フォンヒッペル・リンドウ病に関連腫瘍の治療に承認されたBelzutifan

まれな遺伝性疾患であるフォンヒッペル・リンドウ病(VHL)の患者は、腎臓、膵臓、脳、脊椎などの多臓器にがん性および非がん性腫瘍を発症するリスクが高い。医師は通常、手術によってこれらの腫瘍を切除してがんの転移を防ぐが、手術を重ねるごとに合併症のリスクが高まる。

米国食品医薬品局(FDA)が最近承認した新薬は、腫瘍を縮小させることにより、VHL患者における手術の回避または延期に有用な可能性がある。

8月13日、FDAは、VHLに関連する複数の腫瘍を有する成人の治療にbelzutifan[ベルズチファン](販売名:Welireg[ウェリレグ])を承認した。この薬は特に、すぐに手術を必要としないVHL関連腎細胞がん(腎臓がんの一種)、中枢神経系血管芽腫(脳や脊髄に形成される非がん性腫瘍の一種)、および膵神経内分泌腫瘍(まれな膵臓がんの一種)の治療に承認されている。  

今回の承認は、VHL関連腎細胞がん患者を対象にベルズチファンを検討した小規模臨床試験の結果に基づいており、すべての患者が他のVHL関連原発腫瘍を合併していた。

18カ月後、半数近くの患者で腎臓腫瘍が30%以上縮小し(部分奏効)、1年後もその患者の腫瘍の大部分が奏効を維持していた。ベルズチファンは、VHL関連脳腫瘍、膵臓腫瘍および眼腫瘍も縮小させた。  

「患者における効果をみたときは膝が震えました。信じられませんでした」と述べたのは、第2相試験を実施したチームの一員であるNCIがん研究センターの泌尿器腫瘍科長W. Marston Linehan医師である。「この薬は、これらの患者の治療に革命をもたらす真の可能性を秘めています」。

「VHL関連腫瘍患者の治療を目的とするFDA承認薬はこれが初めてです」と語るのは、治験責任医師を務めた泌尿器腫瘍科のRamaprasad Srinivasan医学博士である。「今は一部の患者に対して、『この薬で手術を回避できるかもしれません』と言えるのです」。

治療への道を模索

VHL病は、VHL遺伝子の変異によって発症する。

1990年代初めに、NCIのLinehan博士らがVHL遺伝子を特定し、この遺伝子の変異がほとんどの散発性(または非遺伝性)明細胞腎がんに関連していることも突き止めた。

「その遺伝子を発見するのに約10年かかりました」。「私たちの目標は、この遺伝子を特定し経路を調べ(標的)治療を開発することでした」。

彼らの知見は、ベルズチファンの開発と承認につながる一連のさらなる発見をもたらした。最初の発見は、1990年代後半から2000年代前半になされ、VHLタンパク質がHIFと呼ばれるタンパク質群のレベルの制御に直接関与していることをハーバード大学医学部のWilliam Kaelin医師とオックスフォード大学のPeter Ratcliffe医師が発見した。VHLが欠損したり、正常に働かなかったりすると、HIFタンパク質が蓄積し、腫瘍の増殖を引き起こすことを明らかにした。

その後の研究で、特定のタイプのHIFタンパク質であるHIF-2αが、腎臓腫瘍の増殖に重要な役割を果たすことがわかった。HIF-2αは転写因子であり、他の遺伝子の発現を制御するタンパク質である。

最終的には、テキサス大学サウスウェスタン校の研究者らが、HIF-2αに結合する薬物が得られることを発見し、のちにHIF-2αのがん増殖作用を効果的に阻害できる化合物を開発した。その化合物がベルズチファンとなった。

「転写因子に対する薬はみつからない、うまくいかない、と長年言われ続けてきました」とSrinivasan博士は語る。「この薬の開発者たちはそれが誤りであることを証明しました。これは非常に巧妙なドラッグエンジニアリングなのです」。

試験で腫瘍縮小を示す

ベルズチファンの臨床試験では、1個以上の腎臓腫瘍を有するVHL患者61人が、ベルズチファンの錠剤を1日1回投与された。試験は、ベルズチファンを製造するメルク社から資金提供を受けた。

18カ月後、49%の患者が部分奏効を示した。「腫瘍縮小の度合いは非常に明らかで、しかも顕著でした」とSrinivasan博士は述べた。「そして、腫瘍は時間とともに縮小し続けます」。

さらに、腫瘍の部分奏効が得られた患者の大部分が、1年後も奏効を維持していた。部分奏効が得られなかった患者でも、大部分で腫瘍サイズにある程度の縮小がみられたとSrinivasan博士は指摘する。

ベルズチファンは、膵臓腫瘍、脳・脊椎腫瘍、眼腫瘍も縮小させた。

「VHL関連腎臓がんでは、HIF-2αが非常に重要であることがわかっていました。また、脳腫瘍、膵臓腫瘍、眼腫瘍でもHIF-2αが重要であると期待していました」とLinehan博士は語る。「しかし、臨床試験を行うまでは本当のところはわかりませんでした。だからこそ、このような反応をみて非常に感激したのです」。

部分奏効は望ましい反応であるとSrinivasan博士は指摘する。「完全奏効が得られて、新たな腫瘍が発生しないほうがいいのはもちろんです」。しかし、「患者の臨床転帰に大きな影響を及ぼす」には、腫瘍を完全に消滅させる必要はないと言う。「腫瘍を3cmではなく1.5cmまで縮小させ、それを維持できれば」、患者は長年にわたって手術を回避できる。

ベルズチファンの副作用は軽度であり、疲労、頭痛、めまい、悪心などがみられた。最も高頻度にみられた副作用は貧血であり、90%の患者が経験した。

「HIF-2α阻害薬は、血球産生に必要な経路を阻害するため、貧血が最も一般的な副作用です」とSrinivasan博士は説明する。

それでも、「この薬は比較的服用しやすい(患者の忍容性が高い)薬であり、他の薬とも併用しやすいはずです」とLinehan博士は述べた。

ベルズチファンの次のステージ

Srinivasan博士によると、VHL病はまれな疾患であるため、数百人のVHL関連腫瘍患者の参加を必要とする大規模臨床試験がすぐに行われる予定はない。加えて、第3相試験でベルズチファンと比較する他の有効な薬もない。

だからといって、ベルズチファンの物語が終わってしまうわけではない。むしろ、始まりにすぎないとSrinivasan博士は言う。

「この薬について、もっと多くのことを理解する必要があります」。「ベルズチファンをどれくらいの期間投与できるのか、どのような投与方法が最適なのかを確認する必要があります」。患者に継続して投与すべきなのか。ベルズチファンをしばらく投与したあとに休薬し、その後投与を再開すべきなのか。腫瘍が反応しない患者には、ベルズチファンと他の薬を組み合わせることができるのか。それとも、さらに高用量のベルズチファンを投与する必要があるのか。「この種の疑問は、科学が解決してくれるでしょう」とSrinivasan博士は語る。

VHLに関連しない明細胞腎がんで、腎臓以外に進展または転移した患者の治療でベルズチファンの有効性を評価する第3相試験が進行中である。

この薬が、眼腫瘍などの他のVHL関連腫瘍に対してもFDA承認される日が来ることを期待しているとLinehan博士は語る。「やるべきことはまだたくさんありますが、今後のチャンスに期待しています」。「この薬が、これらの患者の手術の必要性を劇的に変え、より良い生活を実現してくれることは間違いありません」。

翻訳担当者 工藤章子

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

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