脳腫瘍の患者に分子標的薬ダブラフェニブが劇的な効果

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~

原文掲載日 :2015年12月3日

乳頭型頭蓋咽頭腫として知られている脳腫瘍のほとんどの症例に、V600Eと呼ばれているBRAF遺伝子の変異がおきていることを、研究者らが昨年報告した。新しいケーススタディにおいて、この疾患の患者は、BRAF変異タンパクを阻害する分子標的薬に劇的な反応を示すことを、研究者らは新たに発表した。

ダブラフェニブ(Tafinlar)という薬剤は、BRAF-変異進行黒色腫患者に対する治療として米国食品医薬品局(FDA)により承認された。患者の使用経験について述べたケーススタディが、JNCI誌に10月23日掲載された。

ダブラフェニブ治療は、腫瘍切除のために4回手術を試みたにもかかわらず再発した、BRAFV600E変異を有する頭蓋咽頭腫の患者の腫瘍を縮小した。MEKとして知られているタンパクを抑制し、BRAF阻害を強化する効果がある薬剤であるトラメチニブ(Mekinist)も患者に投与された。

「これは全身投与による薬物療法が、このタイプの腫瘍に有効であったことを示す初めての報告である」と、試験の共著者である、マサチューセッツ総合病院(MGH)がんセンターのPriscilla Brastianos医師は、プレスリリースの中で述べている。「このことは乳頭型頭蓋咽頭腫の治療に大きな変化をもたらすだろう」。

頭蓋咽頭腫は良性の脳腫瘍ではあるが、腫瘍が増大した時に脳の一部を傷害し、重篤な神経学的問題をもたらす可能性から、この脳腫瘍は悪性であると考えることもできる。腫瘍を手術または放射線療法で治療することは、近隣部位にダメージをもたらす可能性があり、また、これらの腫瘍を完璧に取り除くことは、腫瘍細胞が周囲の組織に癒着している可能性があるために難しい。結果として、腫瘍は再び増大して元の大きさにもどってしまう。

試験で述べられている患者は、中脳構造を圧迫し、脳脊髄液の排出を妨げている、液体に満たされた嚢胞を含んだ腫瘍を取り除くために、初めに手術を受けた。錯乱、視覚障害、重度の頭痛、嘔吐などを含む患者の症状は、腫瘍の一部を外科的に切除した後に改善したが、腫瘍は再び増大した。6週間後、患者はほとんど昏睡状態で同病院に戻ってきた。

再増大した腫瘍を切除した際、腫瘍はBRAFV600E変異を伴う頭蓋咽頭腫であることを、医師が確認した。ちょうど2週間後、医師が放射線療法を開始しようとしていたが、患者の腫瘍は増大しており、予定外の緊急手術をすることになった。7週間後、患者は進行性の視力低下で病院に再入院し、腫瘍は再び拡大していた。

この時点で、医師はダブラフェニブによる治療を開始した。治療4日後、患者の腫瘍は23%縮小し、17日後には腫瘍は、治療前の半分以下のサイズとなり、腫瘍の周りの嚢胞は70%小さくなった。

治療21日目、医師はトラメチニブを追加投与した。35日目、腫瘍および嚢胞は、治療前の大きさに比べ80%以上縮小していた。3日後、医師は内視鏡手術を用いて、到達可能な腫瘍組織を切除した。

1週間後、患者は薬剤の服用を中止し、その後すぐ放射線療法を行った。発表時点において、患者は最後の治療から1年以上、症状が認められていない。

試験の他の調査結果として、治療経過中、さまざまなタイミングで採取した血液サンプルにおけるBRAF V600E変異があげられた。この調査結果は「この変異を診断し、手術前にこれらの腫瘍を分子標的薬で縮小し、手術による切除をより安全に、また、一部の患者においては手術切除も必要としなくなるのではないか、という希望をもたらすだろう」と共著者であるMGH神経外科William Curry.Jr医師はプレスリリースで述べている。

他の研究者グループが、6月末に、再発乳頭型頭蓋咽頭腫の患者が、他のBRAF阻害剤、ベムラフェニブに「明白な」反応を示したと報告している。この調査結果は「BRAFV600E変異がこのような患者において病的な意義がある特徴であることを示すエビデンス」を裏付けることになると研究者らは結論付けている。

↓画像の翻訳↓

『頭蓋咽頭腫は視床下部、脳下垂体、視神経、脳幹を含む脳の部位にダメージを与える可能性があり、重篤な神経学的問題の原因となる。』

原文

翻訳担当者 古屋 知恵

監修 寺島 慶太 (国立成育医療研究センター、小児がんセンター)

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