コロナウイルスとがんについてのよくある質問:患者とサバイバーのための回答
―翻訳でCOVID-19と戦う集団(大須賀覚、小坂泰二郎、上田美穂、田嶋洋平、滝西安隆、他)より提供―
2020年6月25日更新分翻訳(7月3日更新)
– リチャード・L・シルスキー、MD、FACP、FSCT、FASCO
親愛なる友よ
米国臨床腫瘍学会(ASCO)と全米がんサバイバーシップ連合(NCCS)は、コロナウイルス2019(COVID-19)が、がんと診断された人の健康とがんケアにどのような影響を与える可能性があるかについての情報を提供するために協力しています。以下は、ASCOチーフメディカルオフィサー兼副会長のRichard Schilsky博士からの、COVID-19に関するがんサバイバーからの臨床上のよくある質問への回答です。これらのFAQの作成に関連して、個人名は使用していません。NCCSは、COVID-19および患者擁護活動に関する一般的な質問に対する回答を、NCCSのウェブサイトであるcanceradvocacy.orgで提供する予定です。NCCSの使命は、がんに罹患したすべての人々のために質の高いがん医療を提唱することです。ASCOは、がんとともに生きる人々をケアする約45,000人のがん専門家を代表しています。
ASCOとNCCSは、個人的な医学的または法律的な質問には答えられませんし、個々の治療のアドバイスもできませんので、ご注意ください。この情報は教育のみを目的として提供されており、主治医や他の医療専門家との相談に代わるものではありません。個々のがん治療の決定については、主治医にご相談ください。この情報の使用はASCOの利用規約に従うものとします。
この情報があなたのお役に立てることを願っています。
誠意を込めてー
リチャード・シルスキー博士(チーフメディカルオフィサー、ASCO副会長)
シェリー・フルド・ナッソ(NCCS最高経営責任者)
*****
Q1: 「免疫低下状態」とはどういうことか、簡単に説明していただけますか?
「免疫低下状態」とは、健常成人と比べて免疫システムが、弱い、十分に機能していない、もしくは耐性が不十分と考えられる人のことを指しています。免疫系の主な役割は、感染症を撃退することです。免疫が低下している人は、COVID-19のようなウイルス感染症を含む感染症にかかるリスクが高くなります。免疫が低下している人には多くの理由があります:がん、糖尿病、心臓病などの基礎疾患、高齢、または喫煙などの生活習慣が、免疫低下の一因となります。がん患者さんの免疫低下のリスクは高くなることがあります。これはがんの種類、受けている治療の種類、健康状態、年齢に依存します。がんに対して積極的な治療を受けている患者さん、例えば化学療法中の方々は、免疫が低下するリスクが最も高くなります。免疫が低下しているかどうかを診断するための特別な検査はありませんが、白血球数の低下や血液中の抗体(免疫グロブリンとも呼ばれる)の数値が低いなどの所見は、免疫が低下している可能性を示唆しています。
Q2:がんの既往歴があると、COVID-19(SARS-CoV-2)による重症化のリスクは高くなりますか?
がん患者やがんの既往歴のある人は、COVID-19による重症化のリスクが高いと考えられます。このグループの人々はしばしば免疫機能の低下がみられるため、当然ともいえます。また、ある研究(Liang et al, Lancet Oncol, http://dx.doiorg/10.1016/S1470- 2045(20)30096-6)では、がんの既往歴のある患者は、そうではない患者と比較して、人工呼吸器を用いるような集中治療を必要とする重症例や、死亡を含む重度の症状の発生率が高いという報告もあります。しかし、これはあくまでも一研究であり、この研究ではがん患者の数が少なかったため(18人)、必ずしもすべてのがん患者にあてはまると断定することはできません。
Q3:過去に化学療法や放射線治療を受けたことがあると、COVID-19の発症および重症化のリスクは高くなりますか?
現状、どのがん治療にもCOVID-19の発症リスクを変えるかどうかについての科学的証拠(エビデンス)はありません。しかし、がん患者さんがCOVID-19に感染した場合、より重症化しやすくなることを示唆するエビデンスはいくつか報告されています。つまり、がんであることやがんの治療をしていることが感染と戦うのに必要な能力を失わせる、すなわち免疫力の低下に関与すると考えられるからです。がん治療を受けている患者さんは、一般人よりも医療機関に滞在する機会が増え、結果として曝露する機会がより多く、感染症にかかるリスクが高くなることは想定されますが、現時点では確実なことはわかっていません。がん患者さんは不要な来院は極力避けて頂き、用件が不急の場合は延期、再スケジュール、また電話やテレビ会議の利用により診療が可能かどうかを主治医もしくは看護師と相談することを推奨します。しかしCOVID-19への感染リスクを懸念してがんの治療を中断することは難しい判断ですので、患者さんご自身で判断するのではなく、主治医(腫瘍内科)とご相談ください。
Q4:がんサバイバーは、CDCが発表した一般公衆衛生上の推奨事項に従うべきですか?
