がん患者の心理的不安に、オンラインセラピーの活用

Tanya J. Peterson(理学修士)は、National Board of Certified Counselors(全米公認カウンセラー協会)の認定資格を有し、メンタルヘルスのウェブサイト「Choosing Therapy」に定期的に寄稿している。不安感についての自己啓発本4冊をはじめ、不安感に対するガイダンス付きの記事を2本執筆している。彼女の著書は、困難に負けずに豊かでマインドフルな生活を送るための力を与えてくれる。  (*各リンク先は英語ですので自動翻訳をご利用ください)

がんは身体的な健康だけでなく、全般的な幸福感やメンタルヘルスにも影響を及ぼし、ありとあらゆる面で関わってきては人間関係や人生で担う役割の妨げとなることもあります。また、生産性、経済的安定、将来の希望や夢などにも影響を及ぼします。

メンタルヘルスは、がん治療のあらゆる段階で影響を受けます。つまり、がんと診断された瞬間、その後の治療期間中、さらに治療完了後も影響があります。そのため、メンタルヘルスへの適切な支援は必要不可欠です。それにもかかわらず、がん患者が対面でセラピーを受けることはしばしば困難です。オンラインセラピーが、多くの人々に適切かつ有効なメンタルヘルス治療の新たな手段として広がっていますが、がんに直面している人々も含まれます。

がん患者のメンタルヘルス治療におけるセラピーの重要性

心理療法は、しばしば「トークセラピー」または単に「セラピー」と呼ばれ、緩和ケアまたは支持療法を構成する治療法であり、がんが人生に及ぼす影響に対処するためのさまざまな支援やサービスを行います。緩和ケアチームには、ソーシャルワーカーやその他のメンタルヘルス専門家が加わる場合が多く、がんやがん治療に伴う心理的動揺やストレスに対処できるよう支援します。セラピストとカウンセラーは、対面またはオンラインでサービスを提供して、がん患者の全般的な生活の質を高めます。

がんは、次のようなさまざまなメンタルヘルス問題を引き起こします。

不安抑うつは、がん治療の前、治療中、治療後の人によくみられます。National Behavioral Health Network for Tobacco & Cancer Control(タバコとがん管理のための全米行動衛生ネットワーク)によると、がんサバイバーの最大25%がうつ病を経験し、最大45%が不安を経験しています。さらに、がん治療を受けている人が自殺をする危険性は、一般の人の2~3倍上昇します。このように自殺の危険性が上昇するのは、絶望、孤独、悲嘆、不安、生活の制約、社会的支援の欠如が原因です。もし、自分が危機に陥っていると感じているのに医師や大切な人と連絡が取れない場合は、全米自殺予防ライフラインに電話してください。

がんがメンタルヘルスに及ぼす影響として、次のような問題が起こり、がん治療や予後にも弊害が及ぶことがあります。

  • 睡眠障害
  • 社会的な引きこもりや孤立
  • 偏った食生活や運動不足など、セルフケアへの意欲低下
  • 薬物やアルコールの使用
  • 医師の予約や治療の放置

このような問題は治療や回復に支障をきたすことがあり、生存に影響するおそれもあります。Journal of the National Cancer Institute誌によると、抑うつ状態のがん患者では、こうした消耗するメンタルヘルス問題で困っていないがん患者と比べて、死亡率が19%も高くなります。さらに、メンタルヘルスとがん生存との間には強い関連性があることが研究で示されています。

したがって、セラピーは、がんとともに生きる人々の緩和ケアに不可欠な要素なのです。残念ながら、多くのがん患者にとって、対面でセラピーを受けることに対して壁があります。

がん患者がメンタルヘルス支援を対面で受けることの難しさ

がん患者にとって、セラピーは生活の質を高め、ストレスを軽減し、セルフケア改善に役立つものであり、治療がより効果的となるのを助けます。National Comprehensive Cancer Network(全米包括的がんネットワーク)によると、必要なメンタルヘルス支援を受けているがん患者は、5%程度にすぎないのが現状です。

対面セラピーに対する障壁として、以下の要因などがあります。

  • 疲労感(誰かに会うために外出することが困難)
  • 移動の負担(距離や費用など)
  • セラピー通院にかかる時間

過去には、こうした負担のせいで、必要なメンタルヘルス支援を受けられないことがよくありました。しかし、オンラインセラピー・サービスが提供されるようになったことで、がん患者がメンタルヘルスケアを利用する経路が変わってきています。

がん患者がオンラインセラピーを受けるメリット

がん患者にとって、オンラインセラピーは便利で安全な方法です。なぜなら、自宅の清潔な環境で、疾患をもつ可能性のある人々からの距離を保てるからです。これは化学療法や免疫系を低下させる他の治療を受けている間、またはその治療後では重要なことです。

