2013/01/08号◆癌研究ハイライト「遺伝学研究により新たな膀胱癌治療が特定か」「パクリタキセル/パゾパニブ併用療法は致死的な甲状腺癌の治療に有用な可能性」「p16検査によってHPV陽性女性の治療に関する情報が得られる可能性」「遺伝子変異だけでは癌細胞の挙動は決定されない」

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NCI Cancer Bulletin2013年1月8日号(Volume 10 / Number 1)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・遺伝学研究により新たな膀胱癌治療が特定か
・パクリタキセル/パゾパニブ併用療法は致死的な甲状腺癌の治療に有用な可能性
・p16検査によりHPV陽性女性の治療に関する情報が得られる可能性
・遺伝子変異だけでは癌細胞の挙動は決定されない
・(囲み記事)「その他のジャーナル記事:不足薬剤の代替品は劣っていることが判明」
・(囲み記事)「その他のジャーナル記事:進行癌患者における心肺蘇生法の現実をビデオで解説」

遺伝学研究により新たな膀胱癌治療が特定か

膀胱癌に関する最近の研究で、NCIの研究者らは、膀胱癌リスクの軽度増加に関連する遺伝的変異を特定した。この変異の細胞に対する生物学的影響を調査した結果、研究者らは、この変異は、他癌腫で研究的治療に反応する患者を特定するマーカーになり得ると考えるに到った。

先週号のJournal of the National Cancer Institute誌に掲載された結果によると、ヨーロッパ系の膀胱癌患者の最大75%が、遺伝的変異を引き継いでいる可能性がある。そしてこれらの人々は、この研究的治療の対象者となる可能性がある。

この変異は、細胞表面に発現するタンパク質をコードする遺伝子で起きる。前立腺幹細胞抗原(PSCA)と呼ばれるこのタンパク質は、多くの膵臓腫瘍や前立腺腫瘍でも高値で発現している。このタンパク質を標的とするAGS-1C4D4と呼ばれるモノクローナル抗体が開発され、前立腺癌に対する初期段階の臨床試験で肯定的な結果(こちらこちら)が出ている。

「このタンパク質は、さらに膀胱癌の治療標的としても有望な可能性を秘めていると考える」と、この試験を主導したNCIの癌疫学・遺伝学部門のDr. Ludmila Prokunia-Olsson氏は述べ、それでも、このタンパク質が膀胱癌に直接的に関与をしているのかどうかはまだ判明していないとつけ加えた。

この変異(rs2294008)は、膀胱癌のゲノムワイド関連研究(GWAS)の最中の2010年に特定された。この糸口を追求するために、研究者らは、この変異を持つ遺伝子と持たない遺伝子を人工的に作った。変異がある細胞ではPSCA値が高い一方、変異がない細胞ではPSCAは産生されなかった。また、膀胱癌患者の正常な膀胱組織と腫瘍組織から採取した細胞でも同様の傾向が認められた。

新たな知見は、この変異を持たない膀胱癌患者の細胞ではPSCAが産生されないため、AGS-1C4D4のような治療による効果を得ることができないことを示唆している。この結果に基づき、膀胱癌患者における治療標的としてのPSCAと治療反応の予測マーカーとしてのこの変異について検証するための臨床試験が必要だと、著者らは結論を下した。

本試験は、「GWASにより特定された多型の生物学について深く理解する必要があるという教訓」をもたらしたと、Prokunia-Olsson氏は述べた。今回のケースでは、特定された変異は膀胱癌リスクとそれほど強い関連はないとされていたが、その後の研究でタンパク質の発現に対する強い生物学的な影響があることが判明した。

「これは、一般的な癌のGWASによって特定された遺伝的変異の直接的な臨床上の意義を示す最初の研究の1つである」との声明をNCI癌ゲノムセンターの共同ディレクターであるDr. Stephen Chanock氏は発表した。

パクリタキセル/パゾパニブ併用療法は致死的な甲状腺癌の治療に有用な可能性

抗癌剤パクリタキセルパゾパニブ(pazopanib)による併用療法は、稀で致死的な未分化甲状腺癌の治療に役立つかもしれないことが、細胞と動物の実験から得た新たな知見から示唆された。Science Translational Medicine誌1月2日号に掲載された非臨床試験の結果は、ATCに対する新たな治療標的の可能性も指摘している。

「これは、治癒不能で遠隔転移が多い癌の治療に対して期待が持てる併用療法に思える。しかし、ヒトでの効果を評価するための試験が必要不可欠である」と、Dr. Ann Gramza氏は述べた。同氏は、NCIの癌研究センターで未分化甲状腺癌に対する新しい治療法の研究をしているが、この試験には関与していない。未分化甲状腺癌患者の生存期間中央値は概ね3~5カ月しかなく、そのため「どんな治療法でも転帰を改善する可能性があるものは受け入れる」と、Gramza氏はつけ加えた。

未分化甲状腺癌治療に効果が期待できるかもしれない薬剤の組み合わせを調査する中で、メイヨークリニック(ミネソタ州ロチェスター)のDr. Keith Bible氏らは、研究室で培養した未分化甲状腺癌細胞に対してパクリタキセル単剤又はパゾパニブと併用して投与した。

