癌を死滅させるウイルスが腫瘍の血管形成に影響を及ぼす

2008年6月

オハイオ州コロンブス ― 膠芽腫など治癒不能の脳腫瘍を治療するための有望な方策として、遺伝子組換えウイルスにより癌細胞を死滅させる方法があるが、体に備わった自然防御機構のため、ウイルスが腫瘍を除去する前にウイルスの方が排除されてしまうことが多い。

オハイオ州立大学総合がんセンターの研究者らにより実施された動物実験の結果が、この現象が起こる理由を明らかにする手がかりとなり、脳腫瘍患者に対するウイルス療法の改善につながる可能性がある。

Molecular Therapy誌に最近発表されたこの研究は、ウイルスが腫瘍細胞を破壊すると、この腫瘍細胞により腫瘍の新生血管の形成を促すタンパクが産生されることを示している。この血管が輸送する免疫細胞がウイルスを排除し、実のところ腫瘍の再増殖を促進するという。

「この研究は、腫瘍溶解性ウイルス療法にはその効果を制限する重要な副作用があることを示している」と話すのは、オハイオ州立大学総合がんセンターとダーディンガー神経腫瘍学・神経科学研究所の研究員である試験責任医師のBalveen Kaur氏である。

「このことを踏まえて、現在は、この作用を抑制してウイルス療法の働きを高める併用療法のデザインに取り組んでいる」

ウイルスに感染した腫瘍細胞内では、ウイルスによって、神経膠腫の血管形成にかかわる3つの遺伝子の活性レベルが変化するとの発見が得られた。その1つであるCYR61は、ウイルスに感染させた腫瘍細胞内での活性が非感染腫瘍の9倍となった。また、ウイルス注入量が多いほど遺伝子の活性も高くなることが示された。

この試験において、Kaur氏らは免疫系が機能している齧歯類にヒト神経膠腫細胞を植え付け、その結果形成された腫瘍に対して、動物の一部に殺細胞性すなわち腫瘍溶解性のウイルスhrR3を注入した。ウイルスを注入した動物は17日生存したのに対して、注入しなかった動物の生存期間は14日であった。ウイルスを注入した腫瘍には、注入しなかった腫瘍の約5倍の血管が形成されていた。

また、ウイルスを注入した腫瘍では、神経膠腫での血管形成に何らかの役割を果たすと考えられている11の遺伝子のうち3つに活性の変化が認められた。このうち、CYR61の活性は、注入12時間後に8.9倍に上昇した。

最後に、研究者らは数種類の神経膠腫細胞株および患者から採取した神経膠腫細胞と、活動性の複製型腫瘍溶解性ウイルス株数種類を用いて、ウイルスによるCYR61の活性上昇を検証した。

「いずれの場合もCYR61の活性が上昇したことから、この遺伝子活性の変化がウイルス感染に対する宿主反応であると考えられる」とKaur氏は言う。非複製型ウイルスでは、遺伝子の活性に対する影響はみられなかった。

Kaur氏らは現在、腫瘍溶解性ウイルスに感染した細胞でこの遺伝子が活性化する理由と、この遺伝子活性化によって産生されたタンパクが、腫瘍溶解性ウイルス療法に対する患者の反応を反映するバイオマーカーとなるかどうかを検討している。

「ウイルス感染に対する患者の反応を評価するのは、現時点では不可能である。この方法が有効であるとすれば著しい進歩となろう」とKaur氏は語っている。


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翻訳担当者 Nobara

監修 鵜川邦夫(消化器科)

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