進行/再発子宮体がんの新たな治療基準となるか: ドスタルリマブRUBY試験結果

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)

進行または初回再発の子宮内膜がん(子宮体がん)の初回治療で標準化学療法に免疫療法を追加すると、化学療法単独と比較して無増悪生存期間(PFS)が有意に改善し、加えて早期の検討ながら全生存期間(OS)の改善も期待された。このように第3相RUBY試験(ENGOT-EN6-NSGO/GOGG3031)から得た臨床的に意義のある結果は、この患者集団における免疫療法の有用性を初めて確認するものであり、2023年3月27日のESMOバーチャル総会(ESMO Virtual Plenary)で報告された。

「これはここ30年以上の間で子宮内膜がんの患者に関する最も大きなニュースです」と臨床試験責任医師のMansoor Mirza博士(デンマーク、コペンハーゲン大学病院Rigshospitaletの主任腫瘍医)は語る。「標準化学療法に免疫療法を追加した結果、特にDNAミスマッチ修復機構欠損を有する、いわゆる「熱い(hot)(訳注:免疫療法に感受性がある)」子宮内膜腫瘍の患者の25%についてPFSが過去にないほど改善されたことが今回の試験結果で確認されました」。

子宮内膜がんは、世界の女性のがんの中で6番目に多く、年間40万人以上が新たに発症し(2)、発症率と死亡率ともに増加傾向にある(3-4)。腫瘍が子宮に限局していれば手術で治癒が可能であり、5年生存率は96%である(5)。しかし、病気が子宮外に進行している場合、5年生存率は20%に低下する(5)。子宮内膜がん分子サブグループが4つ特定されたことを受け(6)、DNA修復状態の検査からリスク分類を実施することが治療指針や予後改善に役立つ可能性もあるため欧米のガイドラインで推奨されている(7-8)。

スイスのベリンゾーナにあるOncology Institute of Southern SwitzerlandのIlaria Colombo博士は本試験の結果について、子宮内膜がん解明は進んでいるにもかかわらず、依然としてカルボプラチン(販売名:パラプラチン)とパクリタキセルによる化学療法が進行例に対する標準治療であり、約50%の患者に効果があるが、1年以内に再燃する人が大半であると評する。

「より優れた治療戦略の開発が急務であり、今回の試験結果は進行または再発した子宮内膜がんの女性に対する新たな標準治療を示しています。今後は、さまざまな種類の免疫療法を用いた他の試験結果を確認する必要があります。また、免疫療法による維持治療の最適な期間、ミスマッチ修復機構欠損またはマイクロサテライト不安定性がある患者において免疫療法が化学療法よりも有効かどうか、化学療法を行わずに免疫療法を使用できるかどうかも明らかにする必要があります」と語る。

今回の試験で化学療法に免疫療法を追加した効果が少なくとも2年間維持されたことにColombo博士は特に感銘を受けた。「ミスマッチ修復やマイクロサテライト不安定性を有する腫瘍の患者において、2年の時点で疾患増悪が見られなかったのは、化学療法単独群が15.7%だったのに対し、免疫療法追加群では61.4%でした。また、こういったDNA修復機構欠損のない患者にも程度は少ないながらも臨床的有用性が認められましたが、進行または再発子宮内膜がん患者の約70%を占めるミスマッチ修復機構欠損がなかったりマイクロサテライトが安定していたりする腫瘍の患者に対し、より良い治療法を開発する必要がまだあります。また、全生存期間での効果の気配も心強いですが、標準治療群で患者の多くがその後の治療で免疫療法を受けたことを考慮すると、より長期の追跡調査で確認する必要があります」とColombo博士は語る。

免疫療法と化学療法の併用に安全性に関する予期せぬ問題はなく、患者の生活の質が改善されたというエビデンスがあるとColombo博士は指摘する。「生活の質に良い効果を及ぼすことが重要です。維持療法を実施して、患者が長期間治療を継続する場合は特に、延命するだけでなく、患者がより良い生活を送っていることを知っておく必要があるからです」とColombo博士は語る。

「今回の結果は、従来よりも多くの女性が子宮内膜がんを治癒できることを意味しますが、免疫療法後に進行する患者もいるため、そのような患者を救うための最善の方法を検討する試験を相次いで開始します」とMirza博士は語る。