「併用群では、細胞死の増大に関連する細胞分裂過程の遅延が認められた。併用群の細胞では、完全な細胞分裂が行われずに細胞死に至った」とBible氏は説明した。未分化甲状腺癌細胞を移植したマウスの実験でも、併用群の腫瘍縮小効果は単剤群より優れていた。

その後の実験で、2剤の併用効果は、少なくともある程度は制御タンパク質であるオーロラAキナーゼを阻害するパゾパニブによるものであることが判明した。オーロラAキナーゼは、細胞分裂に必須のものである。このキナーゼは、これまではパゾパニブの標的として認識されてはいなかった。さらに、未分化甲状腺癌患者から採取した腫瘍細胞のオーロラAキナーゼメッセンジャーRNAとタンパク質の値が、正常な甲状腺細胞と比較して顕著に高値であったことも明らかになった。

したがって、「オーロラAは、特にパクリタキセルのような薬剤と併用した場合には、未分化甲状腺癌の有望な分子標的候補になると思われる」とBible氏は記した。

Bible氏らは、放射線治療を施行した場合、パクリタキセルとパゾパニブの併用はパクリタキセル単剤よりも効果があるかどうかを調べるためのランダム化臨床試験に向けて未分化甲状腺癌患者で安全性試験を始めている。

未分化甲状腺癌患者の予後は悲惨であると考えられているが、「未分化甲状腺癌患者の転帰を改善するとみられる有望な臨床試験結果や非臨床試験の結果が出てきている。未分化甲状腺癌患者に対する治療法の向上を目指すための取り組みの増加に満足している。現在進行中の臨床試験とこの研究は、そのような取り組みの1つである」とBible氏は結んだ。

p16検査によってHPV陽性女性の治療に関する情報が得られる可能性

検診でヒトパピローマウイルス(HPV)が陽性であってもバイオマーカーp16が陰性の女性では直ちに追跡検査を実施する必要はなく、2〜3年後に子宮頸癌検診を受けても問題がないことが新しい研究によって示された。イタリアCentro per la Prevenzione OncologicaのDr. Guglielmo Ronco氏らによるNew Technologies for Cervical Cancer(NTCC)検診試験のサブ解析である3年間の追跡結果Lancet Oncology誌12月21日号に発表された。

子宮頸癌の原因のほとんどは高リスク型HPV感染である。子宮頸癌は、HPVによって引き起こされる子宮頸部の前癌病変を治療することで効果的に予防できる。ほとんどの場合HPV感染は数カ月または数年以内に自然治癒する一方、子宮頸癌の発症までには10年以上を要する。研究者らは、最終的に自然治癒すると考えられる女性に対して不要な追跡検査を減らせるような検診方法を見出そうとしている。

NTCC試験に参加した女性達はHPV DNA検査を受けた。高リスク型HPVが陽性であった女性には、子宮頸部の前癌病変を検出するための検査法であるコルポスコピーを実施した。また、バイオマーカーp16検査も実施した。p16が陽性であればHPV感染によって細胞の変化が起こっていることを示している。

前回試験では、p16検査が陽性であることは高異型度子宮頸部上皮内腫瘍(CIN:CIN2、CIN3またはそれ以上に分類)患者に対する感度および特異度が高い所見であることが示されており、p16検査が陽性の女性はコルポスコピーを受けるべきであることが示唆された。一方で、p16検査が陰性であった女性の管理指針となる前向き研究データは示されなかった。

研究者らは試験参加者を初回検診時から3年間追跡し、HPVは陽性だがp16は陰性である女性に対して検診間隔を延長しても問題がないかどうかを検証した。3年間の追跡期間中、CIN3以上の病変が検出された女性の割合はp16陽性の女性では9.7%であったが、p16陰性の女性では1.7%のみであった。また、p16陽性の女性における前癌病変の相対リスクは25〜34歳よりも35〜60歳の方が高かった。

研究者らは、HPV陽性の女性にp16検査を実施してp16が陰性であれば、次回の検診を2〜3年後に延期しても問題ないと示唆している。

「医療環境や検査の利用可能性の違いもHPV陽性の女性に対する検診間隔や検査の導入方法を決定する因子となるだろう」と本研究の論評の著者であるNCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Nicolas Wentzensen氏は言う。また、今回の研究は期待の持てる結果であり、HPV陽性女性のp16検査による分類について、さらに詳しい研究を進める必要があるとも述べた。

HPV陽性女性のその他のバイオマーカー分類についても研究されているが、検診を受けた患者の追跡データを3年にわたり調査したのはRonco氏らの研究が最初である。

遺伝子変異だけでは癌細胞の挙動は決定されない

単一細胞から生育した大腸癌細胞は遺伝的には同一であってもその挙動が大きく異なることが研究室の実験で明らかになった。一般的に癌の根絶治療が失敗する原因は癌細胞の増殖時に新たな遺伝子変異が起きるためであると言われているが、Science誌の先月号に発表された上記の知見によれば、他にも原因があるかもしれない。

