テモゾロミド+放射線療法が、高齢膠芽腫患者の生存期間延長

プレスリリース

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「膠芽腫は高齢者で多く診断されており、今回の結果は、われわれの提供する最高の治療法が高齢患者に対し、効果的で忍容性を示す可能性があることを明らかにした重要なデータです」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)脳腫瘍専門委員Brian Alexander医師(公衆衛生学修士)は述べている。「医師と患者はこの治療法の利益を慎重に比較検討する必要がありますが、プラスの影響があるとわかっている選択肢を患者に提供できるのはうれしいことです」。

 
カナダ主導のランダム化第3相試験において、短期放射線治療の期間中に化学療法剤テモゾロミド(商品名:テモダール)を追加投与した後、毎月1回テモゾロミド維持量を投与する方法により、高齢の膠芽腫患者の生存率が有意に改善し、死亡リスクが33%低下したことがわかった。

 
今回のデータはASCOの全体会議で発表される。この全体会議は、ASCO年次総会で取り上げられる5,000本以上の抄録の中で、患者ケアに影響を及ぼす可能性が最も高いと思われる抄録4本を取り上げる。

 
本試験は、膠芽腫高齢患者(膠芽腫患者の半数を占める)に対するテモゾロミドと放射線療法の併用を検証する初の試験である。テモゾロミドを投与された患者では副作用がわずかに多くみられたが、全体的な生活の質においては両群で同等であった。

 
Odette Cancer and Sunnybrook Health Sciences Centres(カナダ、トロント)のCrolla Family寄付基金教授(脳腫瘍研究)で、筆頭共著者James R. Perry医師(FRCPC)は次のように述べた。「膠芽腫は高齢患者に偏って発病していますが、これらの患者治療に関する明確なガイドラインは存在せず、医師が実践する治療法は世界各国で異なります。本試験は、短期放射線治療計画と併用する化学療法が生活の質を損ねることなく生存期間を有意に延長させるという、ランダム化臨床試験による初のエビデンスを提供しています」。

 
試験について

本第3相試験は、欧州がん研究治療機関(EORTC)とTrans-Tasmin Radiation Oncology Group(TROG)の協力を得て、Canadian Cancer Trials Group(CCTG)が主導した国際共同試験である。

 
試験に登録されたのは、新規に膠芽腫と診断された65歳以上の患者562人であった。患者年齢の中央値は73歳であり、患者3分の2は70歳超であった。患者は無作為に、短期放射線治療計画(40グレイ/15分割照射/3週間以上)にテモゾロミドを同時併用ならびに維持療法とで投与した化学放射線療法群、または放射線療法単独群に割り付けられた。

 
主要な研究結果

全生存期間中央値について、化学放射線療法群(放射線療法と化学療法の併用療法)は放射線療法単独群より延長した(9.3カ月対7.6カ月)。また、テモゾロミドを併用した化学放射線療法群は放射線単独療法群よりがんの進行が遅かった(無増悪生存期間の中央値5.3カ月対3.9カ月)。

 
「生存期間の中央値差はわずかにみえますが、テモゾロミド投与群では2年あるいは3年生存する可能性がかなり高まりました。患者にとっては、家族と休日や祝い事を共に過ごす機会が増えるということになります」とPerry医師は述べた。1年生存率および2年生存率を比較すると、化学放射線療法+テモゾロミド投与群で37.8%、10.4%に対し、放射線療法単独群では22.2%、2.8%であった。

 
テモゾロミドは、O6-methylguanine DNA-methyltransferase(MGMT)のプロモーター領域での異常メチル化を有する患者165人で効果がより高かったが、この遺伝子異常が、同疾患の化学療法へのすぐれた奏効と生存延長に関係している。同小集団患者における全生存期間の中央値は、テモゾロミド群で13.5カ月、放射線単独療法群で7.7カ月であった。テモゾロミド群は放射線療法単独群に比べ死亡リスクが47%低かった。

 
標準質問票EORTC QLQ-C30およびBN20を用いて生活の質を分析した結果、2群間において身体機能、認知機能、情緒的機能、社会的機能のいずれにおいても差異は認められなかった。しかし、テモゾロミド群の患者では、放射線療法単独群の患者よりも悪心、嘔吐、便秘が多くみられた。

 
膠芽腫について

膠芽腫は成人に最も多い原発性脳腫瘍であり、がん死因では上位5位に入る。米国では今年、12,120人が膠芽腫の診断を受けると推定される。膠芽腫は主に高齢者に発症し、診断時の平均年齢は64歳である。

 
本試験は、Canadian Cancer Society Research Instituteのから資金提供(補助金#015469、#021039)を受け、Schering-Plough/Merck Inc.社より無制限の助成金提供を受けている。キャンサーリサーチUK(Cancer Research UK)より資金援助を受けた。

 
抄録の全文はこちら(英語)

1http://www.abta.org/about-us/news/brain-tumor-statistics/ Accessed May 16, 2016.

翻訳担当者 岐部幸子

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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原文掲載日 

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