腫瘍生物学を基に抗がん薬併用療法を検証するNCIの取り組み:ComboMATCH

国国立がん研究所(NCI) プレスリリース

米国国立がん研究所(NCI)は、特定の腫瘍変異を標的とする新薬の併用療法の治療効果を成人および小児で検証する大規模精密医療がんプロジェクトに着手した。本プロジェクトは「治療法選択を目的とする分子解析を伴う併用療法プラットフォーム試験(the Combination Therapy Platform Trial with Molecular Analysis for Therapy Choice:ComboMATCH)」と言われ、腫瘍生物学に基づいて抗がん剤の併用療法を検証する、この種の試験の中では最大規模のものである。この試みは、ComboMATCH以外の、より大規模で決定的な臨床試験に進む可能性のある有望な治療法の特定を目的とする。NCIは米国国立衛生研究所(NIH)の一機関である。

ComboMATCHは、一つの薬剤併用療法(2種類の分子標的薬併用、または分子標的薬+化学療法薬の併用)を評価する多数の第2相試験で構成される。一部の試験は身体のがん発生部位に関わらず、がん細胞に特定の変異が認められる患者を登録する一方、他の試験は特定のがん種患者を登録する。

「現在、患者が受ける治療の大部分は、ゲノム解析で決定されたものではありません。ComboMATCHで、私たちはゲノム異常を利用して、患者にとって最も効果的な併用療法を決定できることを示そうとしています」とJames H. Doroshow医師(NCIがん治療・診断部門長)は言う。

ComboMATCH(NCT05564377)は、NCIとNCI臨床試験ネットワーク(NCTN内の5つすべての米国臨床試験グループにわたるグループ横断型共同臨床試験である。ComboMATCHは、NCIによる画期的な精密医療臨床試験であるNCI-MATCH (Molecular Analysis for Therapy Choice:治療法選択を目的とする分子解析)の後続臨床試験である。NCI-MATCHでは、患者はがんの種類ではなく、腫瘍の遺伝子変化に基づいて治療が割り当てられた。ほとんどの場合、NCI-MATCHでは、患者の腫瘍の増殖を促していると考えられる遺伝子変異を標的とする薬剤の単剤療法が評価された。しかし、多くの患者は、こうした単剤療法に対してすぐに耐性を獲得した。

「ComboMATCHで、ドライバー遺伝子変異と耐性機序の両方を攻撃することで、より持続した臨床反応を得て、患者により多くの利益をもたらすことを期待しています」とComboMATCHの共同筆頭研究者であるJeffrey Moscow医師(NCIがん治療・診断部門治験薬分科)は述べた。

併用療法としては、米国食品医薬品局(FDA)が承認した薬剤と製薬企業から提供された治験薬の両者が含まれる。薬剤の併用療法候補は何十万種類も存在するため、最も有望なものを絞り込み、優先順位をつけることが1つの課題となっている。

ComboMATCHの包括的な調整作業は、ECOG-ACRINがん研究グループが主導している。米国のNCTNは腫瘍臨床試験同盟、米国小児腫瘍グループ、ECOG-ACRINがん研究グループ、NRG腫瘍学、およびSWOGがん研究ネットワークから成り、5つのグループすべてがComboMATCH内の臨床試験を主導する。

「ComboMATCHの重要ポイントは、その中で評価される併用療法が、実際にいずれかの薬剤の単独療法よりも優れていることを示す前臨床データ、および、第1相試験の安全性データに基づいていることです。NCTN試験グループの代表者全員の間で、各併用療法の評価に同意が得られるでしょう」とComboMATCHの共同筆頭研究者で、ECOG-ACRIN による調整作業の筆頭研究者であるJames Ford医師(スタンフォード大学医学部)は述べた。

局所進行または転移固形腫瘍患者がComboMATCHに登録される可能性を確認する方法はいくつか存在する。近年、腫瘍ゲノム検査は、多くのがん種の患者にとって標準治療の一部となっている。患者の検査結果から、ComboMATCHの1つで研究されている特定の遺伝子変異が存在することが判明した場合、ComboMATCHに参加する地域病院やがんセンターの医師は、追加の適格性検診のために患者を紹介できる。標準治療の一環としてゲノム検査を実施している指定商業・学術検査機関約35機関のいずれも、ComboMATCHの候補患者を特定できる。

臨床試験に適合する患者からは、治療前の腫瘍生検検体を提供してもらい、がん遺伝子パネル検査(がんゲノム プロファイリング検査)を行ってもらう。これにより、ComboMATCHの研究者らは、ある治療法が奏効し、他の治療法が奏効しなかった理由などの他の問題についても後で精査できる。

ComboMATCHでは、次の3件の臨床試験ですでに登録が開始されている。
・NF1遺伝子変異を有し、かつ、ホルモン受容体陽性乳がんが転移した患者における、フルベストラント(フェソロデックス)とビニメチニブ(メクトビ)の使用を検証する試験(NCT05554354

・RAS遺伝子変異を有し、かつ、治療後に再発または残存した子宮内膜がんまたは卵巣がんの女性患者における、セルメチニブ(コセルゴ)+オラパリブ(リムパーザ)併用療法またはセルメチニブ単剤療法を検証する試験(NCT05554328

・AKT遺伝子変異を有し、かつ、固形腫瘍が転移した患者における化学療法とイパタセルチブの併用併用試験(NCT05554380

今後数カ月で臨床試験が6件追加され、いずれさらに追加されるであろう。全体として、NCIはComboMATCHに約2,000人の患者を登録する予定であるが、この数は増える可能性がある。

小児を登録せず、別の並行試験であるPediatricMATCHを実施したNCI-MATCHとは異なり、ComboMATCH内の一部の臨床試験は小児がん患者も登録する。

NCIは、さらに2件の精密医療がん治療試験の着手する予定である。ImmunoMATCHは、免疫療法を用いた標的治療に対する反応を改善するために、腫瘍の免疫状態をどのように前向きに特徴づけることができるかを調べるパイロット試験から開始し、将来は大規模試験に拡大する予定である。MyeloMATCHは、急性骨髄性白血病患者や骨髄異形成症候群患者のがん細胞の遺伝子変化に基づく治療法を検証するものである。

  • 監訳 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
  • 翻訳担当者 渡邊 岳
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  • 原文掲載日 2023年6月1日

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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