肝がんスクリーニングの新たな血液検査方法を開発

【米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース】

肝がんで最も多い肝細胞がんの発症リスクが高い人の特定に役立つ新しい検査が開発された。このアプローチは、患者が特定のウイルスに曝露したことがあるかどうかを簡単な血液検査で調べるものである。

この新規アプローチの研究は、米国国立衛生研究所(NIH)の下部組織である国立がん研究所(NCI)の研究者が主導して行った。研究には、国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所といくつかの学術センターの研究者も参加した。結果は、6月10日、Cell誌で発表された。

「既存のスクリーニング検査と合わせて、この新しい検査は、肝細胞がん発症リスクのある人のスクリーニングで重要な役割を果たすと思われます。この検査によって、医師は肝細胞がんを早期に発見し、治療できるようになります。この方法は比較的簡単かつ安価で、少量の血液採取だけで済みます」と、Xin Wei Wang医学博士は述べている。この研究のリーダーであるWang氏は、NCIがん研究センター(NCI CCR)肝がんプログラム共同リーダーでもある。

B型肝炎やC型肝炎のウイルス感染や肝硬変などは、肝細胞がんを発症する可能性を高める特定因子である。こうした危険因子を有する人は、6カ月ごとに超音波検査による肝細胞がんスクリーニングを受けることが推奨されており、α-フェトプロテインを調べる血液検査は同時に行なっても行なわなくてもよい。

しかし、肝細胞がんの危険因子を有するすべての人が発症するわけではない。スクリーニングで早期発見につながる可能性もあるが、ほとんどの患者は進行がんとなってから診断され、しばしば治癒不可能である。それでも、早期に発見された肝細胞がんは、治癒する可能性がはるかに高い。

「肝細胞がんのリスクが最も高くスクリーニングをより頻繁に受けるべき人を特定する新しい方法を開発する必要があります」と、NCIのTranslational Liver Cancer Consortiumの一員でもあるWang氏は述べている。米国では肝細胞がん発症率が上昇しているため、早期発見と監視のためのアプローチ改善が特に重要である。

「NCI CCR 肝がんプログラムの主眼は、肝細胞がんの早期発見、診断、治療のための新しい方法を開発することであり、患者の転帰改善を目標としています」と、肝がんプログラム共同リーダーで本研究の共同研究者であるTim Greten医師は述べている。

多くのスクリーニング検査では、がん細胞の特徴を検出する。しかし、これらの特徴は時間の経過とともに変化する可能性があり、腫瘍内のすべてのがん細胞が同じ特徴をもつわけではない。NCIの研究チームは、がん細胞そのものではなく、がん環境の特徴を検出するという異なるアプローチをとった。

がんの発症がウイルスと免疫系の相互作用の影響を受けていることを示す研究が増えている。今回の研究チームは、ウイルスと免疫系の間の特定の相互作用が肝細胞がん発症リスクを高める可能性があると推論した。

この可能性を探るために、研究チームは、過去にウイルス感染が残した「痕跡」を調べるために、人々の血液を詳しく調べた。こうした痕跡は、免疫系が作るタンパク質である抗体の中に残されているため、免疫系が感染に対してどのように反応したかも反映されている。各人にある痕跡の組み合わせがその人に特有なパターンを作成し、研究者はこれをウイルス曝露歴と呼んでいる。

研究チームは、肝細胞がんを発症した150人を含む約900人の血液サンプルから、1,000種類以上のウイルスの痕跡を調べた。研究チームは、肝細胞がん患者と、慢性肝疾患患者および健康なボランティアを正確に区別できる特定のウイルス曝露歴を同定した。この曝露歴には61種類のウイルスの痕跡が含まれていた。

その後、研究者らは、20年間に及ぶある研究に参加していた173人の慢性肝疾患患者の血液サンプルを用いて、この曝露歴を検証した。同研究期間中に、参加者のうち44人が肝細胞がんを発症した。がん診断時に採取された血液サンプルを用いたところ、曝露歴は肝細胞がんを発症した人を正確に同定した(曲線下面積、AUC=0.98)。重要なことは、研究開始時(最長で診断の10年前)に採取した血液サンプルを使用した場合でも、この曝露歴は機能したということである(AUC=0.91)。

この曝露歴は、α-フェトプロテイン検査よりもはるかに正確であると考えられる(AUC=0.91 vs. 0.62)。AUCが0.5であれば、検査結果は疾患を特定する上で偶然に過ぎないことを示し、AUCが1.0であれば完全に正確な検査結果であることを示している。

研究者らはこのアプローチの研究を現在も継続中であり、臨床試験での検証を計画している。彼らは、NCIのがん疫学・遺伝学部門のKatherine McGlynn医学博士と共同で、HCCの危険因子を有する人々を対象とした前向き監視研究でこのアプローチを検証している。

ウイルス感染は、がんの原因とならないものであっても、他のがんの発症に影響を与えるように免疫系を変化させる可能性がある。例えば、特定の感染症は、がん細胞を抑制する免疫系の能力を低下させる可能性がある。NCIの研究者たちが前立腺がんの研究でウイルス曝露歴を検証しており、ほかにも、このアプローチをアフリカでの卵巣がん、食道がん、肝がん、乳がんのスクリーニング研究に適用できないかと検討している研究者がいる。

参考文献
J Liu et al. A Viral Exposure Signature Defines Early Onset of Hepatocellular CarcinomaExit Disclaimer. Cell. June 10, 2020. DOI: 10.1016/j.cell.2020.05.038

翻訳担当者 有田香名美

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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