2010/09/07号◆特集記事「メラノーマの標的薬が初期臨床試験で効果を発揮」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年9月7日号(Volume 7 / Number 17)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

PDFはこちらからpicture_as_pdf
____________________

◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

メラノーマの標的薬が初期臨床試験で効果を発揮

PLX4032と呼ばれる標的薬を試験で投与された進行したメラノーマ患者の大多数において、第1相試験での治療効果が認められた、との研究が先月発表された。その薬剤はメラノーマ腫瘍によく見られる遺伝子変化を標的とするもので、第2相試験の推奨用量を投与された32人中26人(81%)で部分奏効もしくは完全奏効が得られた。一時的にせよ腫瘍が消失した患者もいた。

「この薬剤の効果は他の薬剤がメラノーマにもたらした効果とは明らかに異なっています」と、多施設試験を共同で主導したマサチューセッツ総合病院のDr. Keith Flaherty氏は述べた。「これまでの治療の効果を吹き飛ばしてしまうような非常に持続的な効果を得ている患者もいます」。

その薬剤は錠剤で、主に、BRAFと呼ばれる遺伝子の変異によって引き起こされる成長促進シグナルを阻害する。8月26日付のNew England Journal of Medicine誌に発表された試験結果に基づいて、V600Eとして知られている遺伝子変異腫瘍を有する患者の生存率を改善できるかどうかを検討する目的で、第3相試験が開始された。

「薬剤が実際に疾患の自然史を大きく変えているかどうかを確認するために、試験を行う必要がありました」とFlaherty氏は語った。メラノーマは初期に発見されれば治療可能であるが、一旦身体の他の部位に転移してしまうと1年以内に死亡する場合が多い。また、FDA承認薬で効果が現れるのは進行したメラノーマ患者の10〜20%に過ぎない。

第1相試験の患者はこれまで1つもしくは複数の治療を受けてきたにもかかわらず癌が進行していくのを目にしており、治療の選択肢がなくなってしまった患者もいた。V600E変異を有する患者32人の拡大コホートでは、PLX4032の初期効果から疾患進行までの期間の中央値が7カ月を超え、効果が現れた患者は最長で約2年間その薬剤を服用してきた。

「これらの結果は非常に画期的なもので、転移したメラノーマの治療はかなりの割合の患者に合わせて個別的に行えるということを証明しています」と、H.リー・モーフィットがんセンター&研究所のDr. Kieran S.M. Smalley氏とDr. Vernon K. Sondak氏は付随論説で述べた。「この10年間で、メラノーマ固有の生物学的特徴の解明は飛躍的に進歩してきました。研究投資は期待された成果を上げています」と記している。

標的治療

2002年、ヒトメラノーマの約半数にBRAF遺伝子を活性化するBRAFV600E変異が存在していることが発見された。ソラフェニブ(ネクサバール) と呼ばれる非特異的BRAF阻害剤がその後当疾患で試験されたが、期待された結果は得られなかった。一方、KITと呼ばれる遺伝子活性化変異が少数のメラノーマ症例で同定され、イマチニブ治療がこれらの患者の腫瘍を退縮させることが複数の研究から明らかになった。

論説では、転移したメラノーマ患者は将来的に治療開始前に重要な遺伝子内の変異をスクリーニングされることになるだろう、と記されている。 (BRAFに関してはすでに実施されている。)V600E変異が存在していても薬剤効果が現れない患者もいること、耐性を発症する患者もいることを理解するために、さらなる研究が必要である、とSmalley氏およびSondak氏は言及した。

49人の患者に対して段階的に投与量を増やしていく用量漸増試験では、肝臓、小腸、および骨を含む、転移疾患のすべての部位において腫瘍の縮小が観察された。第2相試験で使用する量の確定後、追加した32人のBRAF変異を有するメラノーマ患者に対して薬剤の評価が実施された。このグループの内、24人に部分奏効、2人に完全奏効が認められた。

「第1相試験で目にした効果に私たち全員が興奮しています。しかし、そのような効果が必ずしも全生存率の改善に結び付くとは限らないということを、メラノーマの治療で何度となく学んできました」と、研究の筆頭著者であるスローンケタリング記念がんセンターのDr. Paul Chapman氏は述べた。「ですから、第3相試験の目的は、患者の生存期間が延長しているかどうかを見極めることなのです」。

研究者らは6月に、免疫システムを標的とする治療薬イピリムマブは進行したメラノーマ患者の延命に寄与する、との発表を行った。イピリムマブとPLX4032はともに、メラノーマ研究の情勢を変え、新しい薬剤が併用もしくは継続して試験される可能性を高めた、とNCI癌治療評価プログラムのメラノーマ試験を監督するDr. Claudio Dansky Ullmann氏は述べた。

「これらの研究は転移したメラノーマの治療に多くの可能性をもたらしてきました」とDansky Ullmann氏は述べた。「現在では、最近まで利用できなかったもしくは確証が得られていなかった多くの治療を試験することが可能です。この研究分野はこれから成長していきます」。

メラノーマの他のBRAF阻害剤および他の経路を対象にした薬剤を含む、複数の標的治療薬が当疾患用に開発されている、と同氏は言及した。研究者らは、標的治療薬や免疫療法薬などの、異なる種類の薬剤が生存率を改善するために併用できるようになることを願っている。