トロント大学のDr. Antonija Kreso氏およびDr. Catherine O’Brien氏が主導する研究チームは、まずヒト大腸癌10検体から単一細胞を分離した。次にこれらの単一細胞をマウスに移植し、癌を発生させた。発生した癌の細胞ゲノムは変異部分を含めて元の細胞のものと同一であった。この癌細胞を別のマウスに移植してもゲノムは安定しており、最大連続5回の移植を行っても新たな変異はそれほど起こらなかった。

同一ゲノムを保有しているにも関わらず、新たに発生した癌内での細胞の挙動はさまざまであった。別のマウスに移植しても増殖を続ける細胞もあれば、1回ないし数回の移植の過程で増殖能を失う細胞もみられた。また、初回移植では癌細胞が検出されなかったが移植を繰り返すうちに検出されるようになったり、初回移植では検出されたがその後の1回ないし数回の移植では検出されず、その後の移植で再び検出されるようになるなど、休止期間を経て再び増殖能を獲得した細胞もみられた。細胞の遺伝子検査ではこれらの挙動の違いを十分に説明できるような変異は認められなかった。

次に、研究者らは挙動の異なる細胞が大腸癌の治療薬であるオキサリプラチン(エロキサチン)に対して異なる反応を示すかどうかを検証した。オキサリプラチンで処理したマウスの癌細胞を別のマウスに移植して発生させた癌では、それまで増殖を続けていた細胞が占める割合は低く、休止期の後に増殖を再開した細胞の割合が高かった。

著者らの説明によると、この結果は「休止期の(大腸癌)細胞や増殖速度が緩やかな(大腸癌)細胞はオキサリプラチンに耐性を示し、再び癌を増大させることができる」ということを示唆している。

さらに、「われわれの研究結果は、大腸癌の内部で不均一性を生じる遺伝子多様性では説明のつかない複雑なメカニズムの存在を明らかにしている」とも述べている。論文によると、癌細胞の挙動が多様化する背景にある遺伝子以外のメカニズムとして、癌細胞とその微小環境間の相互作用や複雑な細胞内シグナル伝達ネットワーク、エピジェネティックな変化などが挙げられる。研究者らは、遺伝子変異と遺伝子以外の因子の相互作用によって治療抵抗性を生じるメカニズムの解明を今後の研究の中心とすべきであると結んでいる。

その他のジャーナル記事: 不足薬剤の代替品は劣っていることが判明
小児ホジキンリンパ腫コンソーシアムの複数メンバーは最近、薬剤不足のために治療法を変更した患児の中には転帰が悪化した者がいたと発表した。このグループは、中間リスクと高リスクのホジキンリンパ腫の患児に対して、2006年より7種類の薬剤を併用するスタンフォードVレジメンを実施していた。しかし7種の薬剤の1つであるメクロレタミン(Mustargen)が使用できなくなった際、このグループは代替としてシクロホスファミドを用いた。入手可能な文献に基づき、研究者らは、両剤は同等の効果であろうと考えた。この結果は、New England Journal of Medicine誌の12月号に掲載された。しかし、治療実施2年後、メクロレタミンを投与した患児の88%が無症候であったのに対して、シクロホスファミドを投与した患児では75%だったことが明らかになった。この試験の参加患児に死亡例はないが、代替薬剤により再発した患児は、より高い不妊症のリスクと長期間の毒性作用を受けることになる。「この結果は、有望な代替治療法であっても、採用前には注意深い試験をすべきであることを示唆している。好ましい代替治療であるように思われるが、結果的に劣った転帰に終わるかもしれない。これは、治癒可能な疾病の若年患者には容認できない状況である」と著者らは結論した。参考文献:
• 「化学療法剤の継続的な不足による懸念
• 「薬剤不足の原因と対策を探るワークショップ
• 「医薬品不足に対処するためのユーザーフィー法を可決」(”Congress Passes FDA User-Fee Legislation to Address Drug Shortages”)

その他のジャーナル記事:進行癌患者における心肺蘇生法の現実をビデオで解説
心肺蘇生法(CPR)によって進行癌患者を蘇生させることは非常に難しく、また生存者は医学的合併症を経験することが多い。新しい研究は、医師が患者にこの情報を伝えるために教育ビデオが有効な手段となることを示唆している。この研究では、CPRの現実を描いたビデオを観た患者では口頭でCPRのリスクに関する説明を受けた患者よりもCPRを実施しないことを選択した人数がはるかに多かった。この知見Journal of Clinical Oncology誌に先月掲載された。このランダム化試験には進行癌患者150人が参加した。CPRを希望した患者の割合はビデオを観た患者では20%であったが、口頭説明を受けた患者では48%であった。6〜8週間後に生存していた患者においても、CPRを希望する割合はほとんど同じであった。ビデオのサンプルはインターネット上で閲覧できる。さらに詳しい内容については『終末期ケア選択におけるビデオの効果』を参照のこと。

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野川恵子、佐々木真理 訳
小宮武文 (腫瘍内科/NCI Medical Oncology Branch)、原野謙一 (乳腺・婦人科癌/日本医科大学武蔵小杉病院)
監修 
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原文掲載日 

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