2012/06/26号◆クローズアップ「厳しい過渡期:癌サバイバーシップ(治療後ケア)プラン確立の遅れ」
NCI Cancer Bulletin2012年6月26日号(Volume 9 / Number 13)
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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇
厳しい過渡期:癌サバイバーシップ(治療後ケア)プラン確立の遅れ
乳房の小さな腫瘍に対して乳腺腫瘍摘出術と放射線治療を受けてから6年近くが経った49歳のKris Batley氏は最近、最後のタモキシフェンの錠剤を服用した。
乳癌の治療もこれで終了し、Batley氏は癌サバイバーシップの新たな段階への過渡期にさしかかっていた。これからは担当の癌専門医以外の医師が、経過観察のための癌検診の実施や治療の遅発性副作用のモニタリングなど、彼女の長期的なケアを管理することになっている。
だが、彼女にはこの過渡期を迎える準備ができているのだろうか?
「論理的に考えると、治療を終えてから10~15年後に担当の癌専門医に診てもらう必要が本当にあるかといえば、おそらくないと思います。でも、まだ6年しか経っていないし、『私は癌だった。私は癌サバイバーだ。癌について知識のある人と話す必要がある』と感じるのです」と彼女は言う。
Batley氏の不安は、多くの癌サバイバーが直面するさまざまな困難のひとつに過ぎない。こうした共通の問題が、2005年に米国医学研究会(IOM)が発表して大きな影響を及ぼした報告「癌患者から癌サバイバーへ:道を見失って」作成の原動力となった。
この報告の主な推奨は、治療を終えた患者はみな、治療後の人生の浮き沈みを乗り越えるための青写真であるサバイバーシップ・ケアプラン(SCP:癌治療後ケアプラン)を受けるべきであるというものであった(補足記事欄参照)。この推奨は、米国の癌サバイバーの数が現在の1370万人から2022年には1800万人近くまで増加するという最近の予測によって、いっそう重要になった。
この報告は発表されて間もないため、SCPを利用することでケアの質が向上するかどうかについては判断できないということに、数名のサバイバーシップ研究者らの意見は一致した。現在までに実施された研究は、これまでのSCP改良における進展が複雑な状況にあることを示している。
NCIの癌サバイバー支援室のDr. Carly Parry氏は、ひとつ明らかなことがあるとすれば、SCPについてはまだ学ぶべきことが多くあることだと述べている。「SCPが標準的なケアになるとすれば、現実の世界でその有効性と生存率を注意深く評価することがとても重要です」とParry氏は言う。
産みの苦しみ
SCPの改良と実施における進歩は、いくつかの方法で評価できる。
サバイバーの立場からすれば、「そのほとんどが事例にすぎないにしても、耳にしていることについて、われわれは満足しています」と2005年の報告書を作成したIOM委員会メンバーで、全米癌サバイバー連合(NCCS)のEllen Stovall氏は言う。サバイバーは同プランを評価している、とStovall氏は続けた。「(プランによって)癌サバイバーは次に何が起こるのかを知ることができ、ある程度予測して経過観察を要求できるのです」。
しかし最近2つの研究、NCI指定のがんセンターのみで実施した研究と、リブストロング財団のサバイバーシップ・センターズ・オブ・エクセレンス・プログラムのメンバーとなっているセンターで実施した別の研究が実施された。これらの研究によれば、多くのサバイバーは同プランを受けていない。また、プランを受けている場合でも、IOM推奨の要素がすべて含まれているわけではないことが多い。
プラン作成に要する時間は、特にすでに手いっぱいな状態にある癌専門医の間で、プランの普及を大きく阻むものとなっている、とリブストロングのセンターの研究を主導した、ペンシルベニア大学アブラムソンがんセンターのDr. Carrie Stricker氏は強調した。「それに、われわれは何を(SCPの)重要な要素とすべきかについて合意に達していません」。
オハイオ州グリーンビルのウェイン・ヘルスケアで癌プログラムを指揮した同院の外科医Dr. Daniel McKellar氏と他の2人のスタッフは、ケアプランの作成を担当している。同氏らは、官民共同のJourney Forwardが作成したSCPのひな形を使用している。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)とリブストロング財団を含むいくつかの組織は、アブラムソンがんセンターと共同で、サバイバーシッププランのひな形も作成した(参照1、参照2)。また、NCIは近々、このテーマに関するプログラムの発表を予定している。
ウェイン・ヘルスケアのSCP作成プロセスはかなりスムーズに進み、時間がかからないが、多くのがんセンターではそうではない、とMcKellar氏は説明した。米国外科学会(ACS)癌委員会(CoC)の次期委員長であり、CoCの検査員である同氏は、定期的にACS公認のがんセンターを訪問するため、把握していて当然である。
