FDAがBRAF変異陽性小児低悪性度神経膠腫にトボラフェニブ承認
米国食品医薬品局(FDA)は4月23日、脳腫瘍の一種である低悪性度神経膠腫があり、BRAFと呼ばれる遺伝子に変異がある生後6カ月以上の小児を対象としてトボラフェニブ[tovorafenib](Ojemda)に迅速承認を与えた。
この承認は、手術で完全に除去できない腫瘍、または手術後に再発した腫瘍に適用される。トボラフェニブ投与を受ける小児は、手術後に化学療法などの全身治療をすでに1回受けている必要がある。
腫瘍細胞内で変異BRAFおよび関連遺伝子を標的とする2つの薬剤ダブラフェニブ(販売名:タフィンラー)とトラメチニブ(販売名:メキニスト)の併用は昨年、同様の承認を受けている。しかし、この薬剤併用は、再配列(遺伝子の一部が入れ替わる)や、融合(他の遺伝子の一部とくっつく)と呼ばれるBRAF遺伝子変異のある腫瘍の治療には使用されない。
融合は、低悪性度神経膠腫の小児および10代患者でみられるBRAF変化としては最も多いと、今回の承認の基礎となった研究主導者であるLindsay Kilburn医師(国立小児病院)は述べる。そのため、融合BRAFを標的としないダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法は、治療が必要な多くの小児に使用することができないと同医師は言う。
トボラフェニブは、特定のBRAF融合や、変異など他の遺伝子変化を有するがん細胞を標的とすることができる。迅速承認につながった77人参加試験はFIREFLY-1と呼ばれ、トボラフェニブ治療を受けた小児のほぼ70%で腫瘍が縮小または完全に消失した。
これらの腫瘍の多くは、2023年11月に本研究の初回結果が発表された時点でも、1年以上縮小したままか、再発しなかった。
Kilburn医師によれば、臨床試験参加者の腫瘍増殖の抑制がどの程度の期間続くかは今も追跡調査中である。「しかし、今のところ1年、2年と効果が持続しているのをみると、実に期待できます」。
低悪性度だが、しつこい脳腫瘍
一見したところ、小児に最も多い脳腫瘍である低悪性度神経膠腫は、一部の他の脳腫瘍ほど進行性ではないと、Sadhana Jackson医師(NCI小児腫瘍部門)は言う。同医師は、本研究には関与していない。
例えば、急速に脳組織に浸潤する膠芽腫とは異なり、低悪性度神経膠腫はゆっくりと増殖し、大きくなるにつれて近傍の脳の部分を圧迫してダメージを与える。
低悪性度神経膠腫の中には、脳内の位置によっては手術だけで治癒するものもある。しかし、脳内の敏感な構造に隣接している場合は、完全に取り除くことができないこともある、とJackson医師は説明する。
「低悪性度神経膠腫の問題点は、手術で完全に取り除いたように見えても、再び増殖するものがあるということです」。
現在、腫瘍を完全に除去できなかったり、手術後に再発したりした小児のほとんどは、化学療法を受ける。場合によっては、化学療法は腫瘍の増殖を長期間止めることができる。しかし、使用される薬剤にはかなりの副作用があるうえ、化学療法の投与には定期的な通院が必要である、とJackson医師は指摘した。
対照的に、トボラフェニブは錠剤または液剤で週1回自宅で服用する。
「低悪性度神経膠腫は小児期を通して持続する慢性疾患であることが多いので、子どもたちは複数の治療を始めては中止することの繰り返しになることが多い」とKilburn医師は言う。週1回、自宅で服用できる治療法ができたことは、QOL(生活の質)の観点からも素晴らしい進歩です」とも話した。
数カ月から数年にわたり腫瘍の増殖を抑止
トボラフェニブは、NCIのSmall Business Innovation Researchプログラムから資金を得て、Sunesis Pharmaceuticalsという会社が最初に開発した。この薬剤は後にDay One Biopharmaceuticals社によって買収され、同社はFIREFLY-1試験に資金を提供した。
