緩和ケアにより進行がん患者の医療利用が減少

ASCOの見解

公衆衛生における緩和ケアの重要な役割が強調される

「この研究は、緩和ケアが進行がん患者にもたらす利益と、腫瘍の標準治療と緩和ケアを同時に行うことの重要性について、さらに多くのエビデンスを提供します。また、他の研究でも、緩和ケアの早期導入によって、終末期のがん患者の集中治療の件数が減り、よりよい予後の改善がもたらされ、コスト削減につながることがわかっており、今回の研究はこうした他の研究の結果を補足します」。

新しい集団ベースの研究から、緩和ケアが進行がんのメディケア受給者の医療利用を大幅に減少させ、その結果、終末期に集中治療を受ける患者数が減少したことが明らかになった。つまり、終末期の入院率が低下したり、侵襲的な手技の件数や化学療法施行件数が減少したり、ホスピスへの登録率や入院率が上昇した。この研究は、本日、Journal of Oncology Practice (JOP)誌に公表された。

緩和ケアは、患者のがんの症状や治療の副作用を予防、管理、緩和するだけでなく、家族、友人、介護者とともに患者に包括的なサポートを提供することに重点を置く。緩和ケアの利用は米国の医療システム全体で増加しており、特にがんの分野において増えている。緩和ケアプログラムがある病院の割合は、2000年には4分の1にも満たなかったのに対し、2011年には3分の2を超えるまでに増加した。

これまでの研究では、ケアの満足度、生活の質の向上、さらには生存期間の延長など、緩和ケアを受けた人にとって多くの利点があることが示されている。これまでの研究は終末期の集中治療利用の低下を明らかにしてきたが、この研究は、米国で初めて、集団ベースで緩和ケアと終末期ケアの関連性を明らかにした。緩和ケアは、治療の前後でも治療中でも受けることができる。しかし、 診断後なるべく早期に緩和ケアを導入すれば、患者は治療の予後と目標をよりよく理解し、期待をコントロールし、生活の質を維持するのに役立つ。

「現実世界の環境で研究を検証することは非常に重要です」と、論文主執筆者のカリフォルニア大学サンディエゴ校のJames Murphy医師は述べた。「この研究は、典型的で多様な患者コホートで、日常的な実臨床の環境で実際に行われるような緩和ケアの利益を明らかにしました」。

この試験について

この後ろ向きマッチドコホート研究は、終末期の前立腺、乳、肺、大腸の進行がん患者6,580人について、緩和ケア相談の前と後の医療利用をマッチングした非緩和ケアコホートと比較することによって、緩和ケアが医療利用に及ぼす効果を調べた。この研究には、2000~2009年の間に進行がんと診断された65歳を超える患者が参加した。

この研究は、国立がん研究所の監視疫学遠隔成績(SEER)-メディケアデータベースのメディケア受益者を対象とした。この研究には、米国の人口の28%に相当する地域のがん登録患者が含まれた。

医療利用を評価する評価項目は以下のとおりである。

緊急治療室の受診:

入院

集中治療室への入院

ホスピスの利用

化学療法の使用

肺または肝生検

心肺蘇生

主な知見

緩和ケアを受けている患者は、緩和ケア相談前の医療利用率は高かったが、緩和ケア相談後の利用率は緩和ケアを受けなかった患者群と比較して低かった。

特に、緩和ケア群では:

・化学療法を受ける可能性が54%低く、

・新しい化学療法による治療を開始する可能性が35%低く、

・ホスピスケアに登録する可能性が24%高かった。

さらに、緩和ケア群の方がホスピスケアを受ける平均期間が長かった(25.5 vs. 21.3日間)。

さらに、疾病経過の早期に緩和ケアを紹介された患者は、終末期近くに紹介された患者と比較して医療利用の絶対的な減少が大きかった。しかし、多くの患者において、緩和ケア受診のタイミングは比較的遅く、紹介から死亡までの期間の中央値は12日間であった。

次のステップ

緩和ケアに関するASCOガイドラインは、入院および外来の進行がん患者はいずれも、疾患経過の早期に積極的な治療と献身的な緩和ケアサービスを同時に受けることを推奨している。

「高齢の進行がん患者が増加していることを考えると、この研究は、腫瘍学における緩和ケアの早期からの統合の必要性について、重要な意味合いを明らかにしています」と、Murphy医師は語る。「なるべく早期に相談することは、実臨床の改善のために重要です」。

この研究のデータには、相談内容や情報提供元についての詳細な情報は含まれなかった。緩和ケアチームは、医師、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、スピリチュアル・カウンセラーなどの多職種メンバーで構成されることが多い。緩和ケアのこうした特殊な側面についての研究がさらに進めば、患者の医療利用行動を決定する要因を明らかにする手助けとなるかもしれない。

この記事は、Journal of Oncology Practice on Palliative Care誌に掲載予定の特別シリーズの一部である。

この研究論文の全要約ははこちらRead

Cancer.Net読者のための参考

Journal of Oncology Practice誌は腫瘍学専門家のための臨床及び行政マネジメントについての権威ある査読付き月刊誌である。このジャーナルは、がん患者を治療する医師を代表する世界トップレベルの専門家団体、米国臨床腫瘍学会(ASCO)が発行している。

すべての報道において、Journal of Oncology Practice誌への帰属をお願いする。

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 小杉和博(緩和医療科/国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院)

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