結核ワクチンの進歩を示唆する研究
「感染防御能と相関する免疫学的指標」の先端技術を用いた分析により100年来のワクチン戦略が改善する可能性がある
フレッドハッチンソンがん研究センターの研究者らは、この世で最も致命的な感染症を止めるワクチンを新たに検討している。その感染症とは、コロナウイルスでも、鳥インフルエンザでもヒト免疫不全ウイルスによるものでもない。結核である。
毎年、結核によって150万人もの命が奪われるが、死亡者の多くは開発途上地域に住む人々である。一方、耐性が強い結核菌に対して十分に効果的なワクチンはなく、現在最良のワクチンは主に子供を守るためのものであり、100年以上前に作られたものである。
乳幼児期に結核に対する予防接種を受け、その12~17年後にワクチンの再接種を受けた南アフリカの青少年における免疫反応を検討した試験の結果が、Lancet誌が運営するオープンアクセスのEClinicalMedicine誌に本日発表された。フレッドハッチのJim Kublin医師が本試験の上級著者である。
BCG(カルメット・ゲラン桿菌)というその小児用ワクチンは、子供に重度の髄膜炎を引き起こす結核に対して71%有効と言われているが、その効果はおよそ10年しか続かず、世界の地域によって試験結果は大きく異なっている。
このワクチンは米国では使用されていない。米国では幸いなことに、他の地域に比べて結核がまれなためである。しかしインドやサハラ砂漠以南のアフリカなどでは、結核は風土性であり、古くからのこの殺人的な病を抑えるにはより良いワクチンや免疫化戦略が必要である。
100年来のワクチンを改良するチャンス
Kublin医師は、フレッドハッチに本部をおくHIVワクチン臨床試験ネットワーク(HVTN)の常任理事である。HVTNは国際共同研究団体であり、HIVワクチン開発で得た技術や教訓を、BCGや他の結核ワクチン候補に対する免疫系の反応評価に応用している。
「結核ワクチンは100年変わっていません。今回はこれを改良する良い機会です」とKublin医師は述べた。
新たな試験は、BCGとH4:IC31という実験的な結核ワクチンを評価する大規模なワクチン再接種試験の関連試験として、南アフリカで立ち上げられた。同試験は2014年に開始され、およそ1,000人の被験者が参加した。結果は2018年7月にNew England Journal of Medicine誌に発表され、BCGの再接種はおよそ45%で有効であった。この結果は新たな選択肢であるH4:IC31よりも良好であった。H4:IC31は若干免疫を活性化させたが効果はわずか31%であった。
約2年が経過した今回、Kublin医師らは小規模な並行試験であるHVTN 602試験において、被験者の免疫系がワクチンにどのように反応したかを詳しく検討した結果を初めて発表した。
同試験から得た結果の一つは、感染防御が、BCGワクチンの有効成分を特異的に標的とするT細胞の増加と関連していたことであった。BCGワクチンはウシ型結核菌という生菌だが比較的無害な結核菌である。ウシ型結核菌に対する「免疫記憶」を、おそらく小児期のワクチンによって獲得した細胞が顕著に増加したことが試験により明らかになった。ワクチン再接種後に、免疫記憶がそのような細胞の産生を活発にしたのである。
BCGは長年免疫賦活剤として知られている。「BCGと感染性微生物とが類似していない場合でも、BCGは他の感染症を防ぐように免疫系を訓練します」とKublin医師は述べた。
たとえば、最近の試験では以下のことが示された。血流中の外来微生物に最初に反応する自然免疫系において、防御に関わる血液細胞を刺激することによって、黄熱病ウイルス弱毒株の活動性が低下する。
BCGによって引き起こされる免疫応答は、がん治療にも用いられている。フレッドハッチの臨床ケアパートナーである シアトルがんケア・アライアンス(Seattle Cancer Care Alliance)や他のがんセンターで、このワクチンは膀胱がんに対する患者の免疫系を活性化するために使用されるとKublin医師は述べた。
結核の罹患率が低いBCGワクチン接種者に出現するバイオマーカーは「感染防御の指標(correlates of protection)」として知られている。このバイオマーカーは一種の生物学的代理指標として機能する可能性がある。つまり活動性結核を発症するかどうかを調べる臨床試験の結果を長期間待つことなく、同マーカーの存在をワクチンが有効な信号であるとして判断できるかもしれない。
実際、この新規の論文は発表された最初の一本であるが、同試験で特定されたさまざまな「感染防御の指標」を探索している。また、最初の防御である自然免疫系の中でも「感染防御の指標」を探索している。たとえば、防御が継続している参加者で、ワクチン再接種後に単球やマクロファージとして知られる細胞が増加したのかどうか、などである。
「この論文で発表した内容は、ほんの一部にすぎません」とKublin医師は言った。
ワクチンが機能する人もいれば、機能しない人もいるのはなぜか
研究者らは試験の参加者の便検体中のバイオマーカーについても調べている。その理由は、個人の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の違いによって、その個人でどれほど有効にワクチンが機能するかが決まる可能性があると、複数の試験で示されたからである。
フレッドハッチの研究者であるAndrew Fiore-Gartland医師はHVTN 602の統計の責任者であった。このワクチンの生物学に関する小規模だが集中的な試験の目的は、再接種を受けた12歳~17歳の青少年の免疫応答を深く掘り下げて検討することであると、同氏は述べた。
これらの試験を可能にしたのは、さまざまなバイオマーカーを高速で探し出し、感染防御の指標を見つけることができる最新のフローサイトメトリーなど、分子生物学分野の技術進歩である。
「これにより、ワクチンが効果を発する人もいれば、効果を発しない人もいるのはなぜなのか分かるのです」と同氏は述べた。「一度感染防御の指標を特定すれば、ワクチンの改良に取り掛かることができます。指標が見つからなければ、単にダーツを投げているようなものです。指標の特定は合理的なワクチン開発です」。
HVTN 602試験の筆頭著者は、南アフリカ、ケープタウン大学Desmond Tutu HIV CentreのLinda-Gail Bekker医師である。本プロジェクトは、米国国立衛生研究所(NIH)の一部である国立アレルギー感染症研究所、NIH / NIAD Duke Center for AIDS Research、ビル&メリンダ・ゲイツ財団および英国国際開発省から本試験のための資金援助を受けたAerasから研究助成を受けた。サノフィパスツールは臨床試験用の製品を提供した。
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