精巣腫瘍サバイバーにおける二次がん発症リスク増加

治療の進歩により精巣がんの治癒率は向上するも、治療後のがん発症リスクは増大

化学療法のプラチナ製剤と放射線療法の導入で、外科手術単独と比較して精巣胚細胞腫瘍患者の治癒率が大幅に改善されているが、これらの治療法により二次性悪性新生物(SMN)のリスクも増加するとの報告がJournal of Clinical Oncologyに掲載された。

本研究の筆頭著者であるオランダがんセンター(アムステルダム)のHarmke J. Groot氏と研究チームは、プラチナ製剤を含む化学療法または放射線療法を受けることと二次がん発症に関連するリスクを後ろ向き研究で評価した。研究者らはオランダで1976年から2007年の間に精巣腫瘍の治療を受けた患者の大規模コホートを対象に、長期にわたる治療特異的な二次性固形腫瘍リスクについて、オランダ一般人口の全体的ながん発生率と比較した。

多施設共同コホートは、50歳未満で精巣がんの標準治療を受け、1年間生存が確認された5,838人の患者で構成されていた。標準治療として、片側精巣摘除後にⅠ期またはⅡ期セミノーマ患者には予防的リンパ節放射線治療を実施し、播種性セミノーマまたは播種性非セミノーマの患者には摘除後に併用化学療法を実施した。

多変量回帰分析を用いて生存患者と一般集団間の治療特異的リスクを評価し、コホート評価の範囲内で治療量に対する過剰ハザード比(HR)が存在するかどうかを判定した。

二次性悪性新生物(二次がん)の累積発症率は、一般集団よりも精巣腫瘍サバイバーで高い

精巣腫瘍の患者集団における1年生存者では、中央値で14.1年の追跡調査期間に350人が二次性固形がんを発症した。 二次性固形腫瘍の累積発症率は25年間の追跡調査時点で10.3%(95%信頼区間[CI] 9.0%〜11.6%)であった。

最初の二次性固形腫瘍発症までの中央値は、全コホートにおいて16.9年(四分位数範囲、10.5〜23.1年)であった。精巣がんの1年生存者のリスクは一般集団と比較して1.8倍高かった(95%CI 1.6~2.0)。

非セミノーマ治療患者は二次がん発症の可能性が高い

精巣摘除術後、セミノーマ患者(n = 2817)の82.4%は放射線治療を受けたが、非セミノーマ患者(n = 3021)の57.9%はプラチナ製剤を投与された。 固形SMNを発症するハザード比は、セミノーマ患者で1.52、非セミノーマ患者では2.21であった。

セミノーマのサバイバーは小腸、膵臓および膀胱の二次がんリスクが増大したが、 非セミノーマのサバイバーでは甲状腺、肺、胃、膵臓、大腸、膀胱、メラノーマおよび軟部肉腫の二次がんリスクが増大した。

放射線照射量および化学療法の投与量に対して、用量依存的に二次がんリスクが増加した

多変量解析より、プラチナ製剤は二次性固形腫瘍のリスク増加と関連していた(HR 2.40; 95%CI 1.58~3.62)。 プラチナ製剤を100mg / m2増量毎に、消化器二次がん発症のハザード比は53%増大した(95%CI 26%~80%)。

プラチナ製剤による治療後の二次がん発症リスクは、大腸以外の消化器で最も高く(HR 5.00; 95%CI 2.28~10.95)、次いで大腸が高かった(HR 3.85; 95%CI 1.67~8.92)。

外科手術単独による治療(HR 2.42; 95% CI 1.50,~3.90)と比較すると、外科手術後のプラチナ製剤の投与量が400〜499および500mg / m2 で二次性固形腫瘍リスクが高かった(HR 2.43; 95% CI 1.40~4.23)。

しかし、外科手術単独と比較しても低用量のプラチナ製剤では二次性固形腫瘍リスクの有意な増大はみられなかった(HR 1.75; 95%CI 0.90~3.43)。

放射線治療を受けた1年生存者では、横隔膜下二次がんのハザード比(HR)は、照射線量1Gy増量毎に8%有意に増加し(95%CI 6%~9%; p値 = 0.001)、消化器の二次がんのハザード比では1Gy増量毎に9%増加した(95%CI 7%~11%; 傾向p値= 0.001)。

横隔膜下二次がんリスクに関連した傍大動脈領域への26Gy照射(追跡調査後期の標準治療)のリスク比は放射線無治療と比較して、 1.88(95%CI 0.90~3.92)であった。ドッグレッグ領域への同線量の照射(追跡調査初期の標準治療)を受けた患者のリスクは、4.04倍に上った(95%CI 2.27~7.18; 異質性p値= 0.001;年齢および化学療法用量を調整)。

結論

著者らは、本研究が精巣腫瘍サバイバーと新たに精巣腫瘍と診断された患者の両方にとって重要な意味を有すると結論付けた。

研究者らは、低線量の横隔膜下照射および少ないサイクル数の化学療法で二次がんリスクが低いことを指摘した。この結果は、プラチナ製剤および放射線治療による曝露がさまざまな二次性固形腫瘍の発生リスクの増加と関連し、特にプラチナ製剤と消化器二次性腫瘍に極めて強い用量関係反応を示した。

研究者らは、治療強度を減らし、これらの晩期障害に対する認識を高める努力をするべきであると助言する。信頼できるスクリーニングツールが利用可能であれば、精巣がんの治療を受けた患者への早期発見に役立つと示唆している。

本研究は、オランダがん協会助成金番号2011-5209の助成を受けたものである。

参照
Groot HJ, Lubberts S, de Wit R, et al. Risk of Solid Cancer After Treatment of Testicular Germ Cell Cancer in the Platinum Era. JCO 2018; Jul 10:JCO2017774174. doi: 10.1200/JCO.2017.77.4174.

翻訳担当者 小熊未来

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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原文掲載日 

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