65件の研究報告書のレビューによると、オンライン・ビデオセラピーは、特定の心理状態や行動障害から日常ストレスまで、メンタルヘルスのさまざまな問題を効果的に治療することも明らかになっています。がん患者は極度とも言えるストレスに直面しており、不安や抑うつのリスクが高いことを考えると、オンラインセラピー、特にビデオ会議機能を介したオンラインセラピーは、精神的症状を効果的にサポートし、緩和することができます。

オンラインセラピー受診で期待できること

オンラインセラピーを受ける場合、資格を持つメンタルヘルス専門家が担当します。ほぼすべてのサービスの提供にあたり、セラピストは大学院学位があり、その州で免許を取得していることが必要です。面談をメッセージのやりとりで行うこともあり、その場合、患者とカウンセラーはリアルタイムでは対話していません。チャット、電話、またはビデオ会議機能を利用すれば、リアルタイムでセラピストと直接繫がることができます。

  • チャットで受診する。チャットでは、あなたとセラピストは即座にメッセージのやりとりをして、お互いに即時に質問と返事ができます。セラピストは感想や意見を伝えて、あなたが経験しているであろう問題の解決策を引き出せるよう手助けします。お互いに声は聞こえず、顔も見えませんが、途切れることなく流れるように会話ができます。このチャット方式は、双方がお互いのメッセージに回答することができます。この方法の利点は、会話の記録を頻繁に書き留めて、次のセッションの参考に利用できることです。
  • 電話で受診する。電話での会話は、セラピストの声を聞くことができるという利点があります。同様に、セラピストはあなたの声を聞くことができます。文字だけのメッセージでは、相手の口調や、言葉だけでは伝わらない会話の側面を見逃すことがあります。文字でのチャットよりも、電話で会話をする方が個人的な関わりが持てると感じる人もいます。
  • ビデオ会議。セラピストとのビデオ会議では、まるで同じ部屋にいるかのように、セラピストの顔を見て声を聞くことができます。パソコンやスマートフォンに接続して、Zoom、Teams、FaceTime、Skypeなど、セラピストのオフィスで使用されているソフトウェアによるビデオ会議システムを使用します。セラピストとの面談時において、これらのソフトウェアはプライバシーを確保するので安全です。あなたがビデオ形式を使用して人と話すことに慣れていない場合は、最初は少し落ち着かない感じがするかもしれませんが、セラピストが二人の間に画面がなくて直接会っているような気分にさせてくれるでしょう。

オンラインセラピーの費用と保険適用

オンラインセラピーにかかる費用には大きな幅があり、それぞれのプラットフォームが独自のパッケージを提供しています。通常、患者は、1回30分または50分のセッションを所定回数実施するパッケージの中から選択します。セラピストとのセッションが4~6回のパッケージが一般的です。費用は選択するプラットフォーム運営企業やパッケージの種類によって異なります。通常、パッケージへの支払いは全額前払いとなりますが、無料でお試しいただける期間もあります。お試し期間は1週間であることが多いです。この期間で、どのようにサービスが行われるのか、またセラピストと面談をした上で、オンラインセラピーが自分に合っているのかを確認することができます。

多くの保険会社は、オンラインセラピーを保険適用外としています。しかし、研究が継続してこうしたサービスの有効性が示されるにつれて、費用の少なくとも一部で保険適用を開始する保険会社もあります。オンラインセラピーが保険適用とされるかどうかは、ご加入の保険会社にお問い合わせください。

最近がんと診断された方、治療中の方、もしくは治療を終えた方で、抑うつ、不安、ストレス、または心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状のある方は、オンラインセラピーを検討してみるのも良いかもしれません。また、人間関係の問題、経済的問題、または自身の幸福の妨げとなる他の悩み事を抱えている方も、オンラインセラピーを検討すると良いでしょう。プライマリーケア医師や腫瘍科医が、他の資源や情報をあなたに教えてくれるかもしれません。他の医療チームメンバーがセラピー選択肢について相談に応じてくれたり、オンラインセラピーがあなたに合っているかどうかアドバイスをしてくれることもあるでしょう。

専門家によるメンタルヘルス支援を受けながら、心の健康を取り戻して、身体的な健康を改善する準備もできます。がんで人生が一変しても、あなたの人生の質まで下げる必要はないのです。

関連情報(英語):

詳細はこちら:Choosing Therapy:オンラインセラピー:仕組みは?費用は?どんな効果がありますか?

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)

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原文掲載日 

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