OncoLog 2014年8月号◆免疫チェックポイント阻害剤は転移性腎細胞癌やその他の治療困難な癌に対して有望

MDアンダーソン OncoLog 2014年8月号(Volume 59 / Number 8)

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免疫チェックポイント阻害剤は転移性腎細胞癌やその他の治療困難な癌に対して有望

10年前、癌専門医は大半の転移性腎細胞癌(RCC)患者に対してなすすべがほとんどなかった。しかし、転移性黒色腫の治療を変えた重大な発見によって、転移性RCCを含むその他の転移性癌に対する期待が高まり、患者に長期生存に対する新たな希望を与えることができるようになった。

飛躍的進歩は細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)の発見であった。CTLA-4はT細胞表面上に存在する受容体であり、T細胞の活性化を阻害することにより免疫反応を抑制する。当時カリフォルニア大学バークレー校の教授であり、現在テキサス大学MDアンダーソンがんセンター免疫学部の教授および主任であるJames Allison氏は、抗CTLA-4という抗体を開発した。抗CTLA-4抗体は、この「免疫チェックポイント」タンパク質を阻害し、免疫系を解放して腫瘍を攻撃および不活性化させる。Allison氏とその研究チームは、CTLA-4経路の阻害により腫瘍が縮小することを発見した。

臨床試験では、抗CTLA-4(現在イピリムマブ:ipilimumabとして知られている)によって進行黒色腫患者の生存期間が有意に延長され、2011年にイピリムマブが転移性黒色腫の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)によって承認されたことは大きな進展であった。現在、多くの癌専門医は、その他の種類の癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の使用に注目している。

進行RCCにおける免疫療法

新しい免疫療法が注目を集めている癌は転移性RCCである。概して、従来の治療法は、転移性RCC患者の生存に対してほとんど効果がない。このような状況は、血管内皮増殖因子経路や哺乳類ラパマイシン標的の阻害剤などの分子標的薬の導入によって過去10年間で変化し始めた。しかし、これらの薬剤は一部の患者のみでしか有効ではない。これらの薬剤の効果がみられない患者に対する代替薬が必要とされている。

尿路生殖器腫瘍内科学教室の准教授Padmanee Sharma氏は、「免疫療法は古くから存在する。癌研究者は、体内の自然免疫に腫瘍と戦わせる方法について長年取り組んできた。初期の研究では、免疫系にスイッチを入れる方法に焦点を当ててきた」と述べた。同氏によると、これらの研究により、進行RCCの治療としてインターロイキン-2やインターフェロンなどのサイトカインを高用量で投与し、T細胞の増殖を誘発させることにつながった。高用量サイトカインによる治療は20年以上行われているが、転移性RCC患者で適応とされるのは一部の患者に過ぎない。

Sharma氏は次のように述べた。「長年、この『オン・スイッチ』法について多くの組み合わせが試されてきたが、免疫系の複雑性が十分に理解されていなかったために大きな成功はなかった。Allison氏の研究が示したのは、免疫系にスイッチを入れることだけでは十分ではないということである。なぜならば、一度スイッチが入ると、免疫系は自身でスイッチを切るようにプロブラムされているからである。『オフ・スイッチ』を解除することによってのみ、抗腫瘍効果を得られるが、これがチェックポイント阻害剤によってなされることである」。

尿路生殖器腫瘍内科学教室の准教授および副主任のNizar Tannir氏は、チェックポイント阻害剤の作用を、T細胞に癌細胞を攻撃させることを可能とする、免疫系への「ブレーキ解除」と例えた。

CTLA-4およびその阻害剤の発見後、Tannir氏は、その他のチェックポイントタンパク質の阻害剤の開発に相当な努力がなされているため、「全体的には始まりに過ぎない」と述べた。プログラム細胞死タンパク質(PD-1)と呼ばれるもう一つのチェックポイントタンパク質の阻害剤ニボルマブ[nivolumab]は、転移性RCCやその他の癌の治療薬としてMDアンダーソンなどで第3相臨床試験が行われている。Tannir氏は、「これらのチェックポイントタンパク質を標的としたまったく新しいクラスの薬剤が現在あり、期待が高まっている。目覚しい成果がみられるであろう」と述べた。

チェックポイント阻害剤の成功によって、一般人も大きな期待を抱くようになった。Sharma氏は、「患者はこれらの薬剤の効果に非常に注目しており、免疫療法の臨床試験への参加を熱望している。患者はFDAの承認まで待つことを望んでおらず、治療を受けるのが早いほど良いと考えている」と述べた。

Sharma氏およびTannir氏によると、RCCやその他の癌の治療を目的としたチェックポイント阻害剤の新たな試験がまもなく始まることが期待され、近い将来、進行RCCの治療薬としてニボルマブがFDAに承認されると予測している。

