山中伸弥氏が2012年ノーベル医学生理学賞を受賞
2012/10/08
報道事務局: (415) 502-6397
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の関連施設、グラッドストーン研究所の上級研究員である山中伸弥医師が、通常の大人の皮膚細胞を、胚性幹細胞(ES細胞)のように人体のどの細胞に対しても分化誘導が可能な細胞に変化させる方法を発見したことにより2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
山中医師の受賞は、イギリス、ケンブリッジ大学ガードン研究所のJohn.B.Gurdonとの共同受賞である。
この賞は、科学者の「成熟細胞がリプログラムにより多能性を持つことが可能になることを発見」に対して授与された。
山中医師は、サンフランシスコおよび京都の両方で活動しており、京都大学のiPS細胞研究応用センター(CiRA)の所長および細胞統合システム拠点(iCeMS)の主任研究員である。以前には整形外科医をしており、グラッドストーン研究所で1990年代にバイオメディカルの研究訓練を受け、その後2007年にサンフランシスコに戻りグラッドストーン研究所の上級研究員およびUCSFの解剖学教授として活躍している。
UCSFノーベル賞受賞者
山中伸弥氏は、UCSFでノーベル生理学・医学賞を受賞した5人目の科学者である。他のUCSFの受章者は以下のとおり。
エリザベス・H・ブラックバーン(Elizabeth H. Blackburn)医学博士:2009年ノーベル生理学・医学賞。テロメラーゼと呼ばれる、通常の細胞機能および細胞の老化そしてほぼ全ての癌において鍵となる役割を果たす酵素を発見したことにより、他2名の科学者とともに受賞した。
スタンレー・B・プルシナー(Stanley B. Prusiner)医師:1997年ノーベル生理学・医学賞。同博士がプリオンと名づけた新規の病原性物質発見により受賞した。プリオンは、人間のクロイツフェルト・ヤコブ病、牛における狂牛病といった、神経変性を起こすまれな疾病を生じさせる。
J・マイケル・ビショップ(J. Michael Bishop)医師、およびハロルド・ヴァーマス(Harold Varmus) 医師:1989年ノーベル生理学・医学賞。正常細胞の遺伝子が癌遺伝子に変換されるということを示す癌原遺伝子の発見により共同受賞した。この業績により、全ての癌はおそらく正常遺伝子が傷つくことにより発生することが認識され、癌発見および治療への新しい戦略が提供された。
「山中医師の受賞は、創造力に富んだ天才がこれと決めた目標に一途に取り組み、異なる分野の科学の融合に成功したスリリングな出来事だ。」と、独立した有数の生物医学研究組織であるグラッドストーン研究所長のR・サンダース・ウィリアムズ(R. Sanders Williams)医師は言っている。「これらの足跡は、山中医師がグラッドストーン研究所で博士課程修了後の訓練中から培われたものであり、サンフランシスコ湾岸地域を幹細胞研究の最先端へと押しすすめるきっかけとなった。カリフォルニア再生医療機構(California Institute for Regenerative Medicine,CIRM)やロッデンベリー財団(Roddenberry Foundation)などの組織から支援を受けている。多くの研究所も、山中医師の技術を採用している。世界中の何百という研究者は共に、『ヤマナカ因子』および関連技術を利用することによって、グラッドストーン研究所が探求中のものも含め、過酷な疾病の原因究明に役立てている。」
胚性幹細胞として皮膚細胞を使用する
6年前、山中氏はマウスの大人の皮膚細胞にわずか4種類の遺伝子を加えることによって、その細胞を同様のものへ誘導できることを発見した。彼はこれらを人工多能性幹細胞あるいはiPS細胞と名づけた。2007年に、山中氏は同様の発見を人間の大人の皮膚細胞で行ったと発表した。
どんなタイプの細胞にも分化することができることから「多能性」である胚性幹細胞(ES細胞)は、損傷を受けた臓器や組織を交換あるいは修理する再生医療において、計り知れない可能性を秘めている。科学分野の多くの者たちは、将来は幹細胞の利用が糖尿病、盲目やパーキンソン病など数多くの疾患を治療および根絶する鍵となるだろうと認識している。
しかし、胚性幹細胞の利用は長年のあいだ賛否両論であった。その意味でも山中氏の発見は、胚を利用しない別の形で人間の幹細胞を獲得できるという点において、さらに重要なものである。
「今日は、山中医師、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、グラッドストーン研究所、京都大学そして世界にとって素晴らしい日だ。」とUCSFのスーザン・デズモンド・ヘルマン(Susan Desmond-Hellmann)学長は述べている。「山中医師の業績は、人間の細胞および分子生物学に対する我々の認識を変え、そしてこの知識により、現在まだ治療不能である病気の治療を目指した応用が可能だという、基礎研究の可能性を実証した。」
議論の的であった胚性幹細胞の使用を回避できるだけでなく、iPS細胞の技術は人間の病気の研究および治療を進化させる意味でも、本質的に全く新しい場を提供することになる。病気の研究においてイースト、ハエやマウスといったこれまでのモデルを使用するのではなく、iPS技術を用いると、ある特定の疾病を持つ患者からその人間の幹細胞を作り出すことが可能になる。その結果、それらの細胞は、その病気を引き起こした完全な一連の遺伝子を含むため、病気の研究および新薬や治療法の試験において、はるかに優れた人間のモデルとなる可能性を持っている。将来的に、iPS細胞はペトリ皿の中で新薬の安全性や患者個人に対しての安全性や有効性を検査できるようになるかもしれない。