さらに、「熱い」腫瘍の患者において、化学療法、他の免疫療法、PARP阻害剤の3剤による進行子宮内膜がんの免疫療法の併用療法と免疫療法と化学療法の2剤併用療法との比較の試験が行われている。また、早期の子宮内膜がん患者を対象とした免疫療法試験も進行中である。

試験結果
全PFSの中央値は、標準化学療法とプラセボを併用した患者が7.9カ月に対し、PD-1(チェックポイント)阻害剤であるドスタルリマブ(販売名:Jemperli[ジェンペルリ])と標準化学療法(カルボプラチンとパクリタキセル)を併用した患者は11.8カ月であった(ハザード比[HR]0.64;信頼区間[CI]0.507-0.800、p<0.0001)。ミスマッチ修復機構欠損(dMMR)またはマイクロサテライトの不安定性が高い(MSI-H)「熱い」腫瘍の患者のPFSは、免疫療法+化学療法群では25カ月間の追跡調査中にがんが進行した人がほとんどいなかったため評価できなかった。一方、化学療法+プラセボ群のPFSは7.7カ月(HR 0.28;CI 0.162-0.495、p<0.0001)であった。ミスマッチ修復機構(MMRp)またはマイクロサテライト安定性(MSS)がある「冷たい(cold)(訳注:免疫療法への感受性が低い)」腫瘍の患者における結果を探索的に分析したところ、PFSは免疫療法+化学療法群が9.9カ月、化学療法+プラセボ群が7.9カ月であった(HR:0.76;CI:0.592-0.981、NA)。

免疫療法を追加した「熱い」腫瘍の患者のPFSにおける有益性は72%で、期待した50%よりもはるかに高く、「冷たい」腫瘍の患者のPFSへの免疫療法の有益性は中程度であった。「冷たい」腫瘍が免疫療法によく反応するように、化学療法で腫瘍のDNA修復機構を損傷させるのかもしれません」とMirza博士は解説する。

また、OSについても初期の段階で併用療法を支持する傾向が見られた。24カ月時点に生存していた患者は、化学療法+プラセボ群が56%であったのに対し、免疫療法+化学療法群は71.3%であった。「熱い」腫瘍の患者のOSは免疫療法+化学療法群が83.3%、化学療法+プラセボ群が58.7%であった。「冷たい」腫瘍の患者のOSは免疫療法+化学療法群が67.7%、化学療法+プラセボ群が55.1%であった。

参考文献:
1. Abstract VP2-2023 – Dostarlimab+chemotherapy for the treatment of primary advanced or recurrent (A/R) endometrial cancer (EC): A placebo (PBO)-controlled randomised phase III trial (ENGOT-EN6-NSGO/GOG-3031/RUBY) presented by Mansoor Mirza during ESMO Virtual Plenary on 27 March 2023, at 18:30 CEST (12:30 ET) The results will also be presented later the same day at the Society of Gynecologic Oncology Congress in Tampa, Florida, USA (17:15 ET). In concomitance with this latter presentation there will be simultaneous publication of results in the New England Journal of Medicine.
2. World Cancer Research Fund International. Endometrial cancer statistics, 2020
3. Lortet-Tieulent J, Ferlay J, Bray F, Jemal A. International Patterns and Trends in Endometrial Cancer Incidence, 1978-2013. J Natl Cancer Inst. 2018 Apr 1;110(4):354-361
4. Rahib L, Smith BD, Aizenberg R et al. Projecting cancer incidence and deaths to 2030: the unexpected burden of thyroid, liver, and pancreas cancers in the United States. Cancer Res. 2014 Jun 1;74(11):2913-21
5. American Cancer Society. 5-year relative survival rates for endometrial cancer
6. Talhouk A, McConechy MK, Leung S et al. Confirmation of ProMisE: A simple, genomics-based clinical classifier for endometrial cancer. Cancer. 2017 Mar 1;123(5):802-813. 
7. Abu-Rustum NR, Yashar CM, Bradley K, et al. NCCN Guidelines. insights: uterine neoplasms, version 3.2021. J Natl Compr Canc Netw 2021;19:888–95.
8. Oaknin A, Bosse TJ, Creutzberg CL et al; Endometrial cancer: ESMO Clinical Practice Guideline for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2022 Sep;33(9):860-877. 

  • 監訳 喜多川亮(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)
  • 翻訳担当者 松長愛美
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  • 原文掲載日 2023年3月23日

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