併用療法に対する高まる期待

これまでに試験で試されてきたチェックポイント阻害剤は、顕著な結果を残してきたが、すべての患者に有効というわけではない。奏効率を改善させる試みの結果、自然と複数のチェックポイント阻害剤の併用にいきついた。CTLA-4阻害剤やPD-1阻害剤のさまざまな組み合わせが、種々の癌の治療を目的として第1相および第2相臨床試験が行われている。

転移性RCCの治療を目的としたチェックポイント阻害剤の併用に関する試験結果は現在得られていないが、進行黒色腫の治療を目的として早期に行われたある一つの併用に関する試験では、1年全生存率が約80%となり、進行黒色腫の治療で用いられた薬剤ではこれまでにない結果であった。Tannir氏およびSharma氏は、RCC患者において同じように顕著な結果が出ることを期待している。

また、チェックポイント阻害剤は、転移性RCCの治療を目的としてソラフェニブやスニチニブなどの分子標的薬と併用されている。これらの試験結果はまだ入手できていないが、この併用法は進行癌患者の生存率に大きな影響を与えると予測されている。

免疫チェックポイント阻害剤は従来の治療法と違う

癌治療において免疫チェックポイント阻害の最も刺激的な点の一つは、従来の細胞障害性抗癌剤や分子標的治療薬とは異なり全ての癌に例外なく作用する可能性があるということである。免疫チェックポイント阻害剤の単剤または併用療法により、これまで、進行したメラノーマや腎細胞癌のみならずトリプルネガティブ乳癌や前立腺癌、膀胱癌、肺癌、頭頸部癌に対しても有望な結果がもたらされている。

Sharma博士は「免疫チェックポイント阻害剤は、患者によりばらつきの激しい特定の腫瘍細胞を標的としないため、多くの異なるタイプの腫瘍に対し作用する。もっと正確に言えば、免疫チェックポイント阻害剤は誰においても本質的に同じである免疫系を標的とする。人は誰しもがT細胞をもち、全てのT細胞にはCTLA-4やその他のチェックポイント蛋白質が存在する。だからこそ、そのチェックポイントを阻害することによりこれだけ多くの異なった癌種に対し作用するのである」と述べた。

免疫チェックポイント阻害剤は副作用の面でも従来の治療法と異なる。Sharma博士は「われわれはブドウ膜炎、皮膚炎、大腸炎、肝炎、膵臓炎などの炎症作用を確認しており、全て継続的な免疫応答の活性化によるものである。これらの免疫関連の有害事象は、早期に発見し迅速に治療すれば、ステロイド剤でかなり良好にコントロールできる。そういった炎症反応の多くは速やかに回復する」と説明した。

免疫チェックポイント阻害剤での非可逆的な副作用の一つは下垂体炎で、脳下垂体で発症する。この有害事象が発症したごく一部の患者では低用量の経口ステロイド剤による長期治療が必要となる。

驚いたことに、免疫に関わる有害事象をステロイド治療することにより免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果の大幅な低下はみられないようである。Sharma博士は「このことについて、わたしたちはまだ完全に解釈できていない。ステロイド治療を始める以前に、十分に免疫応答を確立する機会があったためだと考えている。ステロイド剤は新たに発生してくる免疫細胞を抑制するものの、患者の体内には腫瘍に対し免疫応答を開始するのに十分な数の正常なメモリーB細胞やT細胞が残っている。わたしたちは、なお、これらの免疫応答を制御する経路について追究している」と述べた。

治療期間も免疫チェックポイント阻害剤と従来の全身治療薬との相違点の一つである。イピリムマブの早期臨床試験で、試験担当医師は早期に(場合によってはほんの数回の投与で)治療を中止した患者が生存期間を劇的に延ばしていることに気付いた。最終的に、研究者は12週にわたる4回の治療で延命効果がもたらされることをつきとめ、今やこれが標準的で認可された治療法となっている。ニボルマブなど他の免疫チェックポイント阻害剤もこのような短い治療期間で類似の延命効果を示すかどうかを述べるには早急過ぎるが、Sharma博士およびTannir博士の両氏は、これらの新薬はイピリムマブと同様な傾向を示すと考えている。

免疫チェックポイント阻害剤が他の治療法と決定的に異なる点は、治療の成功がどのように定義されるかということである。従来の治療法に対する反応の評価は画像検査や臨床検査により判定されるが、免疫チェックポイント阻害剤の効果は主として延命効果により評価される。「第1相臨床試験で免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始してから約10年生存している転移性メラノーマ患者がいる」とTannir博士は述べた。「免疫チェックポイント阻害剤治療を開始してから2~3年(またはそれ以上)生存している進行性RCC患者もいる。そういった患者は現在も生存しており体調は良好だが、その患者の治療に対する奏効は「完全」とは言えない。そういった患者の多くではCT検査により残存腫瘍とみられる病変が認められる。しかし、そんなことはどうでもよい。病勢は長い間「安定」し、患者は非常に長く生存しているのだ。彼らは、10年前は余命1年以内と思われていた患者なのである」。

