広範なリンパ節郭清はメラノーマ患者の生存率を高めない

従来のリンパ節郭清術は、皮膚原発巣から1個ないし少数の隣接するリンパ節に転移があるメラノーマ患者にとって最善の治療法であろう。大規模国際臨床試験の結果から、あらためてこのような結果が示唆された。

この臨床試験では、原発巣から最も近いリンパ節、いわゆるセンチネルリンパ節のみを切除した患者と、それ以外の隣接するリンパ節も拡大郭清した患者を比較した。両群にメラノーマ特異的な生存率の差は認められなかった。

また、この試験によると積極的に切除を行った患者の方が術後合併症の発現率がはるかに高かった。

このMSLT-II試験(the second Multicenter Selective Lymphadenectomy Trial[NCIより一部助成])の結果は6月8日発行のNew England Journal of Medicine誌に掲載された。「これらの結果は、治療方針の変更として解釈されるべきである」とスローンケタリング記念がんセンターのDaniel Coit医師は付随論説で述べた。

「これは方向の転換を示す実に明快かつ決定的な結果である」とNCI Cancer Therapy Evaluation Programに携わるHoward Streicher医師は賛成意見を述べた。Howard Streicher医師は今回の臨床試験には関わっていない。

長きにわたる疑問

 初めてメラノーマと診断された患者のほとんどはセンチネルリンパ節生検を行う。センチネルリンパ節を切除し、センチネルリンパ節に皮膚からがんが広がっていないか検査する。もし生検によってセンチネルリンパ節にメラノーマ細胞の存在が確認されれば、通常、医師は速やかに残る所属リンパ節を切除することを推奨する。

「がんの転移を防ぐためには、これらのリンパ節を取り去ることは理にかなっているように思える。たとえそこにまだメラノーマ細胞が検出できなかったとしても。」ロサンゼルスにあるシダーズ・サイナイ医療センターの関連医療機関Angeles Clinic and Research Instituteの腫瘍外科医でMSLT-IIの試験責任医師であるMark Faries医師は説明した。

しかし今まで、このような「完全な」リンパ節郭清が生存率の改善に有効であるかどうかは明らかではなかった。

MSLT-II試験の患者背景は、年齢18~75歳、厚さ中程度(1.2~3.5mm)、センチネルリンパ節への転移はあるがその他の部位への転移はない皮膚メラノーマ患者であった。原発巣の厚さ(Tumor thickness)は患者の予後に影響する因子のひとつである。試験に参加した患者のほとんどが1~2個のセンチネルリンパ節にがんが転移していた。

患者1934人の半数を、センチネルリンパ節辺縁領域の他のリンパ節を速やかに郭清する群(完全切除群)、残りの半数を所属リンパ節にがんが転移していないかを通常通りの超音波検査で経過観察をする群(観察群)に無作為に割り付けた。

全患者は定期的に、身体診察、臨床検査、超音波以外の画像診断(PETやCTなど)を受けた。これらは当センターで治療を行う患者の標準的な検査である、とFaries医師は言った。追跡期間中央値は43カ月で、なかには観察期間が10年間に及ぶ患者もいた。

3年時点でメラノーマ特異的生存率は両群とも86%であった。つまりいずれの群においても患者の86%は死亡しなかった。3年時点では完全切除群の68%、および観察群の63%は再発を認めなかった。試験著者は、無病生存期間の差はリンパ節を完全に切除した後では、リンパ節内のがんの再発が減少することによると思われる、と考察している。がんの広がりまたは転移、多臓器へのメラノーマ遠隔転移に関しては両群間に意味のある差は認められなかった。

手術関連合併症は観察群よりも完全切除群でより多くみられた。直近の診察時には、完全切除群の24.1%、および観察群の6.3%にリンパ浮腫が認められた。リンパ浮腫は組織に過剰なリンパ液が停滞しむくみを生じる状態である。発現したリンパ浮腫の程度は、64%が軽度、33%が中等度、3%が重度であった。

課題は残る

 Faries医師によると、病勢進行やメラノーマによる死亡を調査するため、MSLT-II試験の医師らは参加者の追跡調査を継続中である。また医師らは、根治手術であるほど生じやすいあらゆる他の長期的合併症、例えば神経障害なども探していくという。

これまでの結果は「決定的かつ明確であり、最近公表された以前の前向き無作為臨床試験のひとつの結果と完全に一致している」とCoit医師は論説に記している。「ただひとつ残る問題はセンチネルリンパ節転移のあるメラノーマ患者全員がすぐにリンパ節完全切除術を施行すべきかどうかということである」。

Faries医師は、この試験は現場の治療方針を変えるという点には同意するものの、完全切除が「これらの患者の単独『標準』治療選択肢とはならない」という見解だ。広範な切除は患者が術後補助療法を決定する際にヒントとなる予後に関する情報を提供するかもしれない。術後補助療法とはがんの再発リスクを抑えるために手術の後に行う治療である。

2015年から、ステージIIIのメラノーマ患者に術後補助療法の新しい選択肢が追加された。さらに別の術後補助療法の臨床試験が進行中である。「選択可能な治療方法は実際には賛否両論がある。したがって一部の患者にとっては、その予後情報は広範な切除手術の欠点よりも価値のある情報かもしれない」とFaries医師は述べた。

しかしStreicher医師は「もしがんがリンパ節にまで及んでいればメラノーマはおそらく既に広がっている。医師が腫瘍に気づくよりも前、手術前には確実に広がっているはずである」という。研究者らは乳がんと同様、「より広範な切除がより良い転帰を生むことにはならない」ことを知っている。

メラノーマがリンパ節に再発した患者は再発時にリンパ節を切除することもできるかもしれないが「患者の多くは、たとえ生存期間を延長しないとしても、あらゆる再発の可能性を最低限に抑えたいものだ。だから早急な完全切除は選択肢のひとつとして残るが、実際にはこの新しい情報によって選択する患者はかなり少ないであろう」とFaries医師は述べた。

将来的には「メラノーマの病期分類をより良いものに変える必要がある。どの患者に術後補助療法を行い、どの患者に根治的切除を行うかを判断するためには、メラノーマの病態をより深く理解しなければならない」とStreicher医師は述べた。

翻訳担当者 宮地優子

監修 野崎健司(血液・腫瘍内科/大阪大学大学院医学系研究科 )

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