Ficlatuzumabと化学療法の併用は再発難治性の白血病(AML)に有望

治験薬であるficlatuzumab[フィクラツズマブ]と化学療法との併用療法が、再発難治性の急性骨髄性白血病(AML)患者において臨床的有効性の徴候がみられたという結果が、米国がん学会誌であるBlood Cancer Discoveryに掲載された。

「急性骨髄性白血病(AML)患者のうち、病状を長期にわたりコントロールができる人は約半数に過ぎない」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の臨床医学教授であり、本研究の統括著者であるCharalambos Andreadis医師は述べた。「初期治療に効果がないまたは再発したAML患者は転帰不良で、通常、次に多剤併用化学療法を受けます。しかしこのような患者には成功率が低く毒性の高い治療法です」と同氏は続けた。

「残念ながら、がんが再発したり初期治療に効果を示さなかった患者は予後不良です。その後多剤併用化学療法に効果を示す患者は30~40%に過ぎず、長期寛解を維持する患者はさらに少ない。大半の患者が最終的には病に屈してしまいます」と述べた。

近年、AMLに特異的な遺伝子変異を標的とした新しい治療法が開発されている。しかしこれらの治療法は一部の患者を対象としたものであり、新たに適用範囲の広い治療法が必要なことを強く表しているとAndreadis氏は述べた。

Andreadis氏ら、再発難治性のAML患者を対象に、単剤化学療法と併用して、共通の化学経路を標的とする治験薬の安全性と有効性を評価した。治験薬である ficlatuzumabは、この種の薬剤で初となるモノクローナル抗体であり、細胞外の肝細胞増殖因子(HGF)と結合し、HGFがMETのシグナル伝達を活性化させて腫瘍の増殖を促進させることを防ぐ。「従来のがん標的治療薬とは異なり、ficlatuzumabはがん特有の遺伝子変異ではなく細胞外因子を標的としています」とAndreadis氏は述べ、難治性AML患者の中には血中のHGFレベルが高い患者がいることを加えた。

第1相臨床試験では、治療後に再燃、または治療から12カ月以内に再発したAMLの成人患者17人を登録した。患者には化学療法剤であるシタラビンとともに、ficlatuzumabを14日間隔で4回投与した。

17人中9人(53%)が完全奏効し、奏効した患者のうち4人は微小残存病変の徴候がみられなかった。奏効した患者のうち、無増悪生存期間は31.2カ月で、全生存期間は中央値に到達しなかった。患者10人(奏効者8人、非奏効者2人)が同種造血細胞移植に進み、うち6人は直近の追跡調査で寛解状態を維持していた。

最も多かった有害事象は発熱性好中球減少症であった。重篤な有害事象が2人、治験とは無関係の死亡が1人発生した。

「過去の標準治療の奏効率が30%台であったことを考えると、53%の奏効率は素晴らしい結果です」と、Andreadis氏は述べた。「これらの結果は、より大規模な試験で検証する必要があります。一方で再発難治性AML患者においてficlatuzumabと単剤化学療法を併用することで、より少ない毒性で良好な効果が得られる可能性を示唆しています」と同氏は続けた。

Andreadis氏らは、治療効果に関連した分子変化を明らかにするため、ベースライン時と治療開始後数回にわたり採取した末梢血単核細胞を解析した。その結果、ficlatuzumabの投与により、HGF受容体であるMETのリン酸化が減弱したことから、HGFを標的として阻害することが確認された。また、当剤投与による臨床効果は、S6タンパク質のリン酸化の低下、骨髄および白血球の活性化に関与する遺伝子発現の増加と関連があった。一方奏効しなかった患者においては、HGFの発現の増加、S6タンパク質のリン酸化の上昇、およびタンパク質翻訳、細胞接着、1型インターフェロンのシグナル伝達に関与する遺伝子発現に増加の傾向が強くみられた。

「われわれは最先端の単一細胞マスサイトメトリーとRNAシーケンシングを用いて治療前と治療後の血液サンプルを比較し、ficlatuzumabがHGFシグナル伝達をうまく抑制することを確認しました。また治療効果と治療抵抗性のバイオマーカーも同定しました。このアプローチにより、治療で生じる分子変化に関する新たな知見を得ました。また治療効果の追跡または治療効果が期待できる患者の特定に、臨床的意義をもたらすでしょう」と、本研究の筆頭著者であり、UCSFの血液・腫瘍学の助教であるVictoria Wang医学博士は述べた。

「われわれの知見からまとめると、細胞外因子を標的として既存のがん治療と併用することで、AML治療の有効な治療方針になることが示唆されます」とAndreadis氏は述べています。

本研究は、少人数の被験者を対象としたものであり、単一群(対照群なし)のデザインのため制限がある。また有効性よりもむしろ安全性と投与量の評価を目的としてデザインされているため、有効性の知見を検証するための追加試験が必要であると、Andreadis氏とWang氏は指摘した。ficlatuzumabと化学療法の併用を評価する第2相臨床試験は開始されている。また、遺伝子発現解析に対しては骨髄標本が不足しており研究結果にはさらなる制限があった。

本研究は、米国国立がん研究所(NCI)、Damon Runyon Postdoctoral Award、American Society for Clinical Oncology Young Investigator Award、米国国防総省、Gateway for Cancer Grantの支援を受けて実施されました。Andreadis氏とWang氏は、利益相反のないことを表明しています。

翻訳担当者 原久美子

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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