低リスク早期子宮頸がんに単純子宮全摘術は安全な治療選択肢

米国臨床腫瘍学会(ASCO

ASCOの見解

「手術の適応であるステージ1の子宮頸がん患者に対して、何十年にわたり広汎子宮全摘出術が標準治療とされ、治癒率に悪影響を与える可能性から手術範囲を縮小する議論は長い間、差し控えられてきました」とASCO専門家のKathleen N. Moore医師は述べる。「SHAPE試験は、慎重に選択された患者群においては、予後に影響を与えることなく安全に単純子宮摘出術に縮小できることを示し、早期子宮頸がん患者に対して新たな、より個別化した手術アプローチがとれることを導きました」

骨盤リンパ節郭清を伴う単純子宮全摘術は、低リスクの早期子宮頸がん患者にとって安全な治療選択肢であり、生活の質(QOL)の向上に役立つ可能性があることが、大規模な国際第3相臨床試験の結果から明らかになった。本研究は、2023年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

試験要旨

目的骨盤内リンパ節郭清および広汎子宮全摘出術(RH)と骨盤内リンパ節郭清もしくは単純子宮全摘術(SH)を受けた患者における3年後の骨盤内再発率の比較検討
対象者・ 24~80歳の低リスクの早期子宮頸がんの患者700人を、骨盤内リンパ節郭清とRHまたはSHを受ける群に無作為に割り付けた。 
・ 子宮摘出術の方法は50%が腹腔鏡(SH群56% vs RH群44%)、ロボットが25%(SH群24% vs RH群25%)、開腹が23%(SH群17% vs RH群29%)だった。
結果・ 中央値4.5年の追跡調査において、SHによる3年後の骨盤内再発率はRHと比較して劣っていなかった(SH群2.5% vs RH群2.2%)。  
・ 骨盤外無再発生存率、無再発生存率、全生存率は、両群間で同等であった。  
・ SH群では、泌尿器外科的な術中合併症が少なく、手術直後および長期の膀胱障害も少なかった。   
・ SH群は身体イメージ、痛み、性的活動の増加など、いくつかのQOLの側面において、より良好であった。  
・ 手術アプローチ(開腹手術もしくは低侵襲手術)は、いずれの群においても再発のリスクに影響を及ぼさないようであった。  
・ 切除断端陽性率は両群ともに低かった(全体では2.6%、SH群では2.1% vs RH群2.9%)。
重要性低リスクの早期子宮頸がんに対する治療は、SHを選択することで安全に縮小化でき、患者のQOLの向上にも役立つ可能性がある。またこの研究は、米国にとどまらず、世界で子宮頸がんが蔓延している地域にも影響を与えるものである。

主な知見

SHによる3年後の骨盤内再発率はRHとの比較で劣っていなかった(SH群2.5% vs RH群2.2%)。骨盤外無再発生存率(SH群98.1% vs RH群99.7%)および全生存率(SH群99.1% vs RH群99.4%)も、両群間で同等であった。中央値4.5年の追跡調査後、全体で21件の骨盤内再発が確認された(SH群11件 vs RH群10件)。  

さらに、SH群では泌尿器外科的な術中合併症が少なく、急性および長期の膀胱障害も少なかった。また、身体イメージ、痛み、性的活動の増加など、QOLのいくつかの側面もSH群の方がより良好であった。使用された手術アプローチ(開腹手術 vs 低侵襲外科的アプローチ)は、いずれの群においても再発のリスクに影響を与えないようであった。また、切除断端陽性率は両群ともに低かった(全体では2.6%、SH群では2.1% vs RH群では2.9%)。 

「これらの結果は、慎重に選択された低リスクの早期子宮頸がんの女性にとって、単純子宮摘出が安全な選択肢であることを初めて示したという点で重要です」と、CHU de Quebecの婦人科腫瘍医であり、カナダ・ケベック州のLaval大学産科婦人科部門の教授であるMarie Plante医師は述べた。「この試験により治療が変わる可能性は高いです。低リスク疾患の患者の新たな標準治療として、広汎子宮全摘出術の代わりに単純子宮摘出術が行われるようになるでしょう」

RHはSHよりも広範囲に及ぶ手術で、子宮、子宮頸部、膣の頭側(子宮頸部寄り)、子宮頸部周囲の組織を切除する。SHでは子宮と子宮頸部のみが摘出される。子宮頸がんの患者でリンパ節を切除する場合は、いずれの手術においてもリンパ節転移を切除するための骨盤リンパ節郭清(色素や放射性物質を用いて、原発巣からがんが最初に転移しそうなリンパ節を特定するセンチネルリンパ節マッピングを行う場合、行わない場合に関わらず)が不可欠である。どちらの手術も腹部を大きく切る開腹手術、または小さく切る腹腔鏡手術で行うことができる。RHはより複雑な手術なため、より高度な外科的訓練を必要とするほか、出血、膀胱・尿管損傷、膀胱・腸機能障害といった急性および長期の副作用、さらにQOLやセクシャルヘルスへの影響の可能性が伴う。

低リスクの早期子宮頸がん患者に対する現在の標準治療は、妊孕性の温存を希望しない人には骨盤内リンパ節郭清とRH、妊孕性の温存を希望する人には子宮頸部を切除して子宮体部を残す広汎子宮頸部切除術である。米国では子宮頸がん患者の約44%が早期と診断され、そのうちかなりの割合が低リスクの基準を満たすと本研究の著者らは述べている。早期発見された場合、浸潤性子宮頸がんの5年相対生存率は92%である。 世界中で、子宮頸がんは女性のがん診断の中で4番目に多く、がんによる死亡原因の中でも4番目に多いがんである。

本試験について

SHAPE試験には、病変が2cm以下のステージ1A2または1B1、グレード1、2、もしくは3、と定義される低リスクの早期子宮頸がんを持つ24歳から80歳の700人が参加した。12カ国から登録した試験参加者は、骨盤内リンパ節郭清とRHまたはSHのいずれかに無作為に割り付けられた。子宮摘出術の半数は腹腔鏡(SH群56% vs RH群44%)、ロボットが25%(SH群24% vs RH群25%)、開腹で23%(SH群17% vs RH群29%)だった。

本試験の主要評価項目は、SHの3年後の骨盤内再発率がRHに対して非劣性であるかどうかを判定することだった。SHのRHに対する非劣性を証明するためには、3年後の骨盤再発率の差の95%片側信頼区間の上限が4%以下であることを要件とした。副次的評価項目は、骨盤外無再発生存率、無再発生存率、全生存率、QOLだった。

次のステップ

研究者らは今後の研究において、QOLとセクシャルヘルスのデータをさらに調査すること、RHとSHを比較した費用対効果および費用効用分析を行うこと、再発に関連するリスク要因を特定すること、を計画している。

本研究は、Canadian Cancer Trials Groupが主導し、Canadian Institutes of Health ResearchとCanadian Cancer Societyから資金提供を受けた。

【※監修者注】広汎子宮全摘出術に関して、日本ではtype3と言われる子宮頸部周囲の切除範囲が広い術式が行われているのに対し、欧米はtype2と言われるむしろ準広汎子宮全摘出術に近い術式です。よって、日本のほうが手術の完成度が高い、当然のことながら骨盤内の局所制御力も高いため、この試験の結果を受けて日本でも広汎子宮全摘出術ではなく単純子宮全摘出術でよい、という議論にはなりにくいと思います。

  • 監訳 喜多川亮(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)
  • 翻訳担当者 片瀬ケイ
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  • 原文掲載日 2023/06/02

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