もちろんです。米国疾病対策予防センター(CDC)が発表した一般公衆衛生上の推奨事項は、平常時においても優れた内容ですが、COVID-19の発生のような時期には特にそうです。社会的な距離を保つようなこと、頻繁かつ適切な手洗い、大きな人ごみを避け、表面を清潔に保ち消毒し、あなたの手が完全に洗浄されていないときに顔に触れないようにすることは、すべての人にとって良い戦略です。免疫が低下している可能性があるがん患者やがんサバイバーにとってはさらに重要です。CDC は現状を掌握しており、提示されているアドバイスに従っている場合は、病気ではないときのフェイスマスク、または他の装置を着用するような追加の措置が必要であることの特別な理由はありません。CDCのガイダンスはこちらのウェブサイトに掲載されています。
Q5: TKIs(チロシンキナーゼ阻害剤)などの経口がん治療を受けている患者さんへのアドバイスはありますか?
がんは治療が必要な深刻な状態です。治療の種類にかかわらず、がん治療の内容変更が必要かどうかについては、治療している医療者と相談することが最善の方法です。COVID-19感染の症状や徴候がない場合は、がん治療を継続することが最善の行動であるかと考えられます。
Q6:乳がんや卵巣がんなどに対して内分泌療法を受けている人は、COVID-19に感染する危険が高かったり、重症化するリスクが高いのでしょうか?
内分泌療法がCOVID-19の感染リスクや重症化リスクを高めることを示す具体的な科学的証拠(エビデンス)はありません。ほとんどの内分泌療法は免疫系を抑制するものではありません。
Q7:がん患者やがんサバイバーが発熱や咳などの初期症状を感じた場合、担当の腫瘍内科医やプライマリーケア医(主治医)に連絡すべきでしょうか?
がん治療中であれば、患者さんは治療担当の腫瘍内科医に電話で連絡し、必要な指示を受けるべきです。現在はがん治療を行なっていない場合は、がんサバイバーはかかりつけ医に電話で連絡し、必要な指示を受けて下さい。
Q8:がん治療を始めようとしている人は、COVID-19のために治療の延期を考えるべきでしょうか?
COVID-19への感染の可能性を避けるために、がん治療を延期するといった重要な決断をするためには、考慮すべき要素がたくさんあります。治療を延期することのリスクと、感染リスクを減少させる利点について、患者さんは担当の専門医(腫瘍内科医)と十分に相談すべきです。話し合うべき内容には、がん治療の目標、計画されている治療でがんがコントロールされる可能性、がん治療の強度と副作用、治療の副作用を軽減するための支持療法などがあります。
Q9:中心静脈カテーテル/ポートを持っています。定期的にフラッシングするにはどうしたらいいですか?
最大で12週間ごとの間隔でフラッシングを行っても、有害事象や障害の増加は見られないというエビデンスがあります。あなたに適したフラッシングのスケジュールについては、がんの治療チームに相談し、必要になった場合に自分でポートをフラッシングできるかどうかも尋ねてください。
Q10:私はがんサバイバーで、再発の可能性を検出するために定期的にスキャン/画像診断/検査を受けています。この検査を受け続ける必要がありますか?
一般的に、CDCが推奨しているように、延期しても危険性がない病院の受診は延期すべきです。これには、がん再発を検出するための定期受診も含まれます。多くの場合、これらの検査の推奨頻度はある程度の幅がある(例えば3~6ヵ月)と考えられているため、検査の間隔を延長しても推奨の範囲内である可能性があります。もし、がんの再発を示唆するような新しい症状が現れた場合は、次の予定されている受診を待たずに、担当のケアチームに連絡してください。
Q11:COVID19と闘うために他にできることはありますか?
あなたができる最も重要なことは、Q4で述べたように、CDCやあなたの州や地方の保健局が提供する公衆衛生ガイダンスに従うことです。
もう一つの方法は、Beat19研究やスタンフォード大学の研究のような研究に参加することを検討することです。これらの研究は、ほぼ誰でも参加することができ、COVID-19の症状が出る前、出ている間、出た後に何が起こるのかについて研究しています。
Q12: 一般的な健康や免疫システムを改善するために、自分でできることは何かありますか?
あなたの治療チームの勧めることと、健康的な生活のために一般的に推奨されることに従うべきです。タバコを吸わないこと、果物や野菜を豊富に含むバランスのとれた食事をとること、定期的に運動すること、十分な睡眠をとること、社会的距離と手洗いに関する公衆衛生ガイドラインに従うことなどです。
Q13: もし、私の治療が遅れたり、何らかの理由で、医療機関を変更しなければならなくなった場合、私の治療記録に関して考慮しないといけないことはありますか?
医療機関を変更する必要がある場合は、新しい医療機関への治療歴のコピーまたは転送を手配してください。可能な限り完全な治療歴を転送することが望ましいのですが、特に重要なのは、がんの診断を確定した病理組織の報告書、がん治療として行われた手術や放射線治療の報告、投与された化学療法の概要、最近の検査、X線検査、その他のがんの記録です。
Q14:がんの診断・病期診断をしている最中です。どうすればよいでしょうか?
