コレステロール低下薬は免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強できるか
免疫チェックポイント阻害薬は優れた薬であり、一部の進行がん患者において治癒をもたらすこともある。しかしながら、大多数の患者では短期間しか奏効しないか、全く奏効しない。現在研究者らは、コレステロール低下薬が免疫チェックポイント阻害薬の奏効率を上昇させる可能性があるというエビデンスを得ている。
マウスを用いた非臨床試験で、2種類のコレステロール低下薬が単剤療法、および免疫チェックポイント阻害薬との併用療法で、腫瘍増殖を遅らせたことをデューク大学の研究者らが突き止めた。エボロクマブ(レパーサ)とアリロクマブ(プラルエント)の両剤は一部の高コレステロール血症の治療薬として使用されている。
「この発見の素晴らしいところは、これらの薬剤がすでに2015年に(FDAによって)承認を受けており、世界中の何千人もの患者に使用されていることです。また、これらの薬剤は一般的にかなり安全です」と非臨床試験責任研究者であるChuan-Yuan Li理学博士(デューク大学医療センター)は述べた。
「患者が自宅でコレステロール低下薬を使用できるなどの利点が他にもあるかもしれません。また、こうした薬剤はほとんどの抗がん剤と比較して低価格です」とJames Gulley医学博士(NCIがん研究センター免疫療法グループ長)は指摘した。
「この事実は、がん患者でこれらの薬剤との併用療法を調べるきっかけとなりました」と言う。Li氏らはこうした薬剤の併用療法の臨床試験を開始したいと考えている。
エボロクマブとアリロクマブの両剤は、「悪玉」コレステロールであるLDLコレステロールの血中濃度を制御する酵素であるPCSK9の活性を阻害する。しかし、腫瘍に対するこの両剤の効果はコレステロールとは何の関係もないことが分かった。それどころかPCSK9の阻害により、がん細胞ががんと闘う免疫細胞により認識されるようになった。NCIが資金を提供した研究から得られた知見は、Nature誌に2020年11月11日発表された。
Li氏らは現在もがんにおけるPCSK9の役割に関する研究を続けている。「このタンパク質には正常細胞では多様な機能があるので、がん細胞でも他の役割があるかもしれません」とLi氏は述べた。
「わたしたちはもっといろいろな効果があるのではないかと考えます」。Li氏らは現在、PCSK9欠失がん細胞で他の遺伝子やタンパク質がどのように変化するのかを調べる実験を行っている。
PCSK9がないと腫瘍の増殖速度が低下する
Li氏らは偶然にもPCSK9の存在を知り、がんを殺傷する免疫細胞の活性とコレステロール調節酵素を関連付ける研究に遭遇した。
「他のコレステロール調節酵素を調べればいいのではないかと私たちは考えました」とLi氏は振り返った。同じ頃、もともとPCSK9がない状態で生まれた人々はコレステロール値が極めて低く、心疾患になりにくいことをLi氏は知った。
そこでLi氏らはがんにおけるPCSK9の役割を調べることにした。研究結果によると(PCSK9遺伝子の欠失による)遺伝子組換えPCSK9欠失がん細胞は、PCSK9を有するがん細胞と同じ速度で増殖することが分かった。
しかし遺伝子組換えPCSK9欠失がん細胞はマウスに移植されると、PCSK9を有するがん細胞と比較して、増殖速度が低下した。 さらにPCSK9阻害薬であるエボロクマブとアリロクマブの両剤はマウスの大腸がんの増殖を遅らせた。
PCSK9は肝細胞の表面に存在するコレステロール受容体(コレステロールと結合して、細胞内に運ぶかぎ爪状のタンパク質)の量を制御することで、血中コレステロール値に影響を与える。PCSK9の阻害により、細胞表面のコレステロール受容体が増え血中コレステロールが減少する。
Li氏らは、PCSK9の欠失や阻害によるがん増殖抑制効果はコレステロールと関係があるのではないかと疑っていた。しかし驚いたことに、そうではなかったようである。皮膚がん細胞でコレステロール受容体遺伝子が欠失しても、その増殖速度は全く低下せず、同じ皮膚がん細胞でPCSK9遺伝子を欠失させた場合のような効果は見られなかった。
免疫チェックポイント阻害薬の効果を上げる
PCSK9はコレステロール受容体への影響で最もよく知られているが、他の細胞表面受容体、特に免疫応答に関与する一部の受容体の数も制御している。
これに合わせてPCSK9欠失がん細胞をマウスに移植したところ、免疫反応が誘発され、腫瘍の増殖速度が低下することをLi氏らは突き止めた。
さらに免疫チェックポイント阻害薬で免疫機能を向上させると、PCSK9欠失腫瘍の増殖速度がさらに低下した。一部の実験で免疫チェックポイント阻害薬を投与したところ、PCSK9欠失腫瘍の増殖がほぼ完全に停止した。
同様にエボロクマブもしくはアリロクマブ+免疫チェックポイント阻害薬の併用投与により、それぞれの薬剤の単独投与と比較して、PCSK9を有する腫瘍の増殖速度が低下した。また、この併用投与を受けたマウスの生存期間も延長した。
免疫系ががんを認識するよう促す
次にLi氏らは免疫系がPCSK9欠失腫瘍と相互作用する機序を調べた。細胞表面受容体の制御におけるPCSK9の役割に焦点を当てた。
免疫細胞はがん細胞を殺傷する前に、まずがん細胞を見つける必要がある。免疫細胞はがん細胞表面のMHCクラスI分子(その細胞内で何がおきているのか示すのに必要不可欠なたんぱく質)を認識することで、がん細胞を見つける。がん細胞の場合、細胞は異常でMHCタンパクの発現が少ない場合が多い。
「T細胞が腫瘍細胞内で生じていることを認識する唯一の方法は、MHCクラスI分子を介して認識することです。これは非常に重要です」とGulley氏は解説する。
PCSK9ががん細胞の表面に存在するMHCクラスI分子の量に影響を与えることをLi氏らは突き止めた。PCSK9の欠失やエボロクマブによるその活性の阻害により、皮膚がん細胞や乳がん細胞の表面に存在するMHCクラスI分子の量が大幅に増加した。さらにPCSK9欠失腫瘍はPCSK9を有する腫瘍と比較して、T細胞などのがんを殺傷する免疫細胞を多く含んでいた。
「(MHCクラスI分子が)より多く存在すれば、T細胞は腫瘍内で生じていることをより明確に認識できます。また免疫系の機能が高まるので、免疫療法はより有効に作用するでしょう」と述べた。
その反面、免疫療法はT細胞ががん細胞を認識するよう促すMHCクラスI分子の遺伝子や他の遺伝子に変異が存在する腫瘍に対しては、あまり効果がないという研究が示されている。「他の研究者らは放射線や免疫シグナル伝達分子であるサイトカインなどを用いて、腫瘍内のMHCクラスI分子の量を増やす計画に取りかかっています」とGulley氏は述べた。
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