「例外的奏効症例」研究から、がん治療の手がかりとその可能性をつかむ

研究者らは、治療に例外的に奏効したがん患者を総合的に解析し、例外的奏効症例(エクセプショナル・レスポンダー)の腫瘍の分子変化を同定した。この試験結果によって示されたことは、がんゲノム解析により、予想外で長期にわたり治療の奏効をもたらす可能性のある遺伝的変異が明らかになったことであると、研究者らは述べた。

この結果は11月19日付のCancer Cell誌に掲載された。なおこの試験は、国立衛生研究所(NIH)の一機関である国立がん研究所(NCI)の研究者らが、NCI指定がんセンター(NCI-designated Cancer Centers)など他機関の研究者らと共同で実施した。

「この試験の参加者の大半は通常治療が困難とされる転移性がん患者でしたが、その一部の患者の奏効持続期間は何年にも及びました」本試験の共同研究者であるNCIのがんゲノムセンター(Center for Cancer Genomics)のセンター長であるLouis Staudt医学博士は述べた。「これらの患者の治療をする研究者や医師は、治療が例外的に奏効する原因となる機序について以前から気に掛けていました。今私たちは最新のゲノム解析ツールを用いて、この興味深い謎の解明を始められます」と、同氏は述べた。

「臨床研究者として私たちは患者から多くのことを学び、患者は私たちに多くのことを教えてくれます」と、この試験を共同で主導したNCIのがん治療・診断部門のPercy Ivy医師は述べた。「例外的に奏効した患者の研究から知識を得ることで、私たちは今後患者をケアする方法を学べ、高精度ながん治療の目標にさらに近づけるでしょう」と同氏は続けた。

この後ろ向き研究には、化学療法など標準治療を受けたさまざまなタイプのがん患者111人の詳しい病歴とがんの検体が用いられた。なお、本研究は現在募集を終了している。これらの患者は、2014年に発足した国家プロジェクトであるNCIのエクセプショナル・レスポンダー・プロジェクト(Exceptional Responders Initiative、例外的奏効症例)により同定された。このプロジェクトは、がんにおいて例外的に奏効する生物学的基礎の理解を深めるのに必要なデータと生物試料の収集、解析が可能かを調査することを目的とされた。

患者111人中26人(23.4%)に対して研究者らは、治療に対して例外的な奏効とされた分子的特徴を同定することができた。分子的特徴には、がんゲノム中での複数のまれな遺伝的変異の同時発生や、ある種の免疫細胞による腫瘍への浸潤などがある。

この試験では、同じ症状の患者では有効性が10%未満であった治療に対して、部分奏効または完全奏効が認められた患者を例外的奏効症例と定義した。また例外的な奏効の持続期間は、奏効期間の中央値の3倍以上長い。

試験に参加した患者のがん組織(および入手可能な場合は正常な組織)を解析するために、研究者らは、遺伝子変異、RNA発現レベル、DNAコピー数異常、DNAメチル化の解析などの複数のゲノム解析アプローチを使用したほか、腫瘍微小環境における免疫細胞の解析も行った。

この試験で例外的な奏効の元となった機序は、DNA損傷を修復する能力や腫瘍への免疫反応など広範囲のカテゴリーにおよんでいる。他のカテゴリーとしては、合成致死として知られている概念で、治療中にがん細胞を死滅させる遺伝子変異のまれな組み合わせがある。

その一例として研究者らは、DNA修復を促すBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子における遺伝子変異がまれながんの患者2人においてこれらの遺伝子における突然変異を同定した。しかしこれらの患者における遺伝子変異が、腫瘍組織の損傷したDNAを修復する能力を障害していた可能性があり、それによりDNAを害するプラチナ製剤を用いた化学療法などの治療の有効性を高めていると研究者は示唆した。

「私たちの知見は、がん患者に有効な治療法を提案できる可能性のある遺伝的変化の検査の重要性を示しています」と、Staudt医師は述べた。「顕微鏡の観察では分からない腫瘍の情報が得られるような、腫瘍の分子診断への移行が必要です」と、同氏は述べた。

また本試験により、免疫系が「作動」して腫瘍を根絶させる能力を際立たせるような一連の証拠が増加している。また本試験の一部の患者において、腫瘍における免疫細胞の一種であるB細胞の増加が、例外的な奏効と関連があった。

研究者らによれば、この後ろ向き研究の解析で出された結果や仮説は、大規模試験でも確認する必要があるという。しかし確認されれば、この知見により、例外的に奏効した患者に見られたようながん細胞のもつ脆弱性を活用した治療法の開発が進む可能性があると、彼らは述べた。

例えば、DNA損傷薬であるテモゾロミド(販売名:テモダール)を投与された患者2人において、研究者らは、例外的に奏効するために同時に不活性化される必要がある2つのDNA修復経路を同定した。この知見はこれらのDNA修復機序を阻害する薬剤の開発を裏付けるものであり、がん患者のテモゾロミドへの反応を広く改善する可能性がある。

「この概念実証研究は、例外的に奏効した症例からできるだけ多くのことを学ぶために腫瘍の解析が単に可能なのではなく、なくてはならないことを立証しています」と、Ivy医師は述べた。「試験に参加しても直接得るものがないにもかかわらず、参加された多くの寛大な患者さんと全国の多くの協力者の方々に深く感謝申し上げます。皆さんがいなければこの研究は実現しなかったでしょう」と、同氏は続けた。

エクセプショナル・レスポンダー・プログラムが発足されて以来、研究者らは、医師からこのプログラムへの参加を勧められた患者500人超の病歴を再検討してきた。化学療法はがんの治療法の中でも最も広く用いられている治療法の一つであるが、このプログラムに登録された患者の大半は化学療法薬に対して例外的な奏効を示していた。

解析対象となった患者の大半については、がんの検体の特徴を明らかにするために複数のゲノム解析アプローチが必要とされた。DNAの変異にのみ焦点を当ててるだけでは、がんの奏効の生物学的基盤に関して必要とされる仮説を立てる手がかりは得られなかっただろう、と研究者らは述べた。

彼らは、例外的奏効の未解明症例における分子基盤を解明するためには、さらなる研究と追加の解析アプローチが必要であると指摘した。世界中の研究者にこの取り組みへの参加を促すため、NCIのチームとその同僚は、分子プロファイリングの結果と臨床情報をNCI Genomic Data Commonsで閲覧できるよう公開している。

《図解説》「がん治療に対する劇的、持続的奏効を目指し、患者の腫瘍分子変化がゲノム研究により解明されつつある。Credit: National Human Genome Research Institute」

翻訳担当者 原久美子

監修 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)

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