未来は明るく照らされている

他の治療法が失敗した患者において免疫チェックポイント阻害剤での治療が有効だったことをうけ、現在進行中の複数の試験において未治療の転移性RCCまたは他の癌を患う患者に対して免疫チェックポイント阻害剤が効果を示すかどうかが研究されている。Tannir博士は「免疫チェックポイント阻害剤の効果について”ある”と述べるだけの自信と興奮は十分にあり、免疫チェックポイント阻害剤を最前線におくことができる。チロシンキナーゼ阻害剤といった分子標的治療薬を一次治療として試す必要はない。初めから免疫チェックポイント阻害剤を使用してよいのである」と述べた。

Tannir博士およびSharma博士は、研究者は特定の患者集団に対する最適な治療法を特定するためさまざまな併用法や投与計画を試すために、これから数年は免疫チェックポイント阻害剤が癌研究における主要なパラダイムの一つになると予測している。

現在のゲノム医療の時代では、どの患者がある特定の薬剤、あるいは薬剤や治療法の組み合わせに対し反応するかが予測できるようになった。Sharma博士は「しかし免疫システムの複雑さのため、おそらく単独の予測的バイオマーカーでは患者の反応は判定されないであろう。免疫療法のための理想的な候補患者の集団を選択することよりも、各々の患者あるいは全ての患者がどのように免疫療法から恩恵を受けることができるかということについて考えていくつもりである。われわれの目的は、最適な薬剤あるいは併用療法において抗腫瘍効果を最大限に引き出せるように各患者の免疫応答を調節することである。重要な点は、患者を除外するのではなく、全ての患者の免疫系を、治療が奏効している患者のように機能させることなのである」と述べた。

現在進行中の臨床試験は、将来的な治療の改善を目指す方向性を決めることになるだろう。「併用療法はかなり期待できる。併用療法は、全ての患者で強力な抗腫瘍効果を引き出すための用量や投与計画の改変の絶え間ないチャンスと相乗効果をもたらしてくれる」とSharma博士は述べた。「免疫療法は他の治療法とは違う。基本的枠組みの抜本的な変化、文化の変革である。われわれは免疫療法の真の可能性を引き出しつつある」。

For more information, contact Dr. Padmanee Sharma at 713-792-2830 or Dr. Nizar Tannir at 713-563-7265.

【画像キャプション】
Nizar Tannir氏(左)がPhillip Prichard氏の診察をしている。Prichard氏の進行した腎細胞癌は、試験薬ニボルマブを用いた治療に良好に反応している。

免疫チェックポイント阻害剤の成功例

2012年7月、Philip Prichard氏は腎細胞癌に対し右腎摘出を受け、腎肉腫様成分が90%を超える腎淡明細胞癌と判明した。5カ月後、右腎摘出のあとに、肝臓に浸潤する大きな腫瘍として再発し、切除不能とみなされた。

分子標的薬パゾパニブによる治療にも関わらず、再発癌は16週以内に進行した。2013年3月、Prichard氏はMDアンダーソンに紹介され、そこでNizar Tannir医師ら臨床医はPrichard氏を抗PD-1抗体ニボルマブ注射剤の臨床試験に登録した。

Prichard氏は典型的な外来受診について語った。「隔週で朝4時に起床しヒューストンへ飛びました。到着すると、採血を受け、Tannir医師の診察を受けました。その後、点滴につながれそこで1時間ほどを過ごします。画像検査を行わない限り、その日のうちにまた飛行機で帰宅します」。

初めてヒューストンを訪れた当時、Richard氏は貧血を患い、痛み、多量の寝汗、疲労に悩んでいた。「空港ではやっとの思いで歩いていました」と彼は語った。

治療開始から8週以内でPrichard氏の体力は戻り、体調は回復していった。Tannir博士によると、腫瘍は治療に反応し、治療開始から8週で元の半分の大きさに縮小したと述べた。

ニボルマブでの治療から13カ月後、腫瘍の75%は消退し、Prichard氏に有害事象はみられなかった。治療効果はほぼ完全であったと説明し、Tannir博士は「Prichard氏の貧血は改善し体力も戻りました。再び健康を取り戻したのです」と述べた。

Prichard氏は仕事にも復帰し、再び活動的になったと言う。「人生が変わりました」と彼は語った。

— Kathryn L. Hale

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翻訳担当者 仲里芳子、佐々木亜衣子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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