子宮体がん治療における免疫チェックポイント阻害薬の役割拡大に期待

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

2つの大規模臨床試験の結果が発表されたことで、進行子宮内膜がん(子宮体がん)の女性にとって免疫療法はより一般的な治療になる可能性がある。

両試験において、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤を標準化学療法と併用することにより、一部の子宮内膜がん患者で、がんが進行することなく生存できた期間(無増悪生存期間と呼ばれる評価項目)が大幅に延長した。無増悪生存期間の延長は、腫瘍にdMMR(ミスマッチ修復機能欠損)またはMSI-high(高頻度のマイクロサテライト不安定性)と呼ばれる特定の遺伝子変化を有する患者で最も顕著であった。

両試験の結果は、3月27日に開催された米国婦人科腫瘍学会(SGO)2023の年次総会で発表され、同時にNew England Journal of Medicine誌に掲載された。

これらの試験では、異なる免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)とドスタルリマブ(販売名:Jemperli[ジェンペルリ])が使用され、その他にも試験の実施方法にいくつか違いがみられた。しかし、臨床試験責任医師や他の専門家らは、これらの結果が、進行子宮内膜がん患者および初回再発の子宮内膜がん患者の治療に変化をもたらす、との見解で一致している。

「どちらの試験も大成功を収めています」と述べたのは、婦人科がんの治療が専門のRebecca Arend医師(アラバマ大学バーミンガム校オニール総合がんセンター)である。Arend医師は、SGO総会の両試験に関するセッションで、「全体として、これは患者さんにとって大きな勝利です」と述べている。

どちらの薬剤も、この特定の用途については米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けていない。また、子宮内膜がんの治療に免疫チェックポイント阻害薬をどのように使用するのが最善であるのか、依然として研究の余地があると強調する婦人科がん研究者もいる。

例えば、ドスタルリマブを試験したRUBY試験は、化学療法に本薬剤を追加することで参加者全体の生存期間がどのくらい延長するかを示すには十分な期間が経過していないと、婦人科がんの治療が専門のElise Kohn医師(NCIがん治療・診断部門)は警告する。SGO総会と同じ3月27日には、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)バーチャル総会も開催されており、Kohn医師は、RUBY試験の結果に注目したプレナリーセッションで講演を行った。NRG-GY018試験についても同じことが言えると他の専門家は指摘する。

さらに、RUBY試験と最近の他の研究の結果から、dMMR子宮内膜がんであっても、免疫療法の有効性やその程度に影響を及ぼす重要な生物学的差異が存在する可能性があるとKohn医師は指摘する。

それでも、両試験の結果は、子宮内膜がんの治療を改善するための「新たな可能性を提示しました」とKohn医師は述べている。

進行子宮内膜がんの治療成績の向上

米国では、子宮内膜がんと診断される女性が年々増加しており、婦人科がんの中で唯一死亡率が上昇している。

発症率の上昇は、肥満の増加を含め複数の要因と関連している。一方、死亡率の上昇は、進行した状態で診断される女性が以前より増加していることに起因している。

それでも、ほとんどの女性が早期の段階で子宮内膜がんと診断されており、早期がんと診断された女性の約95%は5年以上生存する。

しかし、すでに子宮外へ進展していたり転移を伴った状態で子宮内膜がんと診断された女性の長期予後は非常に不良で、5年以上生存できる患者の割合は20%にも満たない。また、再発子宮内膜がんの女性の長期予後も不良である。

化学療法薬のシスプラチンとパクリタキセルの併用は、長きにわたり進行または再発子宮内膜がんの女性に対する標準治療であった。しかし近年、これらの患者に対する治療法は、主に免疫療法の進歩によって変化している。

この2年間で、ペムブロリズマブとドスタルリマブは、化学療法による初回治療後に進行を認めた、進行または再発子宮内膜がんの女性に対する治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に承認された。

これらの承認のきっかけとなった臨床試験の結果が、初回治療に免疫チェックポイント阻害薬を追加することで、全体の無増悪生存期間が延長するかどうかを検証する試験の土台を築いた。

特にdMMR腫瘍で無増悪生存期間が延長

ペムブロリズマブを使用したNRG-GY018試験には、800人以上の参加者が登録された。参加者は、ペムブロリズマブと化学療法を約6カ月間受けた後、ペムブロリズマブ単剤の「維持療法」を約21カ月間受ける群、または同じスケジュールで化学療法とプラセボの投与を受けた後、プラセボの単剤投与を受ける群のいずれかに無作為に割り付けられた。

NRG-GY018試験はNCIの支援を受けており、正式な研究契約の一環として、ペムブロリズマブの製造元であるMerck社からも一部資金提供を受けた。

NRG-GY018試験の参加者の約30%は、dMMR腫瘍であった。dMMR群のうち、ペムブロリズマブによる治療を受けた参加者の74%が、治療開始後12カ月間無増悪生存したのに対し、プラセボ群では38%という結果であった。pMMR群ではそれぞれ50%、30%であった。

このデータは、本試験の臨床試験責任医師であるRamez Eskander医師(ジョン&レベッカ・ムーアズ総合がんセンター、サンディエゴ)によって発表された。

dMMR、pMMRとは?