当初の懐疑主義を乗り越え、iPS細胞は進みはじめた
当初、山中氏の技術のシンプルさは懐疑的な反応で迎えられた。しかし、山下氏は自分のデータや研究のDNAを広く公開し、同様の新しい細胞の研究をしている他の研究者たちにも利用できるようにした。2006年の飛躍的発見の数ヶ月後には、世界中の他の科学者たちが、この幹細胞を生成し研究する新しいアプローチを採用し再利用しはじめていた。
「山中氏の発見の衝撃は計り知れない。」とグラッドストーン研究所で幹細胞および心血管研究を牽引しているディーパク・スリヴァスタヴァ(Deepak Srivastava)医師は述べている。「氏の研究は、人間の大人の細胞が以前考えられていたよりも変容性においてもっと大きな能力を持っていたことを示している。さらに、どのような細胞のタイプにでも変容できる可能性も示している。」
この衝撃は、グラッドストーン研究所でも見られ、ロッデンベリー財団の寄贈によって同研究所内に昨年10月に設置されたロッデンベリー幹細胞生化学および医学センター(Roddenberry Center for Stem Cell Biology and Medicine)では、京都大学のCIRAとiPS技術で人間の健康改善のため患者の治療をする共同研究が始まっている。
過去6カ月の間にグラッドストーン研究所が公開した科学的結果は、この共同研究の価値を強調している。例えば4月には、スリヴァスタヴァ医師は彼の研究所が心臓の結合組織である心臓繊維芽細胞を、拍動している動物の心筋細胞に直接リプログラムしたと発表した。
6月には、グラッドストーン研究者のスティーブ・フィンクバイナー(Steve Finkbeiner)医師がハンチントン病のヒトモデルを、同病を患う患者の皮膚細胞から生成したと発表した。6月のはじめには、グラッドストーンの研究者であるヤドン・フアン(Yadong Huang)医師が1つの遺伝子を利用することで、皮膚細胞が自らの脳において相互作用する、機能的ネットワークを持つ細胞へ成長することを発表した。この2つの発表は、アルツハイマー病やハンチントン病など中枢神経変性の疾患と闘う上で、新しい希望を提供している。
7月には、グラッドストーン内の山中医師の研究室では、iPS細胞の成長に大きく影響を与える環境因子を発見した。これは、それらの細胞がどのように形成されるか理解する新発見である。これらの結果は、iPS細胞がどのように成長して成熟するかを今後研究するのにおいて、不可欠である。これら全ての研究の結果は、世界でもっとも消耗性である疾患の治療法を発見するために、山中氏の発見がどれだけ大きな意味を持つか示している。
「この受賞のもっとも素晴らしいところは、今後は世界の科学者が研究している幹細胞研究の重要性が大きく注目を浴び、あるいはさらに発展するだろうということです。」と山中氏は述べている。山中氏はまた、グラッドストーン研究所のL.K.ホワイティアー財団(L.K. Whittier Foundation Investigator)の幹細胞生物学研究者でもある。「このiPS技術は患者のためのものです。より多くの科学者がこの技術に基づいて邁進すれば、より早くこれら致死的な慢性疾患の患者を救うことができる。」
今日までノーベル賞の発表までにも、山中氏はそのiPS発見の重要性に対し、他にも多くの栄誉を受賞している。それはアルバート・ラスカール・基礎医療研究賞(Albert Lasker Basic Medical Research Award)、ウルフ医学賞(Wolf Prize in Medicine)、そしてショー賞(Shaw Prize)および京都先進技術賞(Kyoto Prize for Advanced Technology)などがある。2011年に、山下氏は米国国立科学アカデミー(U.S. National Academy of Sciences)のメンバーに選出されており、これはアメリカの科学者およびエンジニアにとって最高の栄誉である賞のひとつである。6月には、世界で最大かつもっとも著名な技術賞ミレニアム技術賞グランプリ(Millennium Technology Award Grand Prize)をLinusソフトウェアの創造者であるライナス・トルヴァルド(Linus Torvalds)とともに、山下氏は受賞している。
山中氏はグラッドストーン研究所で10月24日および25日に開かれるISSCR-Roddenberry International Symposium on Cellular Reprogrammingにてスピーチを行う予定である。
グラッドストーン研究所について
グラッドストーン研究所は、心筋血管およびウイルス、そして中枢神経の病気の治療および予防のための科学的発見および革新のスピードアップに取り組む、独立した非営利の生物医学研究組織である。
このニュースリリースは、ウェブサイト用に改変されています。
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中島美香 訳
朝井鈴佳(獣医学・免疫学) 監修
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原文
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