長期の抗炎症薬で子宮体がん関連死増加の可能性

オハイオ州立大学総合がんセンターの Arthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute(OSUCCC – James)が率いる新しい集団ベース研究によると、アスピリンやイブプロフェンなど市販の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の定期使用が、1型子宮体がん(子宮内膜がん)患者の死亡リスク上昇に関連するという。

この観察研究は、多施設のがん研究者チームが4000人以上の患者を対象にしたコホート試験により、NSAIDの定期使用と子宮体がんによる死亡リスクとの関連を解明しようとしたものである。

NSAIDを定期使用すると、子宮体がんのうち一般的に侵襲性の低い1型子宮体がん患者の死亡リスクが66%上昇することがわかった。この関連性は、診断時に過去あるいはその当時にもNSAIDを使用していたと報告した患者で統計学的に有意であったが、最も顕著に認められたのは過去に10年以上NSAIDを使用し、診断前に中止した患者だった。一般に浸潤性が高い2型の子宮体がん患者の死亡率との関連は認められなかった。

「慢性の炎症が子宮体がんの発生や進行に関与していることを示すエビデンスは増えており、最近得られたデータは、NSAIDを用いて炎症を抑制することが重要な役割を担っていると示唆しています」と, 本研究の共同筆頭著者であり、OSUCCC – James のがん疫学者であるTheodore Brasky博士は述べた。「この研究により、この現象の背後にある生物学的メカニズムを十分に理解するために、さらに調査を行う必要があることが明らかになりました。私たちは、NASIDを使用して炎症を軽減し、大腸がんのような一部のがんの発生やそれらによる死亡のリスクを減少させる可能性があるという結果を得ました。これは今までの研究結果と反する驚くべきものでした」。

研究者らは、最近の研究には術後の一部の投薬とNSAIDの使用が考慮されておらず、不完全なものになっていると指摘する。

「私たちはこの特定の患者コホートにおいて、炎症とがんの進行を関連付けている生物学的メカニズムの解析を続けています」と本研究の共同筆頭著者であり、OSUCCC – James公衆衛生学部 のがん疫学者Ashley Felix博士は続けた。

彼らの研究結果は2016年12月16日発行のJournal of the National Cancer Instituteに掲載されている。

「これらの結果は、興味深く、今後さらに研究する価値のあるものです」とOSUCCC – Jamesの婦人科腫瘍科部長で本研究の共同著者であるDavid Cohn医師は述べた。「重要なのは、子宮体がん患者は、がんそのものよりも心血管疾患で死亡することがはるかに多いため、心臓発作のリスクを低減する目的でNSAIDを使用している患者は、主治医の指示のもとで、NSAIDを継続使用するべきだということです。ところが一方では、がん関連死のリスクを減らすためにNSAIDの使用を推奨あるいは禁止する、と公表できるほどの十分なデータは得られていないのです」。

NSAIDを長期使用し、そのリスクを心配している女性たちは、主治医に相談するべきだとCohn医師は述べている。

試験デザインと結果

本試験では、以前にnational clinical trial(NRG Oncology/GOG 210)に参加した4374人の子宮体がん患者の情報を解析した。全員が、手術適応だが登録時には手術も放射線治療も受けていない患者であった。参加者を登録後平均5年間追跡調査した。

参加者には、アスピリン、非アスピリン系NSAID(イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、ピロキシカム、スリンダク)、COX-2阻害剤など過去や現在のNSAIDの使用についての情報を得るため、研究の開始時に術前アンケートの記入を依頼した。研究者らは、薬物の継続期間(1年未満から10年を超える範囲におよぶ)や使用時期は過去か当時かについて情報を収集した。1日の使用回数、1回用量、手術後の使用については調査していない。

さらに研究者らは、臨床データ(がんの病期、病理所見、治療法)、人口統計学的データ(年齢、人種、年収、学歴)、そして身長、体重、生殖および月経の特性、ホルモン療法歴、喫煙状況、他の疾患の状態など、子宮体がんのリスクファクターとして確認されている項目についての情報を収集した。

研究者らは回帰モデルを用いてこれらの付加因子がNSAID使用と子宮体がんの死亡率との関係にもたらす影響を統計学的に説明した。

本研究は、NRG/Gynecologic Oncology Group (CA 27469, CA 37517, 1 U10 CA180822 and U10 CA180868); National Cancer Institute and National Institutes of Healthの資金提供を受けた。

本研究の共同研究者はLouise A. Brinton, PhD, of the National Cancer Institute; D. Scott McMeekin, MD, and Joan Walker, MD, of the University of Oklahoma; David Mutch, MD, and Premal Thaker, MD, Washington University School of Medicine; William Creasman, MD, Medical University of South Carolina; Richard Moore, MD, Women and Infants Hospital/Brown University; Shashikant Lele, MD, and John Boggess, MD, University of North Carolina; Saketh Guntupalli, MD, University of Colorado Cancer Center; Levi Downs, MD, University of Minnesota; Christa Nagel, MD, Case Western Reserve University; Michael Pearl, MD, State University of New York; Olga Ioffe, MD; University of Maryland; and Shamshad Ali, Roswell Park Cancer Instituteである。

*米国における子宮体がんについて

米国では毎年60000人を超える女性が子宮内膜がんの診断を受けており、女性に多いがんの4番目、がんによる死亡原因の6番目である。このがんは子宮の内膜に存在し、周囲の臓器に向かって外側へ増殖する。1型の腫瘍は侵襲性が低く、一般的に診断時には子宮に限定される。一方、2型の腫瘍は侵襲的な傾向があり拡散のリスクが高い。本疾患は60歳を超える女性に最も多く認められる。加齢の他に、過体重、糖尿病、特定のホルモン療法、子宮体がんの家族歴、または子宮内膜肥厚、乳がん、卵巣がんの既往などは子宮体がんのリスク上昇に関連する。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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