実験室におけるモデルで、小児脳腫瘍にTAK228+トラメチニブ併用療法は有望

臨床試験の実施を後押しする結果

ジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの研究者らによるヒト細胞およびマウスを用いた実験の結果、低グレードの小児神経膠腫の増殖を低減するために、がん実験薬TAK228(Sapanisertib[サパニセルチブ])と既存の抗がん剤Trametinib[トラメチニブ](販売名:Mekinist[メキニスト])との併用療法が、それぞれの薬剤の単独療法よりも有効である可能性を示す証拠が得られた。低グレード神経膠腫は最も一般的な小児脳腫瘍であり、小児脳腫瘍全体の3分の1を占める。低グレードの小児神経膠腫は、ニューロンを支持して栄養を供給する脳細胞(グリア細胞)から発生する。数十年前の薬剤を用いる現在の標準化学療法は、寿命の延長には概ね有効であるものの、副作用をもたらすことが多く、忍容性が低い。従来の治療を受けた小児の約50%で腫瘍の再増殖が認められることから、より効果的な分子標的療法の必要性が高まっている。

小児の神経膠腫由来の腫瘍細胞株を用いた試験では、TAK228+トラメチニブの併用療法により腫瘍細胞の増殖が停止した。この併用療法によりマウスでは腫瘍体積が減少し、寿命が延長したと研究者らは述べている。また、この併用療法を受けたマウスでは腫瘍への血流も大幅に減少した。これは、この療法により腫瘍の増殖に必要な血液が欠乏することを示唆している。2019年12月にNeuro-Oncology誌電子版に発表されたこの研究は、小児を対象としたTAK228+トラメチニブの臨床試験の実施が有益であることを示唆していると研究者らは付け加えた。

「この併用療法で1+1が3になる可能性があると考えました。結果はそのとおりでした」と、本研究の統括著者でありジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの小児腫瘍内科医であるEric Raabe医学博士は話している。博士はジョンズホプキンス大学医学部の腫瘍学准教授でもある。

低グレードの小児神経膠腫には、哺乳類ラパマイシン標的タンパク複合体1/2(mTORC1/2)とRas/分裂促進物質活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)の2つの細胞シグナル伝達経路の活性化を増強する遺伝子変異が関与していることが以前の研究で明らかになっている、とRaabe博士は述べた。これらの経路は細胞の増殖を促進するタンパク質を活性化させる。成人がん患者を対象とした臨床試験が進行中のTAK228(Sapanisertib)はmTOR経路を阻害し、黒色腫治療の承認薬であるトラメチニブはMAPK経路を阻害する。Raabe博士らのチームがいずれかの経路を標的とする1つの薬剤のみで腫瘍または細胞を処理したところ、がん細胞は他方の経路を使って生存できたと同博士は述べた。

今回の研究でRaabe博士らは、研究室で培養した低グレード小児神経膠腫患者由来の細胞株でTAK228+トラメチニブを試験した。これら2つの薬剤を併用することで腫瘍細胞の増殖が50%低下した。また、この併用療法により、mTORおよびMAPKの両シグナル伝達経路の活性が50%超抑制され、細胞増殖が90%超低下した。この併用療法は低グレード小児神経膠腫細胞の一部を死滅させた。死滅細胞は、いずれかの薬剤のみの場合に比較してほぼ3倍に増加した。

研究者らは次にヒトの低グレード神経膠腫を移植したマウスにTAK228、トラメチニブ、これら2剤の併用、またはプラセボを投与した。単剤療法を受けたマウスの生存期間は12日間であったのに対して、併用療法を受けたマウスではその3倍の36日間であった。単剤療法に比較して併用療法で治療した腫瘍は、投与期間2週間の平均で50%小さかった。この動物モデルにおける併用療法ではmTOR経路およびMAPK経路が80%超抑制された。腫瘍における増殖細胞数は60%超減少した。腫瘍への血流も50%~95%減少した。

Raabe博士は、最良かつ最も安全な投与法を決定するためにさらなる非臨床研究を実施しなければならないと警告している。その理由の1つは、体内に4~5日間留まるトラメチニブの標的となるMAPK経路は、小児の健常細胞が正常に増殖するために必要だからである。また、併用療法を受けたマウスは単剤療法を受けたマウスほどには成長しなかった。したがって、投与スケジュールを小児向けにカスタマイズする必要があると博士は述べた。現在TAK228は成人を対象とした臨床試験が進行中であり、小児脳腫瘍を対象としたTAK228の初期臨床試験が検討されているとRaabe博士は話した。

本研究の共著者は、ジョンズホプキンスのAntje Arnold、Ming Yuan、Antionette Price、Lauren Harris、およびCharles G. Eberhartである。

本研究は、Imagine an Answer Foundation、Alex’s Lemonade Stand Foundation、Giant Food Foundation、およびシドニー・キンメル総合がんセンターへの米国国立がん研究所助成金の支援を受けた。

翻訳担当者 角坂 功

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター 脳神経外科)

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