FIREFLY-1試験では、生後6カ月から25歳までの参加者に対して、週1回投与4週を1サイクルとして、効果があると思われる期間この薬剤を投与した。試験参加者の多くは、すでに他のBRAF標的薬を含む複数の治療を受けていた。
本試験の主な評価項目は腫瘍の縮小であったが、腫瘍の大きさに大きな変化がなくても、症状の数や重症度が軽減していれば治療を継続可能としたとKilburn博士は説明した。
2年後、参加者はトボラフェニブの投与を継続するか、長期中断する(休薬)かを選択した。腫瘍が再び増殖し始めたら、トボラフェニブを再開することも選択できた。
昨年11月にFIREFLY-1の初期結果が発表された時点で、参加者はトボラフェニブを中央値で約16カ月間服用しており、3分の2はまだ服用を続けていた。
腫瘍がBRAF融合型であった小児の約70%、腫瘍がV600と呼ばれるBRAF変異型であった小児の50%は、少なくとも腫瘍の大きさに測定可能な縮小がみられた。全体として、腫瘍が縮小した46人の小児のうち、12人は腫瘍が完全に消失した(完全奏効)。
これらの腫瘍奏効の多くは長期間持続した。初回研究データが発表された時点で、すでに2年近く持続しているものもあった。参加者は、治療に対する反応がどの程度維持されるかを確認するため、現在も経過観察を受けている。
最も多くみられた副作用は、毛色変化、貧血(赤血球の減少)、腎障害の初期徴候である可能性がある血液バイオマーカーの変化、ひどい発疹などの皮膚障害であった。ほとんどの副作用は対処可能であると考えられたが、9人の参加者は副作用がひどすぎたため、早期に治療を中止した。
研究者らはまた、トボラフェニブによる治療中に小児の身長が伸びにくくなったことを指摘した。
低悪性度神経膠腫を含む脳腫瘍自体も成長遅延を引き起こすことがあるとKilburn医師は述べ、必ずしもトボラフェニブの副作用とは言えない。そこで、FIREFLY-1参加者を対象として、トボラフェニブ治療終了時に正常な成長が再開するかどうか、また治療が成長に長期的な影響を及ぼすかどうかを追跡調査する予定である。
すべての全身治療には副作用があるが、腫瘍が進行し続ける場合には、治療によるメリットが、腫瘍によるデメリットを上回る可能性があると子どもとその家族に理解してもらうことが大切であるとJackson医師は言う。
しかし、これらの副作用の中には永続的なものもあり、「このような子どもたちに対する[生涯にわたる]サバイバーシップケアの重要性が浮き彫りになります」とも述べた。
使える手段が増えた
FIREFLY-1の有望な結果に基づき、FIREFLY-2と呼ばれる大規模ランダム化臨床試験が開始され、BRAF、または、いくつかの関連遺伝子に融合、再配列または変異を有する低悪性度神経膠腫の小児に対する初回治療として、トボラフェニブを化学療法と比較している。
別の臨床試験では、腫瘍にBRAF変異があるかどうかにかかわらず、低悪性度神経膠腫の小児患者に対する手術後の初回治療として、標的治療薬セルメチニブ(コセルゴ)を化学療法と比較している。セルメチニブは、MEKと呼ばれるタンパク質の活性を阻害する。MEKは、変異型BRAFタンパク質と同様に神経膠腫細胞の成長を促進する情報伝達ネットワークの一部である。
Kilburn医師は、「これらの臨床試験はいずれも、これらの標的療法が早期に治療に組み入れ可能かどうかを判断する上で本当に重要になるでしょう」と述べた。
「10年前までは、これらの腫瘍は遺伝子変化があると分かっていながら、それを直接標的とする治療はありませんでした」と Jackson医師は言う。「トボラフェニブの承認は、小児にとって素晴らしいことで、 私たちが使える手段が増えたことも素晴らしい」。
- 監訳 夏目敦至(脳腫瘍、がんゲノム)/河村病院 脳神経外科
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/05/28
この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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