膠芽腫の研究で脳腫瘍の性差が明らかに

男性では女性よりも膠芽腫と呼ばれる悪性度の高い脳腫瘍が発生する可能性が高いことは、研究者の間では数十年間にわたって定説となっている。女性が男性よりもこの疾患の標準治療に対する反応が良好な傾向にあるというエビデンスもある。

これらの性差の原因は明らかになっていない。しかし、新しい研究では、膠芽腫の女性と男性で治療に対する反応が異なると見てとれるエビデンスがさらに示され、この差異の一因である可能性がある生物学的要因が特定されている。

この研究では、セントルイスのワシントン大学医学部の研究者らが、MRIの結果、腫瘍のゲノムプロファイル、および膠芽腫の男性と女性の生存に関する情報を解析した。

これらのデータを用いることで、男性と女性における腫瘍の分子プロファイルが異なることを明らかにし、これらのプロファイルが生存期間の差異に関与していることを示した。 結果はScience Translational Medicine誌の1月2日号に掲載された。

「これらの知見および生物学における性特異的な差異の重要性に関するデータの増加は、性差を検出するには研究が適切に設計されていることを確保する必要があることを示唆しています」と、共同研究代表者であるワシントン大学のJoshua Rubin医学博士は述べている。

膠芽腫および他の脳腫瘍の発生率における実質上の性差が、研究者の間では数十年間にわたって定説となっているにもかかわらず、大規模な解析を実施しているほとんどの研究者らが男女の患者データを混合し続けてきたと、Rubin博士は付け加えた。

今後の膠芽腫の研究において、雄性細胞および雌性細胞、動物、ならびに患者に対して並行解析および個別解析を実施するべきであると、共同研究代表者であるワシントン大学のJingqin “Rosy” Luo博士も述べた。

性差の生物学

一部のがんを含む多くの疾患が、男性と女性において異なる頻度で発生する、または患者の性別によって異なる症状を引き起こす。 これらの差異は、テストステロンやエストロゲンなどの性ホルモンに関連していることが多く、男女間の多くの生物学的差異の一因となる。

しかし、男性では小児期を含むすべての年齢で女性よりも悪性脳腫瘍が発生する可能性が高い。 これは、その差異が循環しているホルモンの影響だけでは説明できないことを示唆している。

「幼児と若年成人、ならびに閉経後成人でがんに性差が見られるという事実は、循環しているホルモンがその差異の原因ではないことを意味しています」と、Rubin博士は述べている。

循環しているホルモンが疾患に影響を与える場合、ホルモン濃度に対応して疾患の発生頻度と重症度が変化する、と彼は続けた。「大部分のがんにおける性差が、これに当てはまるわけではありません」。

脳腫瘍の増殖と広がりの追跡

今回の研究は、「男性と女性の間、および少年と少女の間で、膠芽腫の発生率には大きな差異がある」という臨床観察から生まれたと、Rubin博士は述べた。 概して男性では女性よりも膠芽腫が発生する可能性が60%高い。

この研究では最初に、膠芽腫の治療を受けた63人(男性40人、女性23人)の成人のMRIスキャンと生存データを解析した。患者らは外科的手術を受け、続いて化学療法と放射線療法を受けた。

この解析では、メイヨークリニックの数理腫瘍学者であるKristin Swanson博士らの研究者が、MRIスキャンと計算モデルを用いて、腫瘍増殖速度と呼ばれる複合的な測定方法で、治療中の腫瘍の増殖と広がりを評価した。

初期の腫瘍増殖速度は女性と男性で同様であったが、膠芽腫の治療によく用いられている化学療法薬テモゾロマイド(テモダール)による治療の後、女性でのみ腫瘍増殖が顕著に低下していたことが明らかになった。

「MRI検査により、膠芽腫の標準治療が男性よりも女性に対して有効であることが示されました」と、同研究には参加していないNCIのがん生物学部門のKonstantin Salnikow博士は述べた。

「(膠芽腫の)発生率の性差が既に実証され、転帰に差があることが明らかになっているにもかかわらず、分子レベルでの男性と女性の膠芽腫の鑑別、またはこれらの生物学的差異の特異的標的化を可能にする洞察がほとんどありません」と、Salnikow博士は続けた。