細胞分裂の過程でDNAが複製されると、分裂によって生じた2つの細胞はそれぞれ同じゲノムを持ちますが、その際エラーが起こることがあります。そのエラーの一つが、誤ったヌクレオチドまたは塩基(DNAの構成単位)の挿入です。正常な細胞には、このようなエラーを見つけて修正するミスマッチ修復(MMR)と呼ばれる機能が備わっています。

しかし、一部のがん細胞では、ミスマッチ修復タンパク質に影響を及ぼす遺伝子変化により、この修復機能が働かなくなります。このような細胞は、MMR欠損を有する、またはdMMRと表現されます。ミスマッチ修復機能が正常に機能している細胞は、MMRが保たれている、またはpMMRと表現されます。

dMMR腫瘍は、免疫細胞を引き寄せる異常なタンパク質を産生する傾向があります。多くのがんにおいて、免疫チェックポイント阻害薬は、pMMR腫瘍の患者よりもdMMR腫瘍の患者で有効であることが研究で示されています。実際、ドスタルリマブは、dMMRの進行または再発子宮内膜がん患者に対する2次治療としてのみ承認されています。

RUBY試験には約500人の患者が登録され、そのうち約23%がdMMR腫瘍であった。試験の参加者は、ドスタルリマブと化学療法を約6カ月間受けた後、ドスタルリマブ単剤による維持療法を最長3年間受ける群、または同様のスケジュールでプラセボと化学療法を受ける群のいずれかに無作為に割り付けられた。

本試験は、ドスタルリマブの製造元であるGlaxoSmithKline社から資金提供を受けた。

RUBY試験の患者は、NRG-GY018試験の患者よりもはるかに長い期間追跡調査を受けた。dMMR群では、治療開始後24カ月の時点で、ドスタルリマブ治療を受けた患者の約61%が無増悪生存したのに対し、プラセボ群では16%という結果であった。pMMRは予定された指標(評価項目)ではなかったが、pMMR群の結果はそれぞれ28%、19%であった。

RUBY試験の臨床試験責任医師であるMansoor Mirza医師(コペンハーゲン大学病院、スウェーデン)は、SGO総会の席で、この結果はdMMRの子宮内膜がんの患者にとって「現実的かつ前例のない利益を示している」と述べている。

さらなる追跡調査が必要であるが、Mirza医師によると、dMMR腫瘍の患者のデータは、治療により全体の生存期間も延長する方向に向かっているという。

安全性に関して、いずれの試験でも、免疫療法薬と2種類の化学療法薬による治療を受けた患者で、これまでにない新たな副作用は確認されなかった。しかし、重篤な副作用を含む副作用の発現率や、副作用による治療の中断率は、両試験とも免疫療法群でより高かった。

両試験とも免疫療法群で数例の死亡例がみられたが、そのほとんどは免疫療法薬が原因とは考えられなかった。

化学療法、バイオマーカーに関する重要な課題

婦人科がんの専門家の多くが、dMMR腫瘍を有する進行または再発子宮内膜がん患者に対して、化学療法にペムブロリズマブまたはドスタルリマブのいずれかを追加した治療を新たな標準初回治療にすべきである、との見解で一致している。

Merck社とGlaxoSmithKline社の広報担当者によると、両社とも現時点ではこれらの承認申請を行っていない。

研究者らは、試験の結果や子宮内膜がんの治療を改善する可能性については高く評価する一方、今後解決すべき重要な課題についても指摘している。

例えば、初回治療として化学療法が必ずしも必要なのかどうか、維持療法の期間が不確かなことが挙げられる。

また、データは、dMMR腫瘍の患者の初回治療に免疫療法を用いた場合に最も高い効果が得られることを示しているが、両試験の結果は、dMMR腫瘍の患者の一部はこれらの薬剤にまったく反応しないことを強く示唆しているとKohn医師は強調する。

そのため、反応しそうにない腫瘍を特定するための分子マーカー、またはバイオマーカーを腫瘍内に見出すことが重要になると指摘する。Kohn医師は、最近の研究により、そのような重要な手がかりはすでに得られつつある、と加えた。例えば、ある患者のDNAミスマッチ修復異常の背後にある特定の生物学的メカニズムが、免疫療法に対する腫瘍の反応性に影響を及ぼしている可能性がある。

こうした議論の一方で、Arend医師は、「無視されている重要な問題」として「pMMR患者に対してはどう対応すべきか」という点を挙げる。

Mirza医師は、ESMOセッションの発表で、pMMR腫瘍には免疫チェックポイント阻害薬に非常によく反応するものがあると指摘している。そのため、そのような患者を特定するためのバイオマーカーも重要になるとしている。

現在進行中の他の試験では、子宮内膜がん患者を対象に他の免疫チェックポイント阻害薬の検証が行われている。Mirza医師によれば、このうちの一部の試験では、免疫チェックポイント阻害薬を標的治療薬などの他の薬剤と組み合わせて投与されている。

「これは、終わりではなく始まりにすぎません」。

  • 監訳 喜多川 亮(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)
  • 翻訳担当者 工藤章子
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2023年4月12日

【この翻訳は、米国国立がん研究所 (NCI) が正式に認めたものではなく、またNCI は翻訳に対していかなる承認も行いません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】"

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