メラノーマの免疫感受性を強化するIL-12エレクトロポレーション

インターロイキン12(IL-12)エレクトロポレーション(=電気穿孔法、遺伝子導入法のひとつ)が、「冷たい(cold)」メラノーマの免疫チェックポイント阻害剤への免疫感受性を強化

2020年5月6日

エレクトロポレーションによるIL-12 DNA (tavokinogene telseplasmid、販売名:TAVO) 腫瘍内投与と免疫チェックポイント阻害剤薬ペムブロリズマブ (販売名:キイトルーダ、Merck社) を組み合わせることで、免疫学的に不活性な進行メラノーマ患者に臨床効果が認められたという第2相試験の結果が、米国癌学会(American Association for Cancer Research:AACR)発行の学術誌“Clinical Cancer Research”で報告された。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)臨床学教授、およびヘレンディラー・ファミリー総合がんセンターメラノーマ臨床研究部長 Adil Daud医師は、「免疫チェックポイント阻害剤は、近年、メラノーマの一次治療となってきています」と述べた。「しかし、メラノーマの約40%は、腫瘍内への免疫細胞の浸潤が不十分で、治療への反応が低いという意味で、『冷たい(cold)』がんだと考えられています。『冷たい』メラノーマのうち、免疫チェックポイント阻害剤に反応するのは12~15%と推定されている、とDaud医師は付け加えた。「この分野での大きな問題は、これらの『冷たい』メラノーマを免疫チェックポイント阻害剤に反応する『熱い(Hot)』メラノーマに変えるにはどうすればよいかということなのです」

Daud医師らは、この第2相単群試験において、『冷たい』メラノーマ患者に対する免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブおよび IL-12をコード化したDNAプラスミド(TAVO)の併用治療の効果を検証した。IL-12は、免疫細胞の動員を誘導するサイトカインである。Dauld医師らは、IL-12を全身に投与することによって生じる毒性を軽減するため、エレクトロポレーションによってTAVOをメラノーマ病変に直接注入した。

この試験には、病変への注入が可能であり、腫瘍内のチェックポイント陽性免疫細胞の割合からペムブロリズマブに対する反応が悪いと予測された、切除不能または転移性メラノーマ成人患者23人が登録された。患者は、6週を1周期として各周期の1日目、5日目、8日目にTAVOエレクトロポレーションおよび、3週間ごとにペムブロリズマブ投与を受けた。患者は、病勢の進行が確認されるまで、最長2年まで治療を継続した。

評価対象となった22例中9例で奏効が認められ、奏効率は41%だった。患者の36%に完全奏効が認められた。中央値19.6ヵ月の追跡調査にて、無増悪生存期間の中央値は5.6ヵ月、全生存期間の中央値は未到達だった。エレクトロポレーション注入病変の退縮に加えて、未治療の病変の29.2%にも退縮が認められた。未治療の病変における反応は、腫瘍特異的免疫細胞の全身での増殖と循環によるものある可能性がある、とDaud医師は説明した。

グレード3以上の有害事象は限定的で、ペムブロリズマブ単独投与で一般的にみられる毒性に加えて、疼痛、悪寒、発汗、蜂窩織炎などが認められたとDaud医師は述べている。

Daud医師らは、治療前と治療後の組織検体を調べ、腫瘍微小環境の免疫細胞数が併用治療によりベースライン値(試験開始前の値)から増加したことを確認した。この増加は奏効者(治療に反応した患者)と非奏効者の両方で観察されたが、非奏効者では免疫抑制細胞の数も増加していた。遺伝子発現解析の結果は、併用療法が患者の腫瘍細胞で免疫活性化遺伝子発現を促進したことを示した。さらに、奏効者と非奏効者の両方に末梢血中の免疫細胞の増殖促進がみられ、全身の免疫応答の活性化を示唆した。

「ペムブロリズマブとTAVOエレクトロポレーションを併用することで、単剤の免疫チェックポイント阻害剤では非常に反応が悪いと予測されていた患者さんの反応が改善されました」とDaud医師は説明する。

「エレクトロポレーションでTAVOを局所的に投与することで、IL-12全身投与に伴う毒性の多くを回避しつつ、TAVOを局所注射したメラノーマと局所注射しなかったメラノーマの両病変で免疫細胞浸潤を誘導し、臨床効果を確認することができました」とDaud医師は付け加えた。

Daud医師らはこれらの結果を基礎として、TAVOとペムブロリズマブの併用療法で効果がみられなかった患者に、どのように反応を誘導できるかを解明しようと研究を続けている。Daud医師らはさらに、ペムブロリズマブまたはニボルマブ投与後に進行した患者を対象に、第2相試験でTAVOとペムブロリズマブの併用療法を検証している。Daud医師は、乳がんを含む他の『冷たい』がん種に対する併用療法の効果を検証することにも興味を持っている。

「今回の結果は有望なものでしたが、この治療法の重要な限界は、患者さんの約60%に奏効しなかったことです」とDaud医師は説明する。さらに、局所注射可能な病変がない患者にはエレクトロポレーションは治療選択肢とならないという制限もある。

本研究は、Merck社とOncoSec Medical 社の支援を受けている。Daud医師は、Merck、Bristol Myers Squibb、Pfizer、Incyte、Genentech/Roche、OncoSec Medical社、Parker Institute for Cancer Immunotherapy、UCSFのCook, Kelly, および Amoroso Fundsより、がん研究への資金提供を受けている。

翻訳担当者 為石 万里子

監修 中村泰大(皮膚腫瘍科・皮膚科/埼玉医科大学国際医療センター)

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