2008/12/16号◆スポットライト「癌幹細胞モデルの微調整と検証」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2008年12月16日号(Volume 5 / Number 25)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

今号が2008年最後の発行となります。来年度第1号2009年1月13日(日本語版は1週間後)からスタートします。

____________________

スポットライト

癌幹細胞モデルの微調整と検証

癌幹細胞仮説の検証に使用される一般的な実験を修正した後で、致死性の皮膚癌であるメラノーマはこの仮説による予測モデル通りにはならない可能性があると、研究者らは報告している。

癌幹細胞仮説とは、一部の癌はごく少数の自己複製細胞から発生する、という説である。このアイデアを検討する方法は、ヒト癌細胞をマウスへ移植しその結果を観察するというものであった。メラノーマ大腸および膵臓を含む多くの癌に関して、腫瘍を形成するのはほんの一部の細胞だけであることがこの実験で明らかにされていた。

研究分野に対するこの実験の重要性に言及し、ミシガン大学のDr. Sean Morrison氏と研究チームは、そのモデルを詳しく調べることにした。メラノーマをテストケースとして、最初に元の研究デザインを用い、次にいくつかの修正を加えたデザインを用いて2回の実験を行った。

免疫システムがより低下しているマウスの使用および観察期間の延長などの変更内容により、結果は著しく異なった。12月4日号のNature誌に掲載された研究結果によると、腫瘍を発生させる細胞は、元のデザインでは稀であったが(約100万分の1)、新しいモデルでははるかに多く見られた(約4分の1)。

研究者らは、メラノーマでは癌幹細胞のモデル通りにはならない可能性があると提唱しているが、その結果を他の癌に応用しないように警告している。

「実際に癌幹細胞のモデル通りになる癌もあるだろうと思っています」とMorrison氏は述べた。「しかし、おそらく腫瘍形成能が癌細胞共通の性質に起因するメラノーマのような癌が他にも多く存在するでしょう。」

研究チームは、原発および転移腫瘍の両方から採取した細胞を含む、12人のメラノーマ患者の細胞をマウスへ移植した。腫瘍を発生させる細胞は多様な特徴を持っており、どの特徴も単一で腫瘍形成能と関連していることはなかった。

モデル通りの癌にとってはこれらの致死性の細胞を根絶するようにデザインされた新たな治療が必要となる場合があることから、癌幹細胞問題は大きな意味合いをもっている。

「これは重要で厳密な研究です」とデューク大学医療センターで癌幹細胞を研究しており、今回の研究には関わっていないDr. Jeremy Rich氏は述べた。「モデルマウスの操作によって腫瘍増殖能のあるヒト癌細胞の頻度に著しい差が生じることを明らかにしています。」

マウスに腫瘍が形成されるかどうかは、移植の方法および移植マウスの性質に大きく左右されると、今回の研究には関与していないが成体幹細胞および癌研究者であるOrdway研究所のDr. Stewart Sell氏は付け加えた。

Morrison氏の研究室では細胞の精製を専門としており、単一ヒト癌細胞のマウスへの移植についての記述は今回が初めてである。移植された個別細胞の27%で腫瘍が形成された。

明らかになっていない重要な点は、マウスにおいて腫瘍を発生させる細胞がヒト癌においても同影響を及ぼすかどうかということである。研究者らは、それよりもさらに多くの(もしくははるかに少ない)比率のメラノーマ細胞が実際に患者における疾患の原因となる可能性があると指摘している。また彼らの見解では、その結果は癌幹細胞仮説に異議を唱えるものではないという点も強調している。

共著者のDr. Timothy Johnson氏は、それでも、「今回の研究によって、どの癌が癌幹細胞モデル通りでどの癌がそうでないかを明らかにするために過去にさかのぼって以前の実験を繰り返すことができる新たな手段が提供されています」と述べた。

試験結果は一部の腫瘍に対して一定条件の下でのみでの応用となるが、観察結果については一様により広く応用することが可能である、とカナダの癌研究機関British Columbia Cancer AgencyのDr. Connie Eaves氏は付随する 論評に記した。

2つのモデルのどちらが癌幹細胞の調査により適切かという質問を受けて、Eaves氏は「わかりません。両モデルとも、『何が原因でヒトにおいて腫瘍が増殖し、再発を起こすのか?』という問いに対する実際の検証の代用にすぎないのです」と答えた。

何もない環境で腫瘍が増殖することはなく、また宿主の免疫成分が全くない状態で増殖する腫瘍もほとんどない、と同氏は続けた。「ですから、マウスでのヒト腫瘍の増殖の研究に膨大な労力を費やすことが、最終的にヒトの体内での腫瘍増殖の最適な検証となるかどうかはまだ明らかではないのです」と述べた。

進展しているにもかかわらず、ヒトではどうなるのかについてはどのモデルでもまだ予測できていない。Rich氏は、今回の研究によって、「異なる環境で癌細胞がどのように増殖するのかを監視する作業がよりうまく行えるようになる」可能性があり、そのことが重要なのだ、と言及した。

次の段階ではモデルを最適化し癌の検査を開始する、とMorrison氏は述べた。

—Edward R. Winstead

******

豊 訳

大藪 友利子(生物工学)監修 

******

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

皮膚がんに関連する記事

進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認の画像

進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ米国食品医薬品局(FDA)は30年以上の歳月をかけて、免疫細胞である腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocy...
進行メラノーマにペムブロリズマブ投与後わずか1週間でFDG PET/CT検査が治療奏効を予測かの画像

進行メラノーマにペムブロリズマブ投与後わずか1週間でFDG PET/CT検査が治療奏効を予測か

米国がん学会(AACR)ペムブロリズマブの単回投与後のFDG PET/CT画像が生存期間延長と相関する腫瘍の代謝変化を示す 

ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)の投与を受けた進行メ...
MDアンダーソンによるASCO2023発表の画像

MDアンダーソンによるASCO2023発表

MDアンダーソンがんセンター(MDA)急性リンパ性白血病(ALL)、大腸がん、メラノーマ、EGFRおよびKRAS変異に対する新規治療、消化器がんにおける人種的格差の縮小を特集
テキサス大...
軟髄膜疾患のメラノーマに対する免疫療法薬の画期的投与法は安全で有効の画像

軟髄膜疾患のメラノーマに対する免疫療法薬の画期的投与法は安全で有効

MDアンダーソンがんセンター
髄腔内および静脈内への同時投与により一部の患者の転帰が改善
髄腔内(IT)の免疫療法(髄液に直接投与)と静脈内(IV)の免疫療法を行う革新的な方法は、安全であり、かつ、転移性黒色腫(メラノーマ)に起因する軟髄膜疾患(LMD)患者の生存率を上昇させることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者による第1/1b相試験の中間解析によって認められた。