米国国立がん研究所の支援がもたらした免疫チェックポイント阻害薬の画期的発見

米国国立がん研究所の支援がもたらした免疫チェックポイント阻害薬の画期的発見

米国国立がん研究所(NCI)は、世界最大のがん研究資金提供機関である。連邦政府の納税者による資金により、NCIの研究所をはじめ、全米および世界中のがんセンター、病院、地域診療所、大学などで行われるがん研究が支えられている。本記事は、「Your NCI」ブログ記事および動画シリーズの第1弾であり、がん治療における画期的な進展をもたらした基礎がん研究への資金提供において、NCIが果たしてきた役割に焦点を当てたものである。
 
免疫チェックポイント阻害薬の開発は、がん治療に革命をもたらした。進行したメラノーマ(悪性黒色腫)、肺がん、膀胱がん、その他多くのがんを患う人々が、現在では通常の生活を送れるようになり、また、より長く生きられるようになった。その背景には、これらの免疫療法薬を患者に届けることに貢献した、連邦政府の資金による研究がある。
 
1970年代後半、米国国立衛生研究所(NIH)の一機関である米国国立がん研究所(NCI)が、免疫系がどのようにがんと闘うかについての理解を深める基礎研究への資金提供を開始した。それ以降、免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする免疫療法薬の開発が進み、がん治療は新たな時代を迎えた。
 
「米国国立衛生研究所の資金提供を受けた数十年にわたるがん研究は、科学者が免疫療法の基礎を理解する一助となり、免疫チェックポイント阻害薬開発の礎を築きました」と、NCI臨床部長のJames Gulley医学博士は述べている。
 
現在、ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)などのチェックポイント阻害薬は、幅広い種類のがんにおいて40以上の適応症で承認されている。 

免疫システムの「ブレーキ」の発見

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫系ががんを認識して攻撃するのを助けることで作用する。免疫系は、T細胞と呼ばれる特殊な細胞を利用して、がん細胞を含む異常な細胞を識別し、破壊する。この強力な防御機能が正常な組織を傷つけるのを防ぐため、体内には「チェックポイント」と呼ばれる分子機構が備わっている。これらはブレーキのような働きをして、免疫反応を適切に制御している。
 
がん細胞は、これらのチェックポイントを悪用して免疫系から逃れることがある。チェックポイント経路を活性化させることで、腫瘍は周辺のT細胞の働きを抑制し、破壊を免れることができる。チェックポイント阻害薬はこれらのシグナルを遮断し、免疫系の「ブレーキ」を解除することで、T細胞ががん細胞を認識して破壊できるようにする。
 
最初のチェックポイント阻害薬が臨床試験に入る何年も前から、NCIは、免疫系がどのようにがんを認識し、がんに応答するのかを解明するための基礎研究を支援していた。この研究によって、腫瘍が免疫反応を抑制するために利用する分子経路が明らかになった。
 
「免疫系ががんを根絶できるということを示した初期の重要な実証の一つは、ここNCIで行われた研究から得られたものであり、その有効性は全米各地のがんセンターで実施された臨床試験によって確認されました」と、Gulley博士は指摘した。
 
1980年代、NCIがん研究センター(Center for Cancer Research)の外科部長であるSteven Rosenberg医学博士は、患者からがん細胞を取り出すこと、あるいはがん細胞を刺激するタンパク質を用いることで、がんが縮小する可能性があることを示した。
 
「これは、免疫療法をより頻繁に活用できる方法を見つけることができれば、免疫療法がどのようなものになり得るのか、その基盤を築く重要な研究でした」とGulley博士は述べている。
 
ほぼ同時期に、NCIは、カリフォルニア大学バークレー校のJames P. Allison博士をはじめとする学術研究者を支援しており、彼らはがんが免疫系を回避する仕組みについてさらなる知見を明らかにしていた。Allison博士が初めて米国国立衛生研究所の研究助成金を受けたのは1979年のことであった。
 
1990年代、アリソン博士らは、CTLA-4と呼ばれるタンパク質が免疫系にブレーキをかける働きをしていることを明らかにした。ほぼ同じ頃、京都大学の本庶 佑医学博士らは、別の免疫チェックポイントタンパク質であるPD-1を発見した。PD-1も免疫系にブレーキをかける働きをするが、その作用機序はCTLA-4とは異なるものである。
 
Allison博士、本庶博士らによるさらなる研究により、これらのチェックポイント経路を阻害することで、がん細胞を攻撃・排除する免疫系の機能が回復することが明らかになった。
 
「この研究は、NCIの支援を受けた数十年にわたる基礎科学の成果を土台としており、現代の免疫療法を可能にする発見につながりました」と、Gulley博士は述べた。
 
2018年、Allison博士と本庶博士は、その画期的な発見が評価され、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

研究室から患者

2000年以降、CTLA-4経路を標的とするイピリムマブ(販売名:ヤーボイ)など、いくつかの有望ながん免疫療法薬が、研究室から臨床試験へと進み始めた。
 
2011年には、PD-1経路を標的とする薬剤ペムブロリズマブが、進行期メラノーマ(悪性黒色腫)の患者に初めて投与された。
 
「ペムブロリズマブは、連邦政府の資金による一貫した研究が、進行がんの多くの患者に希望をもたらすことを示す代表的な例です」とGulley博士は述べた。
 
画期的なKEYNOTE-001試験では、NCIの支援を受けた研究者らが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のAntoni Ribas医学博士らとともに、ペムブロリズマブが進行期メラノーマ患者の腫瘍を劇的に縮小させることを実証した。これらの結果を受け、2014年に米国食品医薬品局(FDA)は進行期メラノーマに対してペムブロリズマブを迅速承認した。
 
