養子T細胞療法を用いた試験で、まれな脳感染症PML併発患者の治療に成功

この治療は白血病、リンパ腫その他の免疫不全疾患に関連する可能性がある
進行性多巣性白質脳症(PML)は希少で死に至ることの多い脳の感染症であり、がんおよび免疫システムを損傷する疾患の患者に見受けられることがあるが、養子T細胞療法として知られる新たな治療法がPMLに対して有効であることが第2相臨床試験で示された。

本研究はテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの幹細胞移植/細胞療法部門教授であるKaty Rezvani医学博士が率いたもので、BKウィルスを標的とした養子T細胞を注入した3人のPML患者において著しい改善が見られた。
本研究の結果は10月11日にNew England Journal of Medicine誌のオンライン版にて発表された。

BKウィルスはPMLを引き起こすJCウイルスに類似したウイルスである。今回の原理実証試験の結果、このBKウィルスが実現可能性のある治療法の基盤として示された。

どちらのウィルスも、最初に確認された患者の頭文字を取って命名されている。
「JCウィルスとBKウイルスは遺伝子学的に類似しており、免疫系が標的にできるタンパク質を共有しています」とRezvani氏は語る。

「これらの類似性のために、われわれはBKウイルスに対して開発されたT細胞がJCウイルスへの感染に対しても有効であるという仮説を立てました」。Rezvaniのチームは、健康なドナーから得るBKV特異的T細胞を作製するために新しいアプローチを開発し、MDアンダーソンのGood Manufacturing Practice(GMP)研究室にウィルス特異的T細胞バンクを設立した。

本研究ではGMPから取得した第三者のヒト白血球抗原適合 (HLA) 半合致 BK ウイルス特異的 T 細胞を用い、3人の患者を治療した。
HLAは、細胞表面に見られるタンパク質であり、免疫系による認識に不可欠である。

白血病、リンパ腫などの患者におけるPML
PMLはポリオウイルスファミリーのひとつであり、JCウイルスによって引き起こされる。一般集団に発生する場合が多いが、白血病および リンパ腫などの血液がん患者や、AIDS、多発性硬化症、関節リウマチ、狼瘡および生物学的療法で治療されたその他の自己免疫疾患を有する患者では、死に到るまたは重大な健康被害を引き起こす可能性がある。

PMLは、神経細胞を保護するミエリン鞘と呼ばれる脳の白質を攻撃する。

現在PMLに対する効果的な治療法はなく、大半の患者にとって致命的である。症状としては、動作のぎこちなさ(協調運動障害)、歩行困難、顔面下垂、失明、性格の変化、発話困難や筋力低下などがある。

急性骨髄性白血病(AML)患者を対象とした臨床試験での治療
BKウイルス特異的T細胞を注入されたPML患者は、以下の通りである。
患者1:32歳女性。臍帯血移植歴のあるAML患者。
患者2:73歳女性。JAK2陽性赤血球増加ルブラベラ(赤血球の過剰産生を引き起こす血液障害)を発症しており、標的治療薬ルクソリチニブによる治療歴あり。
患者3:35歳男性。エイズ患者。高活性抗レトロウイルス療法(HAART)と呼ばれる積極的多剤療法を副作用のため中止しており、歩行不能の状態。

初回注入後、3人の患者すべてにおいて脳脊髄液(CSF)中のJCウイルス量が減少した。
ウイルス量は、患者1では700から78、患者2では230,000から5,200、患者3では4,300から1,300に減少した。
「ウイルス特異的T細胞の注入後、患者1および3では、脳脊髄液中のJCウイルスが有意に減少し、臨床的改善が見られました」。

「両患者が恒常的なT細胞免疫不全にもかかわらず治療に反応したことは、この反応が注入されたウイルス特異的養子T細胞に媒介されたとの考えを支持するものでした。また、注入に関連する有害反応はありませんでした」とRezvani氏は述べた。

患者1では2回の追加注入を通じて脳脊髄液中のウイルスが完全に除去され、初回の注入から27ヶ月後にPMLの症状は消失した。
患者2は2回目の注入によりJCウイルス量がさらに減少したが、それ以上の改善は見られず、初回注入の8ヶ月後に死亡した。
患者3は追加の注入を受け、JCウイルスは完全に除去された。

また、運動機能を回復し、初回の注入から9ヶ月後に松葉杖で歩くことができるまでになった。
Rezvani氏は、「第三者から得られた既存のHLA 半合致 BK ウイルス特異的 T 細胞によりPMLを治療できる可能性があることにわれわれは勇気づけられています」と述べた。

「この治療の成功率、永続性び長期における有害事象を調査するためには、より大きな患者群での研究が必要です」。

この研究はMDアンダーソンのムーンショット計画の一部である骨髄異形成症候群および急性骨髄性白血病ムーンショット計画の資金提供を受けた。ムーンショット計画とは、科学的発見から臨床的な進歩への発展を加速させ、患者の生命を救うため共同で行われている取り組みである。

また、この研究は国立衛生研究所(NIH)の支援も受けている(CA016672)。

翻訳担当者 高橋 多恵

監修 北尾 章人(腫瘍・血液内科/神戸大学大学院医学研究科)

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