低悪性度脳腫瘍の最善の治療は放射線+化学療法

オハイオ州立大学総合がんセンター

放射線と化学療法の併用による治療を受けた低悪性度の脳腫瘍患者の方が、放射線治療のみを受けた患者よりも、より長く生存できるという結果が新たな臨床試験で示された。

New England Journal of Medicine誌に掲載されたこの試験結果は、グレード(悪性度)2の神経膠腫患者251人が参加したランダム化第3相臨床試験(ClinicalTrials.gov number NCT00003375)に基づいている。神経膠腫とは、主に若年成人に発症し、進行性の神経学的な問題および早期の死を引き起こす腫瘍である。

オハイオ州立大学総合がんセンターArthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute (OSUCCC – James)がこの試験を主導した 。

放射線療法と化学療法を受けた患者の全生存期間は13.3年であったのに対して、放射線療法のみを受けた患者では7.8年であった。放射線+化学療法群では、無増悪生存期間も良好であった(放射線+化学療法では10.4年であるのに対し、放射線のみでは6.1年)。

加えて、腫瘍細胞にIDH1と呼ばれる遺伝子の異常が認められる患者では、治療法に関わらず、異常が認められない患者より全生存期間が有意に良好であった(13.1年対5.1年)。

「これは、日常診療を変えてしまうような試験なのです」と、放射線腫瘍学科長兼教授であり、OSUCCC – Jamesの脳腫瘍プログラムのディレクターであるArnab Chakravarti医師は述べている。Chakravarti氏は、この試験におけるトランスレーショナルリサーチ米国内研究代表者である。

「これらの試験結果は、放射線療法と化学療法を組み合わせたこのレジメンにより、放射線療法のみと比較して、臨床転帰が改善されることを示しているのです」。

Chakravarti氏の研究室は、この試験中、IDH1の予後バイオマーカーとしての妥当性を検証する役割を担った。「さらにデータの傾向から、放射線療法のみと比べて化学療法+放射線療法の方が有益と思われる神経膠腫患者を特定するのに、IDH1が有用な予測バイオマーカーになる可能性があることが示唆されています。この第3相試験から、非常に影響力のある結果が示されています」と彼は述べている。

(予測バイオマーカーは、特定の治療法による患者への効果を予測するのに役立つ。予後バイオマーカーは、受けた治療法に関わらず、生存を予測するのに役立つ。)

「低悪性度の神経膠腫の多くがより致死性の高いグレード3あるいは4の腫瘍へと徐々に進行することから、最も効果的な治療方法を特定することが最良の治療効果を患者にもたらす上で重大な意味を持つのです」と、オハイオ州the Max Morehouse Chair in Cancer Research(Max Morehouseがん研究基金チェア)でもあるChakravarti氏は述べている。

米国における低悪性度の神経膠腫の割合は、全ての腫瘍の1%に満たない。平均生存期間は、腫瘍の構造的、分子的および遺伝的特徴によって異なる。

米国腫瘍放射線治療グループより資金提供を受けたこの試験では、1998年から2002年にかけて患者の登録が行われた。生存患者の追跡期間中央値は、11.9年であった。約半数の患者が放射線治療とプロカルバジン、ロムスチン(CCNUとも呼ばれる)およびビンクリスチンの3つの化学療法剤による治療を受けた。

試験の主な結果:

13.3年対7.8年
放射線+化学療法を受けた患者と放射線のみを受けた患者の全生存期間中央値

10.4年対6.1年
放射線+化学療法を受けた患者と放射線のみを受けた患者の無増悪生存期間中央値

60%対40%
放射線+化学療法を受けた患者と放射線のみを受けた患者の10年時点での全生存率

13.1年対5.1年
治療法に関わらず、腫瘍のIDH1遺伝子に変異が認められた患者と認められなかった患者の全生存期間中央値

最も良好な治療効果が得られた患者
放射線+化学療法を受けた乏突起膠腫患者

この研究は、米国国立衛生研究所/米国国立がん研究所から資金援助を受けた(U10CA21661, U10CA37422, U10CA25224, R01CA108633, 1RC2CA148190, 1R01CA169368, and NRG-BN-TS002)。

この試験の共同研究者は以下の通りである。
Erica H. Bell, PhD, The Ohio State University; Jan C. Buckner, MD, Mayo Clinic, Rochester, MN; Edward G. Shaw, MD, Wake Forest University; Dennis Bullard, MD, Triangle Neurosurgeons, Raleigh; Stephanie L. Pugh, PhD, and Minhee Won, MA, NRG Oncology Statistics and Data Management Center; John H. Suh, MD, Cleveland Clinic; Mark R. Gilbert, MD, and Paul D. Brown, MD, of MD Anderson Cancer Center; Geoffrey R. Barger, MD, and Harold Kim, MD, Wayne State University; Stephen Coons, MD, Barrow Neurological Institute; David Brachman, MD, Arizona Oncology Services Foundation; Peter Ricci, MD, Radiology Imaging Associates, Englewood, CO; Keith Stelzer, MD, Mid-Columbia Medical Center, The Dalles, OR; Christopher J. Schultz, MD, Medical College of Wisconsin; Jean‑Paul Bahary, MD, Centre Hospitalier de l’Université de Montréal, Montreal; Barbara J. Fisher, MD, London Regional Cancer Program, London, ON; Albert D. Murtha, MD, the Cross Cancer Institute, Edmonton, AB; Minesh P. Mehta, MD, University of Maryland; and Walter J. Curran Jr., MD, Emory University

翻訳担当者 田村克代

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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