動画による教育が、患者のがん臨床試験参加への準備に有用

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~

原文掲載日 :2016年1月28日

がん治療医との初回面談前に、がん患者が臨床試験に関する教育を受けることで臨床試験参加についての意思決定能力が向上することが、新たな研究で明らかになった。

本研究に参加し、個別の状況にあわせた動画を活用した教育プログラムに参加した患者は、文書による啓発資料を読んだ受け取った患者に比べ、臨床試験をより深く理解し、ランダム化や副作用といった問題についての懸念が少なかったと、本研究の著者らは報告した。全体としては、患者が使った資料の形式にかかわらず、本試験の参加者のうち最終的に臨床試験に登録した患者数は、臨床現場で一般的に見られる登録数よりはるかに多かった。

本研究の知見は、Journal of Clinical Oncology誌の2015年12月23日号で報告された。

現在、がん治療の臨床試験に参加している成人患者は5%未満と推計されている。患者が臨床試験への参加を躊躇する二つの主要要因は、臨床試験に関する知識が不十分なことと、臨床試験に対する「否定的な姿勢」だと、主任研究者で、オハイオ州クリーブランドのCase総合がんセンターのNeal J. Meropol医師は説明する。知識レベルの差は、臨床試験とは何かを理解していないという段階から、インフォームド・コンセントが義務付けられていることを知らないといったことまでさまざまである。

また否定的な姿勢も、ランダム化や副作用、治療の質や、プラセボに対する懸念など多岐にわたっている。

こうした障壁への対応策として、研究者らはオタワ意思決定ガイドと、認知・社会医療情報プロセスガイドという二つの明確な意思決定支援の枠組みを統合し、がん患者が臨床試験に参加するかどうかを決める際に役立つよう、オンラインの動画を使った教育プログラムを開発した。試験への参加にかかわる意思決定は、最終的に患者個人の意向と目標に基づくものであり、そのための準備が良い決断をするために重要な要素だという考え方を基本前提にしたと、研究者は説明した。

Preparatory Education About Clinical Trials(PRE-ACT)(臨床試験のための予備教育)と呼ばれる臨床試験の準備教育プログラムの有効性を検証するため、研究者らはがん治療医と初回面談をする前の1,255人のがん患者を対象に、ランダム化臨床試験を行った。患者は動画を使った教育プログラムを利用する群(PRE-ACT群)か、米国国立がん研究所(NCI)が開発した臨床試験に関する啓発目的の一般的な説明文書を利用する群(対照群)に、ランダムに割り付けられた。

本研究に参加した患者には、がん治療医との初回面談の前に、臨床試験に関する知識と受け止め方、および患者本人の目標と価値観についての調査を行った。例えば患者には、生活の質と生存期間のどちらがより大切か、そして、治療についてどのように決定したいか(「医師に治療法を決めてほしいですか、それとも自分も治療法の決定プロセスに参加したいですか?」)などを調べた。

この基礎調査への回答をもとに、研究者らはPRE-ACT(動画)群の患者に対し、それぞれの患者が不安に感じることや、臨床試験について足りない知識を補うよう的をしぼった30秒から90秒の動画を提供した。動画は患者の権利擁護団体やがんに関するコミュニケーションの専門家からの意見をふまえて注意深く作られた。

研究者によれば、本試験に参加した患者は、両群ともに臨床試験に対する知識が深まり、前向きな姿勢となり、臨床試験への参加について意思決定する上で、よりよい準備ができた。臨床試験に関する知識や受け止め方を改善する上で、PRE-ACT動画は文書よりも有効だった。

臨床試験参加者の増加については、本試験に参加したそれぞれの群の患者のうち、21%が啓発動画あるいは文書を見てから6カ月以内に、臨床試験に登録した。これは非常に高い率だとMeropol医師は言う。

「これらの試験結果は、がん治療医との初回面談前の準備学習が、臨床試験への参加率をあげる可能性を示唆しています」と、同医師は話した。

「PRE-ACT研究は、臨床試験への登録を躊躇させる患者個々人の心理社会的障壁に対応した介入が、こうした障壁を取り除く上でにいかに有効かを示した驚くべき例です」と、NCIのがん治療・診断部門(Division of Cancer Treatment and Diagnosis)のKim Witherspoon氏は述べる。「本研究で研究者が動画介入の手法を開発するにあたり、患者支援団体やがん患者といった特定集団に啓発教材を試してもらった点は素晴らしいと思います。こうした団体の意見は、まさに対象となる患者達の声であり、一般的に知られていない見識もあり、非常に重要です」

予期していなかった知見としては、臨床試験への参加に伴う費用について説明する動画により、逆に患者の懸念が深まってしまったことだとMeropol医師は話した。

「費用は保険適用になる保証はないという情報だったためだと思う」と、Meropol医師は話した。「臨床試験に関する現段階での費用支払いについての事実を患者に伝えたが、患者が安心感を得る内容からは程遠かった」

しかしながら、医療費負担適正化法(ACA)にもとづき、臨床試験に参加する患者の日常的な診療は、保険適用とすることが医療保険会社に義務付けられるようになった。研究者はそれ以後、ACAで定められた患者保護策を反映するよう動画の説明を変更した。

NCIの支援で開発されたPRE-ACT動画は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のウェブサイトから無料で入手することができる。研究者らは現在、がん専門の看護師が臨床試験について患者と話す能力を高められるような研修プログラムを開発中である。

「看護師は最も信頼される医療従事者であり、患者に接する時間も医師より長い。看護師に、臨床試験の機会について患者と話せるような力をつけてもらうことで、患者の試験参加率が高まる可能性もある」と、Meropol医師は説明した。

Clinical Trials Information for Patients and Caregivers

写真説明=========
臨床試験の予備教育プログラム (PRE-ACT) には、個々の患者が不安を持つ問題や不足している知識への対応に的を絞った動画が含まれている。出典:ASCO

原文

翻訳担当者 片瀬 ケイ

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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