術中の標的放射線照射により膵がんの再発が減少
手術中の標的放射線治療、いわゆる術中照射により、膵臓周辺に広がった膵臓がん細胞を除去することで、膵臓周辺での再発率を5%まで減少させることに成功した。ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究によるもので、研究チームによる予備的研究では、これはこの患者集団においてこれまで報告された中で再発率が最も低いと考えられる。
2025年9月に開催された米国放射線腫瘍学会(ASTRO)の年次総会で発表された。
この研究には切除可能境界膵臓がん、または局所進行膵臓がんの患者20人が登録された。手術前には化学療法と放射線治療を行い、腫瘍が縮小し血管から離れるようにさせた。続いて腫瘍を切除する手術中に、小さな放射性ビーズをカテーテルを通して運ぶロボットを使い、精密に標的化された放射線照射を行った。このロボットでは、膵臓近くの再発が起こりやすい“三角形の領域”を正確に狙うことが可能であった。手術後24カ月の時点で膵臓周囲に再発が確認されたのは20人中わずか1人であり、近年まで治療成績が他のがんに比べて大きく遅れていた膵臓がんにおいて、これは大きな成果である。
多くの膵臓がんは診断された時点で、腫瘍が膵臓周囲の重要な血管にすでに広がっている。従来、このような血管への浸潤がある患者は手術による腫瘍切除が不可能とされてきた。しかし過去10年の間に、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターのSkip Viragh膵臓がん臨床研究・患者ケアセンターでは、化学療法と放射線治療の併用で腫瘍を縮小させ血管から離す新たな方法を開発し、より多くの患者が腫瘍切除手術を受けられるようにしてきた。
しかし、このような治療を受けた患者の多くで依然として腫瘍の再発が見られたため、放射線腫瘍学および分子放射線科学の准教授であるAmol Narang 医師と同氏のチームはその原因を探ることにした。
チームの研究により、膵臓がんのがん細胞は、膵臓付近の神経に沿って膵臓のすぐ上にある脂肪と神経が密集した三角形の領域に広がっていることが明らかになった。Narang氏はこの領域を「ボルチモア・トライアングル(Baltimore triangle)」と呼んでいる。同氏らが手術前にこのボルチモア・トライアングルを標的とし、遊離したがん細胞を殺傷するようにしたところ、術後2年での膵臓周囲の再発率は47%から12%に低下した。しかし、膵臓周辺で再発がみられた12%の患者において、再発部位はボルチモア・トライアングル内であった。
さらに再発率を低下させるため、Narang氏らは膵臓腫瘍の切除後、手術中にボルチモア・トライアングルを標的とした放射線を追加照射した。Narang氏は「手術の際には、膵臓に隣接する十二指腸という小腸の一部を切除することで、周囲の臓器を損傷させることなくボルチモア・トライアングルにアクセスできるようになるのです」と説明する。手術前のボルチモア・トライアングルへの標的放射線照射と、手術中の同部位への術中放射線照射を組み合わせることで、ボルチモア・トライアングルに破壊的(アブレイティブ)線量の放射線を照射することが可能になった。
「術中放射線照射とボルチモア・トライアングルの標的化によって、再発率を5%にまで下げることができました。私たちの知る限り、この患者集団における膵臓周囲の再発率としては報告された中で最も低いものです。しかし次の研究では0%にまで下げられると考えています」とNarang氏は述べている。「膵臓がんが再発すると、多くの場合治癒は不可能になります。したがって、再発を防ぐためにできる限りのことをしなければなりません。とはいえ、この結果は、10年前ですら不可能と思われていた膵臓がんの再発防止は可能だという希望をもたらすものです」。
この研究で唯一再発が生じたのは、ボルチモア・トライアングルの一部の、術中照射が届きにくかった場所であった。現在チームは、この到達困難な領域を標的とするための新たな戦略を開発中であり、再発率をゼロにすることを目指している。その新たな方法が確実なものになった段階で、全米の他のがんセンターと協力し、より大規模な臨床試験を実施して結果を検証する予定である。
<原文ページ画像の説明>
放射線の照射対象を示す画像。赤は主要な動脈に接している膵臓腫瘍を表している。黄色はボルチモア・トライアングルを示しており、現在、すべての患者で赤い領域に加えて照射の標的となっている。
出典:Amol Narang 医師
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