急性白血病患者における新規薬剤耐性の原因を解明

ダナファーバーがん研究所

新たな標的薬剤により、一般的な白血病の患者が寛解に至るだけでなく、がん細胞が薬剤に抵抗を示す仕組みの一つを明かすよう誘導されることをダナファーバーがん研究所と他の研究機関の研究者らがNature誌に発表した。

急性白血病サブタイプの患者の約40%がレブメニブ(revumenib)という薬剤による治療で完全寛解(がんの全ての兆候が消滅)に至った臨床試験の結果が一方の論文で発表され、白血病細胞が薬剤を回避して再び増殖する分子的な対抗手段がもう一方の論文で明らかになった。

レブメニブが示す急性白血病治療の分子標的療法の有望性と、耐性メカニズムに対し足元をすくう働きのある薬剤の併用によりさらにそのメリットを増大する可能性とが論文で指摘されていると研究者は語る。

「今回の研究で対象にした急性白血病の2つの遺伝子分類タイプは、子どもや成人の急性骨髄性白血病(AML)の約40%を占めています」とダナファーバー/ボストン小児がん・血液疾患センター長でレブメニブ耐性に関する論文の共同統括著者であるScott Armstrong医学博士は語る。「対象の急性白血病はMLL1遺伝子の再構成やNPM1遺伝子の変異がきっかけで発症します。どちらの種類も増殖を維持するためメニンと呼ばれるタンパク質に依存しています」。

今回Nature誌で発表された一つ目の試験は、他の療法に効果を示さない急性白血病患者68人を対象に実施したメニンを標的とするレブメニブという薬剤の第1相と第2相臨床試験の報告である。AUGMENT-101試験と呼ばれる本試験で、評価可能な患者60人のうち、53%が薬剤に反応し、30%が完全寛解に至ったことが明らかになった。

「この試験結果は過去に何度か治療を受けている急性白血病の患者にとって非常に励みとなります」とArmstrong博士は語る。「しかし、2サイクル目の治療後にレブメニブに対し耐性を示す患者が一部いました」。

Armstrong博士らは追跡調査でレブメニブに対する耐性の原因を調査した。

メニンは、遺伝子の活動のオンとオフを切り替える細胞の「エピジェネティック」機構の重要な役割を担っている。メニンはクロマチン(核の中にあるDNAの編みとタンパク質のパッケージ)に結合し、大きなタンパク質複合体を呼び寄せて接合する。この複合体がDNAのコイルを締めたり緩めたりして、その部位の遺伝子の活性度を変化させる。この複合体の中の重要なタンパク質の一つがMLL1遺伝子の産物であるMLL1である。

「レブメニブにはメニンとMLL1の相互作用を阻害する小分子が含まれています」とArmstrong博士は語る。「レブメニブにより患者が高い割合で寛解に至ることをAUGMENT試験は示している」。
 
Armstrong博士らはレブメニブに耐性を示した患者の一部から採取した骨髄サンプルを分析した際に、その多くがメニンタンパク質を生成する遺伝子のMEN1に変異が生じていることを確認した。この変異によりメニンはレブメニブとはうまく結合しないが、MLL1とはこれまでと同様にしっかりと貼りつき変形する。メニンとMLL1の相互作用が取り戻されると、白血病細胞が再び増殖を始める。

この試験結果は、「患者に対し、どちらの遺伝学的サブタイプのAMLにおいても、メニン自体が治療の有効なターゲットであることを正式に証明するものです」とArmstrong博士は語る。

ある意味、レブメニブは白血病細胞に対するある種の自白剤のような役割を果たしており、白血病細胞に圧力をかけて細胞自らの生存のための戦略の一つを打ち明けるよう促す。「白血病細胞が生き残るために非常に苦労してMEN1を変異させたという事実は、白血病細胞が真に頼りにしている標的が攻撃を受けていることを強く示しています」とArmstrong博士は主張する。

レブメニブが白血病細胞にストレスを与え、生存を維持するための変異を発生させるような状況に仕向けるという能力は、レブメニブが有効である証明でもあるとArmstrong博士は続ける。「クロマチン結合タンパク質複合体を標的とする薬剤がヒト患者のがんにここまで圧力を加えていたことが確認できたのは今回が初めてです」。

急性白血病患者のMEN1や他の遺伝子の変異の発生を追跡することで、医師は再発のリスクが高い患者を特定できる可能性があるとArmstrong博士は説明する。再発のリスクが高い患者はさらなる治療で効果が得られる可能性がある。耐性メカニズムとしてMEN1変異が発見されたことは、メニンや他のクロマチン関連タンパク質を特異的に標的とする新たな薬剤がレブメニブ耐性の予防や遅延、または薬剤に耐性のある患者の治療につながることを示唆している。

「Armstrong博士の研究が、患者(ダナファーバーの患者を含む過酷な状況下で劇的な反応を示した患者)の診療の場に見事に反映されるのを目にするのは、個人的にも同じ専門家としても非常に喜ばしいことでした」とNatureの2つの試験の共著者であるダナファーバーのRichard Stone医師は語る。「主にArmstrong博士が実施した前臨床研究に基づき、レブメニブに標準化学療法および新規薬剤を併用する臨床試験を実施することで、今回の試験結果の効果を拡大する準備が整いました」。

MEN1変異の論文の共同統括著者は、Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのRoss L. Levine医師およびSheng F. Cai医学博士。

共同筆頭著者は、Dana-Farber, Boston Children's HospitalおよびGreifswald University Medical Center(ドイツ、グライフスヴァルト)のFlorian Perner医学博士およびMemorial Sloan KetteringのEytan M. Stein医師。

共同著者・謝辞は原文参照

  • 監訳 喜安純一 (血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)
  • 翻訳担当者 松長愛美
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  • 原文掲載日 2023年3月15日

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