がんサバイバーの不眠症に新たな選択肢――鍼治療と認知行動療法

ASCOの見解

「睡眠は、がん患者にとって積極的がん治療から治療後の生活全般をとおして、患者の健康に不可欠であることは周知の事実です。この研究により、従来の薬剤以外に睡眠や不眠症を改善すると思われる、心理カウンセリングや鍼治療など、薬剤に頼らない有効な手段が多様にあることがよく理解できます。従来の薬剤治療は、副作用をもたらし、別の形で生活の質を低下させる可能性があります」と、ASCO会長Bruce E. Johnson医師(FASCO)は述べた。

不眠症に対する8週間の鍼治療あるいは不眠症のための認知行動療法(CBT- I)はがんサバイバーの不眠症の重症度を低下させ、その低下率は認知行動療法を受けたサバイバー群でより大きいことが、 Patient-Centered Outcomes Research Institute(PCORI:患者中心のアウトカム研究所)の支援によるがんサバイバー対象ランダム化比較試験で示された。本研究はシカゴで開催される2018年ASCO年次総会で発表される。

「60%ものがんサバイバーが何らかの不眠症状を抱えていますが、不眠症は過少診断され、必要な、行われるべき治療が行われていない場合が多々あります」と、研究筆頭著者であるJun J. Mao医師(ニューヨーク州スローンケタリング記念がんセンター、統合医療サービス長)は述べる。「CBT-Iと鍼治療はともに、中度から重度の不眠症治療に有効であり、軽度の不眠症治療にはCBT-Iがより効果が高いことがわれわれの臨床試験で示されました。患者にとって不眠症管理の選択肢が増えました」。

研究について

CBT-Iは、睡眠に関する感情、行動、および考え方の修正をめざす、新しい形の心理療法である。CBT-Iは不眠症治療の代表的手段とされてきた、とMao氏は言う。

研究者らは、がんの罹患経験があり、いかに不眠症が健康へ影響を及ぼすのかをよく知る患者アドバイザー団体に意見を聞いて、CBT-Iの比較対象となる治療法を探した。さらに、がんサバイバーへの調査の結果、彼らは不眠症に対して自然的、非薬物的アプローチを好むことが判明した。これらの意見、および鍼治療の有益性を示した他の睡眠研究結果に基づき、本臨床試験に用いる比較対象として鍼治療が適切であるとみなされた。

本試験のがんサバイバーらは過去にがん治療を完了しており、がんと診断されてからの平均経過期間はおよそ6年間であった。彼らは乳がん、前立腺がん、頭頸部がん、血液腫瘍および大腸がんの治療を受けていた。 さらに、6%のサバイバーが2種類以上のがんに対して治療を受けていた。

研究スタッフは試験参加者全員に構造的臨床面接を実施して、不眠症であると臨床的に診断したうえで、参加者らをCBT-Iあるいは鍼治療(睡眠、疼痛、および抑うつに影響を及ぼすとされる身体の特定の位置に鍼を置く治療)のどちらかに無作為に割り付け、8週間治療をおこなった。

CBT-Iを受けた参加者らがセラピストと共同で立て直した睡眠回復スケジュールの作成ポイントは以下のとおり。

• ベッドで過ごす時間を減らす。

• ベッドでの行動を睡眠と性行為に限定する。

• 睡眠に対する無益な思い込みを修正する。

• 良好な睡眠衛生を取り入れる(タブレット端末および携帯電話の光を見ることや、深夜の食事、激しい運動などの行動を避ける。同時に規則的な睡眠スケジュールも設定する)。

試験登録日から8週目(治療終了時)まで、不眠症重症度質問票(ISI)で評価する不眠症重症度の低下を本研究の主要評価項目とした。さらに試験開始から20週間後、サバイバーらを再評価した。ISIは、入眠困難や睡眠持続困難など不眠症の重症度、および不眠症が日常機能や生活の質におよぼす影響を評価する質問票である。ISIスコアの範囲は0〜28(0〜7:臨床上有意な不眠症としない、8〜14:軽度の不眠症、15〜21:中等度の不眠症、22〜28:重度の不眠症)である。試験開始当初のサバイバーらは、軽度の不眠症が33人、中等度の不眠症が94人、重度の不眠症は33人であった。

主な知見

全体としてCBT-Iの方が効果が高かった。8週間後の不眠症重症度スコアは、CBT-I群が10.9ポイント(18.5ポイントから7.5ポイント)低下したのに対して、鍼治療群は8.3ポイント(17.55ポイントから9.23ポイント)低下した。試験開始当初に軽度の不眠症とされた参加者らの改善率は、CBT-I群の方が鍼治療群よりはるかに高かった(85%対18%)。試験開始時に中等から重度の不眠症であった参加者らの奏効率は、両群間でほぼ同率であった(75%対66%)。試験開始から最長で20週間、参加者全員が不眠症の改善を維持した。

次の段階

本試験はこの2つの介入治療アプローチのどちらが不眠症をより軽減するのかを比較、判定するものであった。今後の研究では、より多様ながんサバイバー集団の睡眠管理法を改善させるためには、有効な治療法をどう提供するのが最適であるかについて焦点を当てていく。

本研究は、Patient-Centered Outcomes Research Institute((PCORI:患者中心のアウトカム研究所)から資金提供を受けた。

研究の概要

研究対象

がんサバイバーの不眠症

試験相

ランダム化試験

患者数

160人

治療内容

不眠症のための認知行動療法(CBT-I)、および鍼治療

主要所見

両アプローチ研究ともに8週間後の不眠症重症度スコアは低下

副次的所見

治療開始後、最長で20週間、不眠症重症度の改善が維持

アブストラクトはこちら。

関連情報:

Bruce E. Johnson医師(FASCO)の情報開示は以下のとおり:Stock and Other Ownership Interests with KEW Group; Honoria from Merck and Chugai Pharma; Consulting or Advisory Role with Novartis, AstraZeneca (Inst.), KEW Group, Merck, Transgene, Clovis Oncology, Genentech, Lilly (Inst.), Chugai Pharma, Boehringer Ingelhelm and Amgen; Research Funding with Novartis; Patents, Royalties and Other Intellectual Property with royalties from Dana-Farber Cancer Institute; Expert Testimony with Genentech.

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)

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原文掲載日 

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