免疫細胞の種類によりメラノーマの免疫療法への反応が予測可能

カリフォルニア大学サンフランシスコ校

腫瘍内の「部分的に疲弊したCD8陽性細胞」が多い患者はすべて治療に反応

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者と医師らが主導した新しい研究によると、メラノーマ(悪性黒色腫)における特定のタイプの白血球の数値により、その患者が免疫チェックポイント阻害療法として知られているがん免疫療法の一種に反応するかどうかを予測することができるという。

この研究は、腫瘍医を悩ませてきた次のような難問に対する解決策の端緒を提供する。つまり、以前であれば治療ができなかったがんを持つ患者の多くが免疫チェックポイント阻害剤の投与により寛解状態となるが、免疫チェックポイント阻害剤投与を受けた患者のうち20%しか反応しないという難問である。

論文の筆頭著者であるUCSF皮膚科助教Michael Rosenblum医師・博士は次のように述べた。「この研究で得られた知見は、免疫チェックポイント阻害剤を、より多くのがん患者にとって有益な治療法とする助けになるでしょう。この研究はメラノーマ患者を対象に行われたものですが、他のがん種についても適用できるはずです」。

2016年8月15日にJournal of Clinical Investigation誌電子版に報告されたとおり、この研究では40人の患者の腫瘍を解析した結果、腫瘍内の「部分的に疲弊したCD8陽性細胞」と呼ばれるT細胞の相対的な量により、PD-1と呼ばれるタンパクを標的とした免疫療法剤に対する反応を、ほとんどの患者で正確に予測できることが見出された。治療前の腫瘍内免疫細胞の30%以上がそれらの「部分的に疲弊したCD8陽性細胞」である患者は治療に反応し、それらの細胞が20%以下であれば反応しなかった。 

興味深いことに、抗PD-1療法に対する反応性を予測するCD8陽性細胞は、PD-1タンパクのみならず、もうひとつのよく知られた免疫チェックポイントタンパクであり免疫療法剤の標的でもあるCTLA-4を多く発現していた。これらの細胞は、身体の免疫反応を制御するシグナル分子である種のサイトカインを産生することができないため「部分的に疲弊した」と呼ばれており、「部分的に疲弊した」結果、腫瘍内で提示された抗原に適切に反応することができない。

PD-1は過剰な免疫系から細胞を隠す「ブレーキ」の役割を果たす。ここ10年の間で、PD-1の免疫反応を押さえつける能力を阻害する薬剤により、T細胞は束縛を解かれて腫瘍細胞を異常なものであると認識して破壊するようになり、身体の免疫系が効率的にがん細胞を殺傷することができるようになることがわかってきた。

pembrolizumab(Keytruda)[ペンブロリズマブ(キートルーダ)]やニボルマブ(オプジーボ)といったこの種の薬剤は、化学療法、放射線や従来の分子標的薬に見られる一般的な副作用はまったくなく、病状が進行した転移状態のがん、とりわけ進行期のメラノーマでも目覚しい寛解状態に導くことができた。

しかし、抗PD-1療法に反応する患者はほんの一部であり、研究者たちはどの患者がなぜ反応するかを予測する方法を発明したいと熱望してきた。

UCSF Helen Diller Family 総合がんセンターのメラノーマ臨床研究部長のAdil Daud医師は、「治療に反応する患者と反応しない患者を正確に予測する検査は永久にできないだろうと研究者らは結論していました」と述べた。UCSFパーカーがん免疫療法研究所のメンバーでもあるDaud医師は、「研究者たちは、ほんの小さな組織を採取しただけで誰が治療に反応して誰が反応しないかを、精度よく予測することなどできるはずがない、と単純に決めてかかっていました」と述べた。Daud医師によると、PD-1関連タンパクであるPD-L1の腫瘍内の量を測定する検査が現在使用できる最もよいものではあるが、それほど効果的に治療が奏効する患者と奏効しない患者を区別することができないため、臨床現場での使用は限られている。

Daud医師に感謝する患者らからの金銭的支援で行われたこの新しい研究では、20人の患者(探索群)から得た腫瘍サンプルをマルチパラメーターフローサイトメトリーとして知られる技術で解析した。この探索群の患者は、PD-1阻害剤を投与されているので、だれが反応し、だれが反応しないかがわかっている。マルチパラメーターフローサイトメトリー法では、細胞が一列になって透明なチューブ内をレーザービームを横切りながら移動したときに蛍光シグナルを発するラベルを、細胞表面に発現するPD-1やCTLA-4といったタンパクに付けることができる。こうすることにより、研究者たちは細胞をその特徴に応じて正確に計数し、選別することができる。

研究者チームは、患者腫瘍内のCD8陽性細胞として知られる「細胞傷害性」T細胞集団に着目し、それらの細胞がPD-1やCTLA-4およびその他のタンパクをどれくらい発現しているかを調べた。その結果、PD-1とCTLA-4を両方とも高レベルに発現している部分的に疲弊したCD8陽性細胞の腫瘍内のおける数が、抗PD-1療法に対する反応性の信頼できるバイオマーカーであることがわかった。メラノーマ病変の30%以上の縮小をもって治療が奏効したと定義した場合、腫瘍内のそうした細胞の数が多い患者ほど治療がよく奏効する傾向にあった。

次に、この観察結果の臨床上の潜在的な有用性を、抗PD-1療法をまだ受けていない20人の患者からなる「検証群」で検証したところ有用であることが確認された。さらに、研究者たちはバイオマーカーの予測力を定量的に示すことができた: 腫瘍に浸潤している免疫細胞の少なくとも30%が今回特徴付けられたCD8陽性細胞である患者はすべて治療に反応したが、20%以下の患者は反応しなかった。これらの中間の患者については、反応するかどうか信頼できる予測ができなかった。

Rosenblum医師、Daud医師と同僚たちは、資金の一部がUCSFパーカー研究所から提供される新しいプロジェクトで、治療に反応しない患者の「善玉」CD8陽性T細胞の数を増やす方法を見つけ、こういった患者が治療に反応するようにしたいと希望している。

この段階のために 、研究者たちは、ナノ流体技術を用いた単一細胞の解析、操作のパイオニアであるBerkeley Lights社をパートナーとしている。この技術により、適切な特徴を持つCD8陽性細胞を患者より取り出し、体外で増殖させた後に体内に戻すことにより、患者の治療に対する反応が促進されるようにその免疫プロフィールを変化させることができるようになることを期待している。

UCSF所属の論文共著者は以下のとおりである;Kimberly Loo, clinical research coordinator; Katy Tsai, MD, clinical fellow; Adi Nosrati, MD, research associate; Michael Alvarado, MD, assistant professor of surgery; Alain Algazi, MD, clinical instructor in the Department of Medicine; Iryna Lobach, PhD, assistant professor of epidemiology and biostatistics; and Jimmy Hwang, PhD, senior biostatistician; Mariela Pauli, associate specialist; Robert Sanchez-Rodriguez, former associate specialist; Priscila Munoz Sandoval, assistant specialist; Lorenzo Nardo, MD, medical resident in the Department of Radiology and Biomedical Imaging; Miguel Pampaloni, MD, PhD, associate professor and chief of nuclear medicine in radiology; and Matthew Krummel, PhD, professor in the Department of Pathology.

さらに、Robert Pierce, MD, chief medical officer of OncoSec MedicalとIris Gratz, PhD, assistant professor at the University of Salzburg, Austriaも加わった。

翻訳担当者 伊藤 彰

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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