​​​欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で発表されたMDA研究:皮膚がん、大腸がん、副腎がん、肉腫

さまざまながん種における新しい細胞治療データ、免疫療法の最新情報、標的治療の進展に関する発表を掲載

MDアンダーソン ニュースリリース 2022年9月7日

アブストラクト番号   735MO 316O 1MO 1493MO 457MO 283MO LBA68 785O

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、MDアンダーソンの専門家による最近の基礎、橋渡し、臨床のがん研究を垣間見ることができる。今回の特集では、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2022年大会におけるMDアンダーソン研究者のさまざまながん種における臨床的進歩に焦点を当てた口頭発表を取り上げる。固形がんに対する新規T細胞療法の有望な初期データ、希少がんや進行がんにおける標的療法の進展、免疫療法反応のバイオマーカー、髄膜がん腫症の臨床転帰に関連する特徴などがハイライトされている。MDアンダーソンが欧州臨床腫瘍学会で発表した内容に関する詳細は、MDAnderson.org/ESMOで閲覧可能。

以下に要約した研究に加え、今後のプレスリリースでは、以下の最新の口頭発表を取り上げる予定である。

  • ・高リスクの切除可能なメラノーマ(悪性黒色腫)患者を対象に術前免疫療法を評価した第2相 SWOG S1801 試験の結果(アブストラクト番号:LBA6)
  • ・転移大腸がん患者を対象とした標的治療薬fruquintinib[フルキンチニブ]の第3相FRESCO-2試験の安全性および有効性データ(アブストラクト番号:LBA25
  • ・進行性皮膚扁平上皮がんに対する術前免疫療法に関する国際共同第2相試験の結果(アブストラクト番号:789O
  • ・HER2低発現の転移性乳がん患者に対するトラスツズマブ デルクステカンの第3相試験DESTINY-Breast04の患者報告アウトカム(アブストラクト番号:217O

SURPASS細胞治療試験の最新情報は、有望な初期結果を示唆している(アブストラクト番号:735MO

第1相SURPASS試験は、固形がんを対象としてMAGE-A4がん抗原を標的とする次世代T細胞療法であるADP-A2M4CD8を評価している。ADP-A2M4CD8は、標的とするT細胞受容体だけでなく、CD8α共受容体も発現するように設計されており、固形がんに対する効果を高める可能性がある。David S. Hong医師が主導するこの試験は、MAGE-A4陽性の切除不能または転移性腫瘍患者において、初期の段階で良好な結果を示している。特に、胃・食道がん卵巣がんについては、有望な臨床結果を示唆する新たなデータが得られている。演題申し込み時に得られていた29人の患者データでは、奏効率31%、病勢コントロール率75.9%となっている。報告された有害事象は、骨髄非破壊的リンパ枯渇療法、細胞療法および疾病に典型的なものと一致していた。ADP-A2M4CD8とニボルマブの併用療法の潜在的な有用性を評価するために追加の治療群が含まれており、胃・食道がんと卵巣がんを対象とした第2相試験が開始されている。Hong氏は、9月10日に本試験の最新の臨床結果を発表する予定である。

大腸がん研究により、標的治療抵抗性に関連する変異が発見される(アブストラクト番号:316O

BRAF V600E 変異を有する大腸がん(CRC)患者の予後は悪く、その多くはシグナル伝達経路が再活性化するため、BRAF阻害剤に対して耐性を獲得する。Scott Kopetz医学博士が主導した第3相BEACON試験では、治療歴のある BRAF V600E変異CRC患者において、エンコラフェニブ(販売名:ビラフトビ)とビニメチニブ(販売名:メクトビ)とセツキシマブ(販売名:アービタックス)の3剤併用療法またはエンコラフェニブとセツキシマブの2剤併用療法が、化学療法と比較して全生存期間を改善することが示された。Kopetz 氏らは、2剤併用療法または3剤併用療法のいずれかの終了時までに獲得した耐性に関連する遺伝子変化を特定するため、これらの患者の治療前後の血中循環腫瘍DNAの後方視的ゲノムプロファイリング解析を実施した。3剤併用群と2剤併用群の両方で、KRAS/NRAS 変異や MET 増幅などの獲得抵抗性のメカニズムや潜在的なバイオマーカーを同定した。この知見は、治療抵抗性を克服するための戦略開発に役立つ可能性がある。Kopetz氏は、9月12日に本研究成果を発表する予定である。

標的治療薬カボザンチニブが希少副腎がん患者を対象とした第2相試験で効果を示す(アブストラクト番号:1MO

副腎皮質がん(ACC)は、副腎の外層に腫瘍が形成されるまれながんであり、治療の選択肢は限られている。Matthew Campbell医師Mouhammed Habra医師が主導した第2相試験では、進行した副腎皮質がん患者18人を対象に、チロシンキナーゼ阻害剤であるカボザンチニブ(販売名:カボメティクス)の安全性と有効性を評価した。本試験では、4カ月時点の無増悪生存率(PFS)は72%であり、主要評価項目が達成された。また、無増悪生存期間の中央値は7.2カ月、全生存期間の中央値は23.9カ月であった。カボザンチニブは、進行した副腎皮質がん患者に対して、持続的な病勢コントロールと管理可能な安全性プロファイルを提供した。ドイツで進行中の試験ではより多くの患者を登録し、その有効性をさらに検証している。Campbell氏は、9月12日に本試験結果を発表する予定である。

