脳転移癌における外科手術あるいは放射線手術後の全脳照射の試験による評価

キャンサーコンサルタンツ

第3相ランダム化試験の結果は、外科手術あるいは放射線手術による3個以下の脳転移の除去後の全脳照射療法(WBRT)は全生存あるいは機能的自立の継続期間を改善はしないものの、脳転移の再発は軽減することを示している。これらの知見は、最近のJournal of Clinical Oncology誌上に掲載された。[1]

脳は様々な癌種の転移が頻繁に見られる部位である。数十年間、WBRTは脳転移を持つ患者に対しての標準治療であった。しかし、研究者らがさらに正確な癌部位への放射線照射を開発したことにより、癌部への放射線照射がさらに可能となり、周囲の組織は放射線の副作用を受けにくくなっている。定位手術的照射(SRS)は、癌へ直接的な三次元的放射線照射を行う。近年では、WBRTと併用したSRSは、WBRT単独より延命効果が高いことが示されている。SRSあるいは脳転移部分の除去にWBRTを追加した場合のリスクおよびベネフィットについては明らかでなく、研究は継続中である。

今回の第3相ランダム化試験において、研究者らは、脳転移がありSRSあるいは脳転移部分の外科的完全切除を受けた患者へのWBRT追加が有益かどうかの評価を行った。特に研究者らは、WBRTの有無が、脳再発率の改善による認知機能の改善期間を延長するかを確かめることに着目した。本試験に登録された患者らは、小細胞肺癌を除いた固形腫瘍から脳へ3個以下の転移が認められ、パフォーマンスステータスが0−2で以下に当てはまると考えられた。

•無症状および通常の活動を全て行うことができる(パフォーマンスステータス0)
•症状があるか、あるいは激しい活動は制限されるが軽度な活動は行うことができる(パフォーマンスステータス1)
•症状があるか、あるいは労働はできなくとも、日中の50%以上は起居していられる(パフォーマンスステータス2)

SRSあるいは外科手術による脳転移部の除去後に、359例の患者がランダムにWBRTを受ける群と観察のみを行う群に割りつけられ、患者のパフォーマンスステータスが2より悪化するのに要する期間を判定するためモニターされた。

•観察群に割りつけられた患者において、パフォーマンスステータスが2を超えるまでに要する期間の中央値は10.0カ月。
•WBRT群に割りつけられた患者において、パフォーマンスステータスが2を超えるまでに要する期間の中央値は9.5カ月。
•試験を受けた両群とも全生存は同等であった。
•WBRTは脳転移の再発率をほぼ80%からおよそ50%まで減少させた。
•脳転移の進行により死亡した患者は、観察群で44%、WBRT群では28%であった。

研究者らは、SRSあるいは3個以下の脳転移部の除去手術後のWBRTは、全生存またはパフォーマンスステータス悪化までの持続時間を改善はしないが、WBRTは脳転移による死亡および脳転移の再発に対し大きな影響を及ぼすと結論づけた。

参考文献:
[1] Kocher M, Soffietti R, Abacioglu U, et al. Adjuvant whole-brain radiotherapy versus observation after radiosurgery or surgical resection of one to three cerebral metastases: Results of the EORTC 22952-26001 Study. Journal of Clinical Oncology [early online publication]. November 1, 2010.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 滝川俊和

監修 平 栄(放射線腫瘍科/武蔵村山病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

脳腫瘍に関連する記事

髄膜腫の治療選択に遺伝子シグネチャーが役立つ可能性の画像

髄膜腫の治療選択に遺伝子シグネチャーが役立つ可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ物事を見かけで判断してはならない。腫瘍も顕微鏡で見た細胞の様子だけでは判断できないことが、次第にわかってきている。

成人の原発性脳腫瘍の中で最...
膠芽腫に対する効率的な第2相アダプティブ(適応型)臨床試験の画像

膠芽腫に対する効率的な第2相アダプティブ(適応型)臨床試験

ダナファーバーがん研究所膠芽腫の新たな治療法を見出すことを目的とした革新的な第2相臨床試験が、ダナファーバーがん研究所の主導のもと、全米の脳腫瘍センター主要10施設との協力で行なわれ、...
ベムラフェニブとコビメチニブの併用は稀少な頭蓋咽頭腫の治療に有効の画像

ベムラフェニブとコビメチニブの併用は稀少な頭蓋咽頭腫の治療に有効

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ稀少であるが致命的な、乳頭型頭蓋咽頭腫と呼ばれる脳腫瘍の患者の有効な新治療の選択肢が、小規模な臨床試験の結果を受けて間もなく登場する可能性が...
ボラシデニブは一部の低悪性度神経膠腫に有望の画像

ボラシデニブは一部の低悪性度神経膠腫に有望

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ脳腫瘍患者のために特別に開発された初の標的薬が、低悪性度神経膠腫と呼ばれる腫瘍の治療薬として有望であることが示された。

大規模臨床試験において...