医療サービスの利用に関する現状や患者さんの安全のためには、がんの広がりの程度(病期)を確認するために慣習的に行われている手順や検査を一部省略することが必要な場合があります。患者は初期治療計画を立てる上で、どのような診断検査や病期分類検査が最も有益であるかを担当の腫瘍医に相談し、可能であれば優先的にそれらの検査を受けるべきです。
Q15:診断や勧められた治療法についてセカンドオピニオンを受けたいのですが、今はセカンドオピニオンができません。どうしたらいいですか?
セカンドオピニオンをお受けになることをお勧めしますが、現時点ではスケジュールを組むことが難しい場合もあると認識しています。もし、電話やオンライン相談でセカンドオピニオンが得られるのであれば、セカンドオピニオンを全く受けないよりは、それが妥当な代替手段であると考えるべきです。
Q16: 私はがんだけでなく、いくつかの合併症を持っています。私はCOVID-19のリスクが高いのでしょうか? これらの併存疾患が薬物療法でコントロールされているかどうかは重要でしょうか?
高血圧、心血管疾患、肺疾患、慢性腎臓病、肥満、糖尿病などの併存疾患を持つ患者さんは、COVID-19による重篤な合併症のリスクが特に高いようです。ほとんどの報告では、COVID-19の発症時にこれらの合併症が薬物療法やライフスタイルの変化によってどの程度コントロールされていたかは明記されていません。しかし、薬物療法によって十分にコントロールされている併存疾患は、COVID-19による重篤な合併症を発症する可能性が低いと考えるのが妥当です。
Q17:喫煙(電子タバコ)はCOVID-19のリスクを増加させますか?
ASCOは、現在または過去の電子タバコ使用とCOVID-19のリスクや、COVID-19合併症のリスクに関連する具体的なデータを確認していません。しかし、喫煙、電子タバコ、または肺障害を引き起こす他の行動や曝露がCOVID-19による合併症のリスクを高める可能性があると仮定するのが妥当です。
Q18: ほとんどの人にCOVID-19による長期的な影響があるのでしょうか?
COVID-19による長期的な影響がどのようなものになるかを言うのは早計です。しかし、神経学的合併症、腎不全、心臓発作や心不全、血栓を含む複数の臓器系の合併症を発症する患者さんがいることはすでに明らかです。これらの重篤な合併症は長期的な影響をもたらす可能性がありますが、長期的な影響を理解するためには、患者さんの長期的な追跡調査が必要です。
Q19: COVID-19に感染した人や免疫のある人の抗体検査についてはどうお考えですか?
抗体検査は最近利用できるようになったばかりです。これは、SARS-COV-2ウイルスに感染しているかどうかを調べるものです。抗体検査が陽性だからといって、その人が新型コロナウイルスに対する何らかの免疫を持っていることを意味するかどうかを判断するのは早計です。
Q20:COVID-19は肺瘢痕ができると言われていますが、他にも肺瘢痕ができる病気はありますか?肺の瘢痕ができる病気は他にもあるのでしょうか?また、将来的に肺がんになる可能性は高くなるのでしょうか?
多くの急性および慢性の肺感染症は、喫煙、粉塵やアスベストへの職業的曝露、自己免疫疾患などによる慢性の肺の炎症と同様に、瘢痕化を引き起こす可能性があります。瘢痕化が肺がんのリスクを高めるかどうかは、瘢痕化そのものよりも、瘢痕化の根本的な原因(例えば、喫煙やアスベストへの暴露)に関連している可能性が高いです。
Q21:COVID陽性の患者に対して、化学療法を再開する前に再検査を行う場合の推奨事項は何ですか?
感染が治まってから、がん治療を開始または再開するまでにどのくらいの期間の猶予が必要なのかは不明です。COVID-19の症状が消失し、ウイルスがもはや存在しないことがある程度確実になり、具体的にはSARS-Cov-2検査が陰性になるまでは、治療を再開すべきではありません。もし、がんが急速に進行しており、リスク・ベネフィット評価ががん治療を進めることに有利である場合は異なります。
NCCSは、COVID-19および患者さんの擁護に関する一般的な質問に対する回答を、そのウェブサイトであるcanceradvocacy.orgで提供する予定です。
翻訳担当者 翻訳でCOVID-19と戦う集団(大須賀覚、小坂泰二郎、上田美穂、田嶋洋平、滝西安隆、他)
監修 大須賀 覚(アラバマ大学バーミンガム校 脳神経外科)、小坂 泰二郎(HITO病院 乳腺外科)
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
がん医療に関連する記事
早期承認薬、5年後の確認試験で臨床効果を示したのは半数未満
2024年4月19日
抗がん剤不足の危機的状況をASCO副会長が議会で証言
2024年2月27日
米国がん免疫療法学会 2023(皮膚、大腸、肺がん他):MDA研究ハイライト
2023年11月30日
アブストラクト:153...
MDアンダーソン研究ハイライト:ASTRO2023特集
2023年11月6日