肉腫研究により、術前補助免疫療法への反応に関する潜在的なマーカーが特定された(アブストラクト番号:1493MO

脱分化型脂肪肉腫(DDLPS)および未分化型多形肉腫(UPS)患者では、手術後の再発が一般的であり、これまでの臨床データから術前補助免疫療法が未分化型多形肉腫の生存率を改善する可能性が示唆されている。免疫反応のバイオマーカーを評価するため、Elise Nassif医師が率いる研究チームは、ニボルマブ(販売名:オプジーボ)とイピリムマブ(販売名:ヤーボイ)の術前補助治療を受けた患者のサンプルを調査した。研究チームは、末梢血単核球(PBMC)と腫瘍標本についてRNAシーケンスと遺伝子発現解析を行い、30の免疫細胞タイプ/遺伝子発現パターンを定量化するとともに、ベースライン時、治療時、手術時に採取した末梢血単核球についてT細胞受容体(TCR)シーケンスを実施した。本試験に参加した脱分化型脂肪肉腫患者17人と未分化型多形肉腫患者10人の無増悪生存期間中央値は20カ月であった。研究者らは、治療前の血中B細胞関連遺伝子発現の高さや治療時のT細胞受容体密度など、予後良好な患者を特定するのに役立つと考えられる、治療前および治療時の特定の特徴を同定した。この結果は、これらのマーカーの予後的価値を明らかにするために、さらなる調査が必要であることを示唆している。Nassif氏は、9月12日に本結果を発表する予定である。

転移メラノーマ患者における髄膜がん腫症の全生存に関連する特徴を研究者らが特定(アブストラクト番号:283MO

髄膜がん腫症(LMD)と診断されたほとんどのメラノーマ(悪性黒色腫)患者の生存率は、依然として芳しくない。Isabella Glitza Oliva医学博士を中心に、研究者らは髄膜がん腫症と診断された転移性メラノーマ患者172人のデータを分析した。ほとんどの患者は男性で、平均年齢は53歳であった。ほとんどの患者は、原発性皮膚非末端メラノーマの既往があり、大多数(66%)がBRAF 遺伝子変異を有していた。髄膜がん腫症と診断された患者の全生存期間(OS)は、受けた治療法の種類によって異なっていた。診断時に脳脊髄液の細胞診が陰性で、LDH値が正常で、全脳放射線療法を受けなかった患者では、生存率の改善が認められた。利用可能な最新の治療を受けた場合でも全体的に予後が悪いにもかかわらず、髄膜がん腫症患者の一部はより良い生存率を達成した。この知見により、この患者集団についてさらなる調査を行い、疾患の管理および髄膜がん腫症を対象とした将来の臨床試験の設計に役立てることができる。Glitza Oliva氏は、9月10日に本研究成果を発表する予定である。

免疫療法併用はメラノーマと腎臓がんの予後を改善しない(アブストラクト番号:LBA68785O

ベンペガルデスロイキン(BEMPEG)は、インターロイキン-2(IL-2)免疫シグナル伝達経路を活性化するように設計された治験中のがん治療薬であり、第2相試験のデータに基づき、複数の第3相臨床試験において免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブ(販売名:オプジーボ)との併用が検討されている。

Adi Diab医師が主導したPIVOT IO-001試験では、進行性メラノーマ(悪性黒色腫)患者の初回治療として、ベンペガルデスロイキンとニボルマブの併用療法がニボルマブ単独療法と比較評価された。本試験では、主要評価項目である客観的奏効率(ORR)および無増悪生存期間(PFS)を達成することができなかった。本試験では、合計783人の患者がランダムに割り付けられ、追跡期間中央値は、客観的奏効率で19.3カ月、無増悪生存期間で11.6カ月であった。客観的奏効率は、ニボルマブ単独療法で36.6%であったのに対し併用療法では27.7%であった。無増悪生存期間の中央値は併用療法で4.17カ月、ニボルマブ単独療法で4.99カ月であった。全生存期間(OS)中央値は併用療法群で29.67カ月、単剤療法群で28.88カ月と両群で同等であった。Diab氏は9月10日に最新の結果を発表する予定である。

Nizar Tannir医師が主導したPIVOT-09試験は、治療歴のない腎細胞がん患者を対象に、ベンペガルデスロイキンとニボルマブの有効性を、医師が選択した標的療法であるスニチニブ(販売名:スーテント)またはカボザンチニブ(販売名:カボメティクス)と比較検討した。626人が参加した本試験では、主要評価項目である客観的奏効率と全生存期間を達成できなかった。客観的奏効率は、ベンペガルデスロイキン併用療法で23%、スニチニブまたはカボザンチニブで30.6%であった。ベンペガルデスロイキン併用療法群の全生存期間中央値は29カ月であり、標的療法群では未到達である。Tannir社は9月12日に最新の結果を発表する予定である。

日本語記事監訳:泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)

翻訳担当者 伊藤彰

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原文掲載日 

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