

専門部会には、BSAのメンバーに加えて、全米がん諮問委員会(NCAB)のメンバー数名と、小児科、生命情報科学と臨床情報学、技術、医薬品開発分野の専門家が参加した。6月15日に開催されたBSA/NCAB合同会議では、24の具体的な提案を含む報告書が発表され、全会一致で承認された。

この重要な報告書の作成に、CCDI専門部会がこの数カ月間熱心に取り組んでくれたことに感謝している。NCIは率先して報告書を慎重に検討し、専門部会の提案をどのように実施するかを決定してく予定である。

この計画に関する最新情報は、9月上旬に開催されるNCAB会議で発表される予定である。

進行中のCCDIの活動

昨年7月のCCDI発足以来、NCIはCCDIの開発と支援のための基礎を築くために様々な研究活動を行ってきた。これらの取り組みはBSA専門部会の提案に沿ったものであり、既存の小児がんおよびサバイバーシップ研究活動を強化するとともに、新たな研究活動を支援することを目的としている。

現在進行中のCCDIの活動には以下のようなものがある。

・CCDI下で統合可能な小児やAYA世代のがんの既存データ、データベースおよび解析ツールの包括的な評価の実施。
・CCDIデータエコシステムの一環として、患者と紐づいた小児やAYA世代のがん、およびサバイバーシップのデータ利用を強化するための全米小児がん登録(NCCR:National Childhood Cancer Registry)の開発。
・前臨床データコモンズを構築するために進行中の研究の支援。前臨床データコモンズとは、がんモデル(細胞株や動物実験など)を用いた研究から得られたデータを提供、共有、分析するための基盤であり、小児やAYA世代のがんを対象とした臨床試験において、どの薬剤を優先的に検証すべきかを決定するのに役立つ。
・NCCRや前臨床データコモンズをはじめとする、様々な種類のがんや臨床医療に関するデータやツールを統合するデータエコシステムの技術基盤の構築。
・小児やAYA世代のがん、サバイバーシップ研究に従事する機関をより多く含めるための包括的なデータ収集の拡大。
・データや雑誌記事の閲覧の無料化を促進するためのデータ共有と出版方針の継続的な強化。

CCDIは、NCIの小児およびAYA世代のがん研究への継続的な支援を拡大するとともに、連邦法であるChildhood Cancer Survivorship, Treatment, Access, and Research(STAR)Act(小児がんサバイバーシップ、治療、アクセス、調査に関する法律)およびResearch to Accelerate Cures and Equity (RACE)for Children Act(小児の治癒と公平性のための研究に関する法律)の2つの法案によって承認された取り組みを補完するものでもある。

STAR Actは、有効な治療法がないがんに重点を置いて、小児・AYA世代のがん患者およびサバイバーのための生体試料や関連資源の収集と保管をNCIが強化することを後押しする法律である。CCDIのデータ資源は、STAR Actによる支援を受けたプロジェクトを通じて収集された広範な小児・AYA世代がんの研究から得られたデータの利用を支援し促進する。

RACE for Children Actでは、NCIと米国食品医薬品局は、小児がんの増殖と進行に関連する分子標的のリストを作成するために、医師、研究者、患者、その他の関係者の意見を収集するよう求められている。CCDIの活動は、分子標的を検証する研究やデータ資源を通じてRACE for Children Actの規定に応じており、小児・AYA世代がんの安全で効果的な治療法の開発に今以上に貢献していく。 

CCDIはまた、TARGETやPediatric MATCHなどのNCIの先行研究を基盤としている。これらの先行研究では、分子標的治療をもとに、複数の種類の小児がん患者の遺伝子変異と治療応答を一覧できる重要なデータセットを作成した。これらの研究により、がんの発生メカニズムの理解が深まり、診断や分類の精度が向上し、より良い治療のための新たな分子標的候補を特定することができるようになった。Sharpless医師はCCDIによってさらに大きな成果がもたらされると確信している。

CCDIは、小児・AYA世代がんの予防、診断および治療に多大な影響を与えると考えられる。同時に、CCDIから得られる知見は、成人がんやその他の疾患におけるデータの利用と共有を向上するためのモデルになると考えられる。

当ブログやソーシャルメディアを通じて、CCDIの活動の最新情報に関して報告できることを楽しみにしている。また、cancer.govのCCDIに関するウェブページやメール配信登録によっても、CCDIの活動の最新情報を入手することができる。

翻訳担当者 後藤若菜

監修 佐々木裕哉(白血病科/MDアンダーソンがんセンター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

小児がんに関連する記事

小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響の画像

小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響

米国国立がん研究所(NCI)ニュースリリース高頻度でみられる遺伝的要因は、一般集団においてがんリスクを予測できるが、小児がんサバイバーにおける二次がんのリスク上昇も予測できる可能性があ...
野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減の画像

野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減

米国臨床腫瘍学会(ASCO)​​ASCO専門家の見解  
「本研究により、小児期にがん治療を受けた成人において、濃い緑色野菜やナッツ・種子類の豊富な食事と早期老化徴候の軽減との間に強力な...
オラパリブとセララセルチブ併用がDNA修復不全腫瘍の小児がん患者に有効である可能性の画像

オラパリブとセララセルチブ併用がDNA修復不全腫瘍の小児がん患者に有効である可能性

米国がん学会(AACR)PARP阻害剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)と被験薬であるATR阻害剤ceralasertib[セララセルチブ]の併用は、DNA複製ストレスやDNA修復欠損を...
デクスラゾキサンは、がん治療中の子どもの心臓を長期的に保護するの画像

デクスラゾキサンは、がん治療中の子どもの心臓を長期的に保護する

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ今日、がんと診断された小児の80%以上が、治療後5年の時点で生存している。これは、過去50年間における小児医療の最大の成果の一つである。しか...