免疫チェックポイント阻害薬の初期の成功は、がん治療における新たなアプローチへの道も切り開いた。NCIの支援を受けた研究者らは、免疫チェックポイント阻害薬を精密免疫療法としてどのように活用できるかを研究した。これは、がんの発生部位ではなく、腫瘍が持つ遺伝的特性に基づいて治療を行う手法である。
 
米国国立がん研究所(NCI)のCancer Center Support Grant(がんセンター支援助成金)およびSpecialized Program of Research Excellence award(がん研究を基礎から臨床へ橋渡しするための重点的な大型助成制度)の支援を受け、ジョンズ・ホプキンス大学のDung Thi Le医師らは、「ミスマッチ修復欠損(dMMR)」と呼ばれる遺伝的特徴を持つ腫瘍に対して、ペムブロリズマブが有効である可能性を示した。
 
この研究成果を受け、2017年には、がんの発生部位にかかわらず、その遺伝的特性に基づいて腫瘍を治療する目的で、ペムブロリズマブが承認された。これは、疾患の種類や発生部位を問わずに適応が認められた、史上初の薬剤であった。
 
「このことは治療のパラダイムを変えました」とGulley博士は述べた。「それまでは、薬剤は特定のがんに対して承認されていました。しかし、このことをきっかけに、ペムブロリズマブをはじめとする多くの免疫療法薬が、複数の異なる腫瘍に対して使用範囲が拡大することにつながったのです」。
 
現在、ペムブロリズマブは43種類以上のがん治療において承認されている。これらの承認の多くは、全米各地のNCI指定がんセンターで実施された研究の結果に基づくものであり、がんに関する知識とその治療法の進歩に貢献するため、数千人の患者が自ら臨床試験への参加に協力した。
 
NCIの支援を受けた研究により、免疫チェックポイント阻害薬の適用範囲が拡大し続けている。例えば2024年初頭、NCIが資金提供した大規模なAMBASSADOR試験の結果が報告され、高リスクの筋層浸潤性膀胱がん患者において、ペムブロリズマブ投与により無病生存期間がほぼ2倍に延長したことが示された。
 
「この研究をはじめとする数多くの研究のおかげで、ペムブロリズマブは現在、私たちが利用できる最も重要ながん治療薬の一つへと発展しました」とGulley博士は述べた。
 
Michael氏は、NCIが資金提供したペムブロリズマブやその他の免疫チェックポイント阻害薬に関する研究の恩恵を受けた、数え切れないほどの患者の一人である。
 
「2021年か2022年、そのあたりから、実際に血を吐くようになりました。それが、がんの明らかな徴候だったのだと思います」と彼は語った。
 
ステージIIIB期の非小細胞肺がんと診断され、それまでの治療法を使い果たした後、彼はメリーランド州ベセスダにあるNIH臨床センターで、ペムブロリズマブを評価する臨床試験に参加した。
 
治療開始から6カ月後、彼の腫瘍は消失した。
 
「本当にほっとしました」と彼は語った。「外に出て庭仕事をしていても、息切れしなくなりました」。
 
現在、CTLA-4、PD-1、PD-L1を標的とする数多くの免疫チェックポイント阻害薬に加え、LAG-3などの新たな標的を狙う薬剤も市販されており、世界中の多くのがん患者の治療成績と生活の質を劇的に改善させている。

耐性の克服

免疫チェックポイント阻害薬は大きな成功を収めてきたものの、その限界も明らかになっている。劇的かつ長期にわたる治療効果が得られる患者がいる一方で、治療に反応しない患者や、やがて耐性を獲得してしまう患者も少なくない。その原因を解明し、いかにしてそれを克服するかが、がん免疫療法における最も重要な課題の一つとなっている。
 
「単剤ですべての患者さんを治せるのであれば、それは素晴らしいことです」とGulley博士は述べた。「次のステップは、これに何を組み合わせれば、より効果を高められるかということです」。
 
NCIの助成を受けている研究者たちは、免疫チェックポイント阻害薬と、分子標的薬、がんワクチン、放射線療法、化学療法、細胞療法などの他の治療法との併用について研究を進めている。また、T細胞の疲弊や腫瘍微小環境の生物学的メカニズムを解明することで、耐性を克服する方法についての研究も進められている。
 
NCIの研究支援は、免疫チェックポイント阻害療法にとどまらない。Rosenberg博士は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法の先駆者であり、免疫系を活用してがんと闘う新たな治療法の確立に貢献した。また、NCIの支援を受ける研究者たちは、CAR-T細胞療法やがん治療用ワクチンの研究開発も進めている。
 
Michael氏のような患者にとって、これらの治療法は、継続的な連邦政府の研究支援が命を救うことにつながることを示している。
 
「あらゆる治療法の画期的な進歩の背景には、NCIによる長年にわたる研究支援の歴史があります」とGulley博士は述べた。「これこそが、科学への公的投資によって可能になることなのです」。

  • 記事担当 青山真佐枝
  • 監修 高濱隆幸(腫瘍内科・呼吸器内科/近畿大学病院 ゲノム医療センター)
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  • 原文掲載日 2026/07/21

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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