「何もかもが初めてのことです−わからないことは数多くあり今後の研究で明らかにしていく必要があります」とDansky Ullmann氏は警告した。「ある併用療法を試験する場合、特異的な患者集団の特定を、より賢明に行う必要があります」。

PLX4032の副作用はほとんどが軽度なもので、皮疹、悪心、疲労、および扁平上皮細胞癌と呼ばれる低悪性度の皮膚腫瘍などであった。これらの副作用は簡単に取り除かれ、患者の治療中止に至ることはなかった、と研究者らは述べた。

複雑な遺伝学的特徴

メラノーマは遺伝学的に複雑な疾患であり、どの経路が治療に最も重要であるかを確定するためにはさらなる研究が必要となる、とFlaherty氏は述べた。さらに、「他の経路も間違いなく当疾患に関係しています」と述べ、BRAF阻害剤とMEK経路の阻害剤を併用する試験が進行中であることに言及した。

「ほとんどの人々は、単一遺伝子を標的にして効果を上げることに懐疑的でした」と、Sondak氏はインタビューで語った。研究者らでさえ、その薬剤が期待通りに効果を発揮するかどうか疑問に思っていた。これまでメラノーマの化学療法薬になる可能性がある多くの薬剤は研究室では見込みがありそうに見えても、患者で試験してみると落胆するだけの結果となった。PLX4032もこのような薬剤の一つとなる可能性があった。

その他にも懐疑的になる理由があった、とChapman氏は言及した。変異BRAF遺伝子からのシグナルを阻害することが患者に効果をもたらすかどうかは誰も解明していなかった。BRAF遺伝子の変異は、当疾患発生の初期に起こり(黒子のような良性皮膚腫瘍にも存在する)、研究者らは、進行した腫瘍が他の遺伝子変化によって生じる可能性を懸念した。さらには、BRAF変異を有するマウスが必ずしもはマウスメラノーマを発症するとは限らない。

「これらすべての情報は、細胞がメラノーマ細胞になるためにはBRAF変異が必要であるがそれだけでは十分ではない、ということを示しています」とChapman氏は説明した。もし、メラノーマ腫瘍が変異BRAF遺伝子からのシグナルに依存していなければ、これらのシグナルを阻害しても腫瘍には影響が及ばないということが現実となる可能性もあった。

「驚いたことに、研究ではその薬剤が意図した通りに効果を発揮したのです」とChapman氏は述べた。

Plexxikon社およびRoche社の後援で行われた試験における転機は、その薬剤のより高い血中濃度を可能にしたPLX4032の新製剤の開発であった。(側面記事参照) 第3相試験で、その薬剤はメラノーマの標準化学療法薬であるダカルバジンと比較される。

研究者らが一刻も早く知りたいと思っていることは、標準的な治療と比べて、生存期間が改善されているかどうかという点である。彼らは、患者はこの疾患の新しい治療法を必要としており、臨床試験が初めて期待できる選択肢を提供することになる、と述べている。

「今ではメラノーマの治療に対する考え方は、これまでとは全く異なっています」とFlaherty氏は述べた。「しかし、患者が長期の寛解を得るまでは、祝杯を挙げるわけにはいきません」。

その他医療誌から:PLX4032の発見と開発本日付のNature誌電子版に掲載された研究では、メラノーマ薬剤PLX4032の発見と開発について記述されている。Plexxikon社のDr. Gideon Bollag氏と研究チームは、その薬剤の化学構造を明らかにし、PLX4032が体内でどのように機能するかを説明している。著者らは、臨床効果を上げるために必要な高濃度の薬剤を患者に与えることができるような重要な製剤の再検討を含む、患者の適正用量を確定するための取り組みを詳述している。

—Edward Winstead

******
豊 訳
辻村 信一 (獣医学・農学博士/メディカルライター)監修 

******

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

皮膚がんに関連する記事

進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認の画像

進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ米国食品医薬品局(FDA)は30年以上の歳月をかけて、免疫細胞である腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocy...
進行メラノーマにペムブロリズマブ投与後わずか1週間でFDG PET/CT検査が治療奏効を予測かの画像

進行メラノーマにペムブロリズマブ投与後わずか1週間でFDG PET/CT検査が治療奏効を予測か

米国がん学会(AACR)ペムブロリズマブの単回投与後のFDG PET/CT画像が生存期間延長と相関する腫瘍の代謝変化を示す 

ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)の投与を受けた進行メ...
MDアンダーソンによるASCO2023発表の画像

MDアンダーソンによるASCO2023発表

MDアンダーソンがんセンター(MDA)急性リンパ性白血病(ALL)、大腸がん、メラノーマ、EGFRおよびKRAS変異に対する新規治療、消化器がんにおける人種的格差の縮小を特集
テキサス大...
軟髄膜疾患のメラノーマに対する免疫療法薬の画期的投与法は安全で有効の画像

軟髄膜疾患のメラノーマに対する免疫療法薬の画期的投与法は安全で有効

MDアンダーソンがんセンター
髄腔内および静脈内への同時投与により一部の患者の転帰が改善
髄腔内(IT)の免疫療法(髄液に直接投与)と静脈内(IV)の免疫療法を行う革新的な方法は、安全であり、かつ、転移性黒色腫(メラノーマ)に起因する軟髄膜疾患(LMD)患者の生存率を上昇させることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者による第1/1b相試験の中間解析によって認められた。