SCPはそれらの会議で話題を呼んだ。CoCは昨年発表した新しい基準の中で、米国で新たに癌と診断された患者の約70%が治療を受けるACS公認の全施設において、2015年までにすべての患者にSCPを提供することが求められると公言した。
「実施に対する障壁をよりよく理解し、実施に向けてベストプラクティス(最良の医療)を展開できるように、3年の導入期間を設けました」とMcKellar氏は説明した。
いくつもの分裂の橋渡し
サバイバーの治療後の人生への転換期を構成する重要な要素は、癌専門病院から家庭医への日常ケアの引き継ぎであり、Stovall氏によれば、これは研究中である。例えば、癌サバイバーの家庭医が患者のSCPを受け取っても、以降の患者ケアの管理方法に関する合意は存在しない。
その例として、最近のASCO年次総会で発表された研究では、サバイバーシップケアに対する考えが癌専門医と家庭医とで実質的に食い違っていることが明らかになった。この研究で調査を受けた癌専門医の大半は、家庭医の適切な経過観察の提供能力を疑問視しており、その能力は癌専門医が最も高いと考えていた。一方、家庭医の大多数は、管理方法を共有して癌専門医やそのスタッフと共に患者のケアを行うことが最適だと感じていた。
それに加え、SCPを受けているかどうかにかかわらず、往々にして、慣れ親しんだ古巣である癌専門クリニックを離れる準備のできていない、Kris Batley氏のようなサバイバーたちがいる。
「それが重要な懸念です」。癌サバイバーシップを20年以上研究してきたトロント大学のDr. Eva Grunfeld氏はこう語る。「(サバイバーには)自分がまだ医療システムの中にいて、必要になれば専門医のケアがまた受けられるという安心感が必要なのです」。
次なる研究の波
Grunfeld氏は、サバイバーに対するSCPの効果を評価する唯一のランダム化臨床試験を主導した。早期乳癌の治療を受けた女性を対象としたこの試験では、主要評価項目である癌に伴う苦痛は、SCPを受けなかったサバイバーよりSCPを受けたサバイバーの方が少ないわけではなかった。
その他にもSCPの臨床試験への取り組みが始まっている。例えば、Stricker氏はパイロット試験を主導し、自ら「キャデラック」SCPと呼んでいるプランの使用を評価中である。このSCPには、他のプランでは得られない情報が含まれる。「これは、IOMの推奨内容のすべてではなくても大半を網羅した、まさに包括的な計画書です」と同氏は言う。
また、NCIはGrid-Enabled Measures(グリッドが可能とする評価基準)イニシアチブを通じ、生活の質、ヘルスケアの利用、費用など、SCP関連研究で用いられる最も決定的な評価項目を特定する試みを支援している。
この分野の研究者らは、多くの領域で進展が必要であることで意見が一致している。例として、診療報酬改定によって、SCPの準備や、プランやサバイバーシップへの転換期について患者と共に見直すことに対し、がんセンターが確実に払い戻しを受けられることにStovall氏は言及した。情報技術の進歩、特に、電子カルテとSCPを関連づけることで、SCPの準備がはるかに容易になるとStricker氏は言う。
さらに、SCPの作成・個別調整・実施の最良の方法とサバイバーのニーズに合わせたサバイバーシップケアのモデルについて研究者らは検討する必要がある、とParry氏は説明した。最適な転換期の経過観察は、患者の年齢、癌の種類と病期、受けた治療法、その結果必要となった経過観察の範囲と程度などの要因によって異なる、と同氏は続けた。
アブラムソンで治療を受けたBatley氏は、同センターの乳癌サバイバーシップ・クリニックのナースプラクティショナーとの面談で治療後の困難について話し合った後でSCPを受けた。Batley氏はこう語る。「とてもよかったです。不安や体重の増加など、担当の癌専門医とは話したことのないような事柄について話し合いました」。
彼女はこう続けた。「なぜ皆この問題に関心があるのか、理解できます。今ではサバイバーは増えています。そして、その分、癌専門医の一日の時間は限られてくるのです」。
—Carmen Phillips
関連記事:”Passport for Care: An Internet-Based Survivorship Care Plan” (「ケアへのパスポート:インターネットに基づいたサバイバーシップ・ケアプラン」)
IOM:サバイバーシップケアの必要不可欠な構成要素・再発と新たな癌、およびその他の遅発性副作用の防止 ・癌の転移・再発や二次癌の監視 ・医学的・心理社会的な遅発性副作用の評価 ・癌とその治療の結果に対する治療介入 ・すべてのサバイバーの健康上のニーズを確実に満たすことを目的とした、専門医と家庭医の協働 サバイバーシップ・ケアプランに組み込む要素・癌の種類、受けた治療法とそれによって起こり得る結果 ・推奨される経過観察の時期と内容についての詳細情報 ・予防診療および健康と満足できる生活状態の維持方法に関する推奨事項 ・雇用および医療保険の受給に関する法的保護についての情報 ・地域社会における心理社会的サービスの利用可能性 |
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川瀬真紀 訳
原 文堅(乳癌/四国がんセンター) 監修
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