脳腫瘍の治療現場を変えるテモゾロミドの試験結果

今週、シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO) 年次総会で、2つの大規模臨床試験の結果が発表された。この結果を受けて脳腫瘍患者の標準治療が変わるとみられる。

両試験は、放射線治療に化学療法薬テモゾロミド(*テモゾロマイドも同じ。商品名:テモダール)を併用することで、患者の全生存期間と無増悪生存期間をどのくらい延長するかを示した。試験担当医と脳腫瘍指導的研究者らは、これらの試験結果により標準治療が変更となるという意見で一致した。

「両試験は、生存率の改善に加え、あるグループの脳腫瘍患者にモゾロミドを投与することは有益か、という重要な問題を解決した、この領域では重要な試験である」とNCI 神経腫瘍科部長のMark Gilbert医師は述べた。

高齢膠芽腫患者の生存率を改善

試験のひとつは、もっとも悪性度の高い脳腫瘍の一つである膠芽腫の患者を対象に、放射線治療に化学療法薬テモゾロミドを併用するレジメンを評価した。本試験は65歳以上の患者を対象に、カナダがん臨床試験グループ(CCTG)主導で行われた。

65歳以上は重要な患者群である、と、本試験の責任医師でトロントにあるSunnybrook Research InstituteのJames Perry医師は述べた。膠芽腫と診断される年齢のピークは64歳である。この疾患の全発生率は近年徐々に上昇している。2005年の枢要な試験では、テモゾロミドにより膠芽腫患者の生存期間がどのくらい延長される可能性があるのかが示された。しかし、試験対象は70歳未満〔*原文ママ〕に限定されており、試験に含まれた65歳以上の患者数は非常に限られていた、とPerry氏。

化学療法による重篤な副作用が懸念されたことから、70歳以上〔*原文ママ〕の患者に対しては放射線単独療法が標準治療であった、とGilbert医師は説明した。「事実、若年層に対して化学療法を併用する場合の放射線コースは、6週間が標準であるが、高齢者においてはより短い2、3週間または4週間に短縮して行われる場合が多い」。

今回のCCTGの臨床試験では、65歳以上の膠芽腫患者560人以上が、放射線単独短縮コース群かあるいは放射線テモゾロミド併用群にランダムに割り付けられた。テモゾロミド併用群では放射線との同時併用(concurrent)を行い、放射線終了後に補助化学療法(adjuvant)を12クール行った。

全生存期間中央値は放射線テモゾロミド併用群で9.3カ月、放射線単独群で7.6カ月であった。また放射線とテモゾロミドの併用は無増悪生存期間もわずかに延長した。

1年生存率と2年生存率は、テモゾロミド併用群でそれぞれ37.8%および10.4%、一方、放射線単独群では22.2%および2.8%であった。

また、研究者らはテモゾロミドの併用により、特に利益を得られる患者群を特定した。それは腫瘍にMGMT 遺伝子変異が発現している患者である。 プロモーターのメチル化で知られるMGMT 遺伝子変異のある患者の全生存期間は13.5カ月であった。一方、MGMT 遺伝子変異のある患者のうち、放射線単独治療を受けた患者の全生存期間は7.7カ月であった。

これは必ずしも驚く結果ではない、とPerry医師は記している。過去の試験から、膠芽腫におけるMGMT プロモーターのメチル化は、予後改善と化学療法に対する良好な反応性に関連することが確認されている。膠芽腫患者の約46%にMGMT プロモーターのメチル化が認められ、その割合は診断時の年齢に関わらず一定である、と氏は述べた。

腫瘍のMGMT プロモーターがメチル化された患者では、テモゾロミドの投与が明らかにより有効であったが、「驚くべきことは、メチル化されていない患者に対しても臨床的効果を示したことだ」。放射線にテモゾロミドを追加しても治療に伴う毒性は増強されなかった。事実、「ほとんどの患者は問題なく治療計画を完了することができた」とPerry医師は述べた。

まれな脳腫瘍の生存率が改善

別のCATNON と呼ばれる臨床試験には、悪性度の低いまれなタイプの退形成性神経膠腫が含まれた。これは米国で毎年1,200~1,500症例のみが診断されるまれな疾患である。臨床試験には1p/19q共欠失のない患者だけが登録された。1番と19番染色体の分子変化は、悪性度の低い神経膠腫の一種である退形成性乏突起神経膠腫によくみられる。

1p/19q共欠失を有する患者は、この変異のない患者に比べて予後良好で化学療法による奏効率も高い、と本試験の責任医師であるオランダのエラスムス大学がんセンターMartin van den Bent医師 は述べた。

1p/19q共欠失のない患者に対する新しい治療選択肢が必要とされたため、CATNON試験はこの患者群を対象に、放射線標準療法とテモゾロミドを併用する有益性を確認する目的でデザインされた、とも述べた。

本試験は欧州がん研究治療機関(EORTC)指導で実施され、世界約120施設で行われた。約750人の患者が登録され、以下の4群にランダムに割り付けられた。

1.放射線単独

2.テモゾロミド放射線同時併用

3.放射線後+テモゾロミド維持療法

4.テモゾロミド放射線同時併用後+テモゾロミド維持療法

5年生存率はテモゾロミド維持療法群(3、4群)で56%であったのに対し、維持療法のない群(1、2群)では44%であった。無増悪生存期間はテモゾロミド維持療法群で約2倍延長し42.8カ月であったのに対し、維持療法のない群では19カ月であった。

膠芽腫腫患者にテモゾロミドを投与すると生存期間の延長が示されたことから、腫瘍内科医は既に退形成性神経膠腫患者にこの治療を勧めている、とダナファーバーがん研究所神経腫瘍学センターのBrian Alexander医師は述べた。起こりうる副作用の観点から、テモゾロミドをこれらの患者に投与することは想定外ではない。「テモゾロミドには多少の毒性はあるが概ね忍容性は良好であった」と述べた。

この2つの臨床試験がASCOで発表されれば、「CATNON試験は最大のインパクトを与えるでしょう。なぜならば、1p/19q染色体欠失のない退形成性神経膠腫患者に対する維持化学療法の役割について、根本的に問題を解決したからです」と Gilbert医師は述べた。

van den Ben医師と共同研究者は、低悪性度神経膠腫に頻発するIDH1 遺伝子変異を含む他の遺伝子変異の発現と、患者の治療反応性の関連を確認するため、腫瘍サンプルの分子解析を行っている。また、研究者らは放射線単独群とテモゾロミド同時併用群の生存転帰に関して、経過観察を継続中である。

翻訳担当者 武内優子

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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