男性と女性という視点での膠芽腫腫瘍のプロファイリング

治療反応におけるこの性差の分子的機序を調べることを目的に、The Cancer Genome Atlas(TCGA)に含まれる膠芽腫腫瘍の遺伝子発現データを解析した。

大部分の遺伝子が、男性と女性の膠芽腫腫瘍において同様に発現していた。しかし、異なって発現した遺伝子に着目することにより、膠芽腫の患者を男性で5個、女性で5個のグループ、すなわちクラスターに分けられることがわかった。複数の独立したデータセットを解析することにより、これらのクラスターを検証した。

これらのクラスターで差次的に発現した遺伝子の解析により、「男性の生存期間は、主に細胞分裂を調節する遺伝子によって決定される」ことが明らかになったと、Rubin博士は述べた。女性の生存期間については、インテグリンと呼ばれる遺伝子の発現に関与しているシグナル伝達経路が最も重要で、腫瘍の広がりに関与していると、付け加えた。

この研究において、女性については、腫瘍でインテグリンシグナル伝達関連遺伝子の発現が低い女性が診断後平均して3年をわずかに超えた生存期間であったのに対し、別の分子プロファイルを有する腫瘍の女性では1年強の生存期間であった。

男性については、腫瘍の細胞周期シグナル伝達関連遺伝子の発現が低い患者が平均して18ヶ月以上の生存期間であったのに対し、他の腫瘍プロファイルの男性では1年強の生存期間であった。

これらの遺伝子特性の臨床的関連性を調査することを目的に、一連の男性と女性の患者から採取された膠芽腫細胞株のパネルで4種類の化学療法に曝露する実験を実施した。

また、この解析は、男性における細胞周期特性と生存期間延長との間、および女性におけるインテグリンの特性と生存期間延長との間の関連性を明らかにした。

IDH1遺伝子の変異に着目

研究者らはまた、IDH1と呼ばれる遺伝子も解析した。これは突然変異した場合に、膠芽腫の重要なドライバー変異となると考えられている。

これまでの研究では、IDH1変異は膠芽腫の良好な転帰と関連していた。 しかし、現在の研究では、IDH1変異型腫瘍を有する女性はすべて生存期間が最も良好なクラスターに属していたが、男性では、IDH1変異型腫瘍がすべてのクラスターに分布していた。

「この研究において、これは非常に興味深い結果でした」と、Rubin博士は述べた。「女性の最も長期生存のクラスターは、IDH1変異が膠芽腫の良好な生存期間に関与しているという現在の考えに一致していました。しかし、男性のクラスターではそうではありませんでした」。

この結果は、IDH1変異が膠芽腫の生存期間に性特異的な影響を与える可能性があることを示唆している、と付け加えた。

性差に関する認識の向上

「がんの性差は研究が進んでいない分野であり、これらの研究の多くは、精密医療や個別化医療としてよく知られる分野を進展させる上でも必要です」と、Salnikow博士は述べ、現在の研究結果がさらに大規模な研究によって再現されるべきであると言及した。

研究者らはこの疾患を引き起こす分子変化の同定によって、がんについて多くを学ぶことができると、同研究には参加していない、がん生物学部門のNastaran Zahir博士は述べた。

「性差の文脈でこれらの分子変化を調べ、計算モデル化手法を用いることで、例えば治療に反応する、または疾患の進行が認められる可能性がある患者を予測する能力を向上させることができます」と、Zahir博士は付け加えた。

Rubin博士は、医師がこのアプローチを臨床に取り入れることを可能にするには、膠芽腫の性差についての研究をさらに行う必要があると警告した。彼は、現在の研究がこの分野の研究を続行する必要性についての認識を向上させることを期待している。

「膠芽腫のどの側面を見ても、性特異的な差異が認められます」と、同博士は述べている。「私たちがさらに学んでいけば、将来的に膠芽腫の治療を性特異的な方法で行うことが必要となる可能性を想像することになるはずです」。

翻訳担当者 会津麻美

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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