小児がんサバイバーの心機能障害発見に有望なワイヤレス機器

ハンドヘルドデバイスが化学療法治療を受けた小児がんサバイバーの心機能障害を正確に発見

米国がん学会の機関誌Clinical Cancer Research誌に掲載された研究結果によると、アントラサイクリン化学療法を受けた小児がんサバイバーにおける心機能障害の発見を目的として設計されたワイヤレスデバイスは、心臓MRIを基準とした比較において正確、かつ偽陰性率が低かった。

「小児がん領域においては、治療から数十年経過するまで顕在化しない新たな問題に多くのがんサバイバーが直面しているという認識が高まっています」と、カリフォルニア州ドゥアーテ、シティ・オブ・ホープ病院の小児がんサバイバークリニックの責任者であるSaro Armenian医師(DO, MPH)は述べている。「これらの問題の1つが、がん治療の一環として用いられるアントラサイクリン系薬剤(化学療法剤の一種)への曝露が原因で生じる心血管疾患のリスクです」。

アントラサイクリン系薬剤は心毒性を引き起こすことで知られているため、小児がんサバイバーは治療完遂後に心機能障害発見のスクリーニングを受けることが推奨されている。心エコー検査によるスクリーニングは心機能モニタリングの標準治療であるが、この技術は非常に多様であり、多くの制限があると、Armenian氏は指摘している。心臓MRIは代替スクリーニング法であり、ゴールドスタンダードであるとされているが、このスクリーニング・アプローチは高価であり、広く利用可能なものではない。

さらに、長期のがんサバイバー(初期診断後5年以上生存している患者)の90%が定期的な医療ケアを積極的に受けているが、推奨されているリスクに基づいた定期的な検査を受けているのは、この集団の30%にも満たない。「これらのがんサバイバーで実施することができていない集団ベースのスクリーニングを促進する方法が必要です」と、彼は指摘している。

Armenian氏らは、頸動脈から脈波と心音のデータを収集するハンドヘルドデバイスのプロトタイプであるVivioの精度を調査した。データはスマートフォンまたは電子タブレットなどの互換性のあるデバイスでワイヤレスにストリーミングされる。このモバイルヘルスのプラットフォームにより結果の解釈が不要となり、心臓の健康状態のリアルタイムモニタリングが可能となると、Armenian氏は説明している。Vivioは、特殊なアルゴリズムを用いており、心機能評価でよく使用されている、心臓の左心室から排出される血液の割合を示す左心室駆出率(LVEF)を測定する。 LVEF測定値が50%未満であることは心機能異常の徴候を示している可能性があるとArmenian氏は説明している。

研究者らは、アントラサイクリン化学療法に曝露された191人の患者において、Vivioを心エコー検査およびCMR画像法の両方と比較した。参加者は22歳までにがんと診断され、本研究の少なくとも2年前に治療を完了していた。

Vivioの平均LVEF測定値は、CMR画像法の測定値と同等であった(それぞれ56.8%、56.5%)。心エコー検査で測定した平均LVEFはこれらより高く(61.7%)、偽陰性率が高かった。CMR画像法をゴールドスタンダードとして使用した場合、VivioはLVEF異常を有する患者の検出において、高い感度(85.7%)と低い偽陰性率(14.3%)を示した。

重要なのは、Vivioは現在、心エコー検査やCMR画像法に代わるものではないということであると、Armenian氏は述べている。心エコー検査およびCMR画像法のいずれも心臓の画像を生成するものであり、心臓の健康をより包括的に評価し、心疾患の診断を容易にすることが可能である。

「Vivioにより実現する可能性があることの1つは予備スクリーニングです」と、Armenian氏は説明した。Vivioで測定した患者の心機能が一定の閾値以下であれば、詳細な評価を受ける予定を立てられる。このように、Vivioは、これらのサバイバーの関与を維持し、デバイスでの測定により正常な心機能を有する患者にとっては面倒な検査の負担を軽減することを可能にする。

「本研究は、重篤で生命を脅かす健康状態になる危険性があるがんサバイバーの長期モニタリングおよびケア提供の新しいパラダイムについて考えるための第一歩です」と、Armenian氏は述べている。「この集団で臨床的に明らかになる前に心疾患への進行を阻止するには、早期発見、早期サーベイランス、早期予防のためのさらに積極的で簡易なアプローチについて考えてみることが重要です」

本研究を制限するものとしては、単一施設で実施されたことが挙げられる。さらに、患者の一部(3.8%)が、Vivioの測定値のクオリティが低かったため分析から除外された。

本研究は、Caltech-City of Hope Biomedical Research Initiativeおよび白血病リンパ腫協会のScholar Award for Clinical Researchの出資を受けた。

VivioはAvicena LLC社の製品であり、複数の著者が株式、雇用契約、コンサルティング契約を保有している。 著者の1人はAvicena社の無報酬取締役であり、本研究の著者らは本研究に関連する特許に関与している。Armenian氏は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 会津麻美

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

小児がんに関連する記事

小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響の画像

小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響

米国国立がん研究所(NCI)ニュースリリース高頻度でみられる遺伝的要因は、一般集団においてがんリスクを予測できるが、小児がんサバイバーにおける二次がんのリスク上昇も予測できる可能性があ...
野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減の画像

野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減

米国臨床腫瘍学会(ASCO)​​ASCO専門家の見解  
「本研究により、小児期にがん治療を受けた成人において、濃い緑色野菜やナッツ・種子類の豊富な食事と早期老化徴候の軽減との間に強力な...
オラパリブとセララセルチブ併用がDNA修復不全腫瘍の小児がん患者に有効である可能性の画像

オラパリブとセララセルチブ併用がDNA修復不全腫瘍の小児がん患者に有効である可能性

米国がん学会(AACR)PARP阻害剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)と被験薬であるATR阻害剤ceralasertib[セララセルチブ]の併用は、DNA複製ストレスやDNA修復欠損を...
デクスラゾキサンは、がん治療中の子どもの心臓を長期的に保護するの画像

デクスラゾキサンは、がん治療中の子どもの心臓を長期的に保護する

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ今日、がんと診断された小児の80%以上が、治療後5年の時点で生存している。これは、過去50年間における小児医療の最大の成果の一つである。しか...