ASH2018 、白血病・リンパ腫治療の臨床試験結果

白血病・リンパ腫患者に対する免疫療法および試験的な分子標的薬の臨床試験の新たな結果を、ダナファーバーがん研究所の研究者らが米国血液学会(12月1~4日)で報告している。

ここでは3つの発表について概説する。その中の1つは、CAR-T細胞療法について、臨床試験での転帰と実臨床の「リアルワールドデータ(臨床試験ではない、実際の診療データ)」における転帰を比較した。

CAR-T細胞療法は臨床試験以外でもリンパ腫患者に持続的な効果あり

「リアルワールドデータ」でCAR-T細胞製品Yescarta[イエスカルタ]を受けた非ホジキンリンパ腫患者の転帰は、それよりも制約がある状況で実施された臨床試験での転帰とほぼ同じであると、ダナファーバーの研究者らはいう。

ダナファーバーの免疫エフェクター細胞療法プログラム医学ディレクターCaron Jacobson医師率いる研究グループは、Yescartaを再発または難治性大細胞型B細胞リンパ腫の治療に用いた多施設後ろ向き研究を行い、CAR-T細胞をこのリンパ腫で評価した初の多施設第II相試験であるZUMA-1試験の結果と比較した。

ZUMA-1試験では、CAR-T細胞製品axicabtagene ciloleucel[アキシカブタゲンシロロイセル](Yescarta[イエスカルタ])は再発または難治性リンパ腫患者の40%で持続的に奏効した。Jacobson氏らが調べたリアルワールドデータの患者76人は、臨床試験で治療を受けた患者よりも病状が悪化しておりPS(全身状態)も低かった。「60%を超える患者がZUMA-1の適格条件を満たしておらず、広範囲のリアルワールドデータの結果が制約された環境下で行われる臨床試験の結果とほぼ同じであるということは、非常に心強いです」とJacobson氏は述べた。

全奏効率と完全奏功率は「ZUMA-1の結果よりも少し低めでした」とJacobson氏は述べたが、「奏効期間はほぼ同じであり、Yescartaは“リアルワールドデータ”でも臨床試験でも、同じ割合の患者に持続的奏効をもたらすようです」と述べた。

米国血液学会で報告された研究ではさらに、治療日に炎症レベルが低いことを示すバイオマーカーが認められる患者は治療成績もよいということを明らかにした。「これらの結果から、ピーク炎症レベルを下げるという戦略は、この治療法の安全性を向上させながら臨床成績も改善する可能性があることが示唆されます」とJacobson氏は述べた。

この結果は、12月1日(土)午前9:45(PST)にマリオット・マーキス・サンディエゴ・マリナのパシフィック・ボールルーム20で行われるセッション627の口頭発表で検討される予定である。

免疫チェックポイント阻害薬が高悪性度B細胞リンパ腫で持続的奏効を達成
ペムブロリズマブによる免疫療法は「強い抗腫瘍活性」があり、高悪性度非ホジキンリンパ腫患者で長期的に奏効する可能性があると、ダナファーバーの研究者が報告している。

ダナファーバーの臨床研究リンパ腫プログラムディレクターPhilippe Armand博士は、再発または難治性の原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫(PMBCL)患者に対するペムブロリズマブ(キートルーダ)の第1bおよび2相試験について報告した初の論文の執筆者である。この悪性度の高い疾患は胸腺中の細胞から発生し、非ホジキンリンパ腫の約4%を占める。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と異なり、PMBCLは、PD-L1およびPD-L2として知られる細胞表面タンパク質が免疫T細胞上のPD-1チェックポイント受容体に結合することによって免疫系を回避しようとする。ペムブロリズマブはPD-1チェックポイントを阻害し、免疫系が腫瘍を攻撃できるようにする。

自家幹細胞移植がうまくいかなった患者、不適格だった患者、または拒否した患者について行われたKN013試験、および2ライン以上の前治療歴がある、移植後再発患者、または移植不適格患者について行われたKN017試験について、Armand氏は報告した。KN013では、客観的奏効率は48%で、完全奏効率は33%であった。KN170では、追跡期間中央値12.5カ月経過後の客観的奏効率は45%で完全奏効率は13%だった。「KN170で完全奏効に達した患者で、データカットオフ時点までに再発した患者はいませんでした」とArmand氏は語った。

これらの結果が根拠となって、ペムブロリズマブは再発または難治性PMBL患者に対して米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認を受けたと、Armand氏は語った。

Armand氏は、12月1日(土)午後5:15にマリオット・マーキス・サンディエゴ・マリナのパシフィック・ボールルーム20で行われるセッション626でこの研究について発表される。

AMLに対する分子標的薬+化学療法は忍容性良好で生存も有望
急性骨髄性白血病(AML)患者に対する標準治療に試験薬を追加したところ、有望な寛解率および生存率が得られ、忍容性も良好で、有害事象の増加もなかったと、ダナファーバーの医師が報告する。

ダナファーバーの白血病部門長Daniel DeAngelo医学博士は、60歳以上の難治性AMLの再発患者と新規に診断された患者に対して標準抗白血病療法にuproleselanを追加する第1/2相試験の責任医師である。Uproleselanは白血病細胞に結合するE-セレクチンを阻害する分子標的薬である。がん細胞にE-セレクチンが結合すると、白血病細胞は化学療法に対する耐性を獲得する。この試験に参加した患者は、高く有望な寛解率および生存率を達成し、寛解導入療法に伴う死亡率が低かった。

「この研究から得られた最も驚異的な発見は2つあり、1つは測定可能な残存病変が認められない患者の数、そしてもう1つは化学療法によって消化管によく生じる疼痛性の炎症である粘膜炎の発症率の低さです」とDeAngelo氏は述べた。

Uproleselanと化学療法の第3相試験は進行中である。

DeAngelo氏は、12月2日(日)午前9:30にマンチェスター・グランドハイアット・サンディエゴのグランドホールBのセッション616でこの結果を発表する。

米国血液学会におけるダナファーバーの全活動の詳細は、こちら

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 野崎健司(腫瘍・血液内科/大阪大学大学院医学系研究科)

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