軟髄膜疾患のメラノーマに対する免疫療法薬の画期的投与法は安全で有効

MDアンダーソンがんセンター

髄腔内および静脈内への同時投与により一部の患者の転帰が改善

髄腔内(IT)への免疫療法薬(髄液に直接投与)と静脈内(IV)への免疫療法薬投与を行う革新的な方法は、安全であり、かつ、転移性黒色腫(メラノーマ)に起因する軟髄膜疾患(LMD)患者の生存率を上昇させることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者による第1/1b相試験の中間解析によって認められた。
 
本試験はNature Medicine誌に掲載され、LMDを有するメラノーマ患者を対象に、髄腔内および静脈内にニボルマブ(抗PD-1)(販売名:​​オプジーボ)を同時投与するはじめてのヒト試験である。患者25人中、全生存期間(OS)の中央値は4.9カ月、全生存率は26週時点では44%、52週時点では26%であった。患者4人は、最初の髄腔内への投与から74週、115週、136週、および143週まで生存しており、これは予想を上回る生存期間 であった。

本試験の責任著者でメラノーマ腫瘍内科学准教授のIsabella Glitza Oliva医学博士は、次のように述べた。「LMD患者には、効果的な治療を求める切実な臨床ニーズがあり、本結果は大きな前進を示しています。LMDは極めて悪性の疾患ゆえに、これまで研究が困難であるとされてきましたが、このような予備的な結果が得られたことは大きな励みです。この治療法は安全であり、私たちは治療結果が良好であった一部の患者を観察し、彼ら一人一人から学びたいと考えています」。

LMDは、脳脊髄液(CSF)や軟髄膜(脳および脊髄の外膜)に原発腫瘍のがん細胞が遊走することで発現するがんの合併症である。これらの細胞は脳脊髄液中に急速に拡散し、様々な神経症状を引き起こすことがある。ステージIVのメラノーマ患者のおよそ10%がLMDと診断され、転移性肺がんや乳がんからも発症する。
 
LMDの治療法は存在しないが、標的治療や免疫療法などの治療により、QOL(生活の質)が改善する可能性がある。免疫チェックポイント阻害薬は、転移性メラノーマ患者には有効だが、LMD治療に使用可能かどうかについてはほとんどわかっていない。

髄腔内の投与は、別の臨床現場でも試験されている。MDアンダーソンのGlitza Oliva医学博士らによる以前のPOC試験では、LMD患者の髄腔内へのインターロイキン-2投与は有望な結果をもたらしたが、重篤な副作用を伴うことが示された。今回の新たな試験では、ニボルマブを髄液に直接投与すると髄液内の濃度が高まることが示されたが、これは抗体が血液脳関門を容易に通過することができないためである。

本試験では、年齢中央値43歳の25人の患者が登録され、2人を除く全員は、それまでに免疫チェックポイント阻害薬(84%)、BRAF/MEK阻害薬(64%)、化学療法(12%)などの全身療法を受けていた。用量拡大コホートでは、髄腔内にニボルマブ4回と、静脈内にニボルマブ固定用量との同時投与について評価した。

本剤は、髄腔内にはニボルマブ最高用量で良好な忍容性を示し、グレード1または2の軽度の有害事象のみが認められ、用量制限毒性は認められなかった。最も多い治療関連の有害事象は、吐き気、めまい、嘔吐であった。
 
Glitza Oliva医学博士は次のように述べた。「最近まで、この分野の臨床試験を開発するためのリソースは限られていましたが、私たちは極めて困難な病態を有する患者のために未知なることと戦い、患者に多くの治療選択肢がないときには彼らを支える義務があります。これらの結果がさらなる臨床試験とともに、LMDに対するさらなる理解、ひいては患者を助ける一層効果的な方法へとつながるであろうと楽観しています」。

近年、本試験では用量拡大コホートに関する登録が完了した。さらなる知見を得る機会を提供するため、解析が進行中である。今後、本治療法が最も有効であると考えられる患者を予測するバイオマーカーを特定するための研究が行われる。

本試験は、Bristol-Myers Squibb Foundation, Inc.社から支援を受けた。また、米国国立がん研究所(1P50CA221703-01A1)、Dr. Miriam and Sheldon G. Adelson Medical Research Foundation、MDアンダーソンムーンショットプログラムから追加資金を提供された。共同研究者の全リストとその開示情報は、論文とともにこちらでご覧いただけます。

  • 監訳 中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)
  • 翻訳担当者 平 千鶴
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  • 原文掲載日 2023年3月30日

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