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2009/06/02号◆スポットライト「癌の個別化治療を日常治療に」

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2009/06/02号◆スポットライト「癌の個別化治療を日常治療に」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年06月02日号(Volume 6 / Number 11)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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スポットライト 癌の個別化治療を日常治療に

昨秋5病院の癌専門医と病理専門医らの小規模のグループが集まり、癌治療の個別化の基本についての議論が行われた。「病院はルーチン(日常的)に腫瘍の遺伝学的分子情報を用いた最も適切な薬剤を価格および時宜に応じて患者にあてがうことができるか?」という1つの大きな問題に関する実際的な課題を検討した。

この問題に対する回答はこの先も得られないかもしれない。しかし、何が有効で何が有効でないかについての教訓はすぐにでも得られる可能性がある。マサチューセッツ総合病院とスローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)は、特定の治療が有望か、あるいは避けるべきかを明らかにする可能性のある遺伝子変化について、全ての肺腫瘍を対象にスクリーニングを開始している。

「腫瘍のプロファイリング(特性分析)が将来ますます臨床診療と一体化するとわれわれは信じており、それが予想以上に早く実現することを望みます」と、マサチューセッツ総合病院の癌専門医で腫瘍のプロファイリングを行っている新分子病理研究部門の共同責任者であるDr. Leif Ellisen氏は述べた。「ほとんどの医療機関は、これが対象指向療法の観点で進められている腫瘍学分野であることを認識しています。」

さらに、腫瘍のプロファイリングに対する関心は昨秋会合を開いた病院(他にダナファーバー癌研究所、テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター、バンダービルト大学医療センター)の外まで広がっていると指摘した。事実、癌治療の個別化は今週オーランドで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のテーマである。

しかし現段階では実現にはいくつかの重要な制限がある。まず第一に、癌に存在する分子変化のごく一部しか同定されておらず、それらの変化を標的とするさらに多くの薬剤を必要とすることである。MSKCCの調査では、約半数の肺腫瘍しかその疾患に関連する既知の遺伝子変異を有していない。

肺癌:テストケース

肺癌は基本的に同じと考えられ患者は同じ治療を受けていた10年前に比べ、制限があるとはいえ、現在の肺癌の理解は大きく異なっている。今日一部の腫瘍は細胞内で癌促進シグナルを活性化する遺伝子変異に由来することが明らかで、一部の症例ではこのシグナルを阻害する薬剤が使用可能である。

「われわれは、患者の肺癌の診断だけでなく腫瘍の分子的分類の判定も必要とされる段階に近づいています」と、マサチューセッツ総合病院がんセンターで肺癌患者の治療にあたるDr. Lecia Sequist氏は述べた。

例えば、EGFR遺伝子に変異があると腫瘍がゲフィチニブ(イレッサ)やエルロチニブ(タルセバ)に反応する傾向がある。これらは腫瘍の重要なシグナルを阻害する1日1回服用の錠剤で、一般に化学療法より副作用が少ない。米国では変異を有する肺癌は30%未満であるが、このような肺癌では薬剤に反応する可能性が70%ある。

マサチューセッツ総合病院では、さまざまな癌で変化しているEGFRを含む13の遺伝子の特性を検査している。病理専門医Dr. John Iafrate氏が率いるチームは、標準的な腫瘍検体からDNAを自動抽出し、癌に関連する120の変化を検出する方法を開発した。病理研究部門では1週間に約20の肺腫瘍を検査しているが、全癌患者を対象として徐々に拡大させる計画であり、この数は増加するであろう。

検査を単一の癌に集中させるのではなく拡大することにより、ある種の腫瘍では稀な変異であっても、それに対する治療法が既に存在する変異を検出したいと研究者らは考えている。例えば一部の肺腫瘍はHER2遺伝子に変化があり、これらの腫瘍は乳癌治療薬のトラスツズマブ(ハーセプチン)に反応する可能性がある。

「われわれの考えでは、一般的な変異の検査をしただけでは薬剤は個別化できません」とEllisen氏は述べた。

なぜ今?

複数の遺伝子変化を同時に検査できる技術が開発され、患者にとって利益となるとの証拠が増加してきたため、今、個別化治療へのシフトが起きているのかもしれない。例えば、多くの直腸結腸癌患者は、セツキシマブ(アービタックス)を開始する前に遺伝子検査を受けて、治療対象の候補者であるのか、コストおよび副作用の面から免れるべき患者なのかを判定する。

「この手法こそがまさに患者が望んでいるものです」とMSKCCの胸部腫瘍科部長Dr. Mark Kris氏は述べた。「患者は、癌を分析するためにわれわれがあらゆる手立てを尽くしていることを知りたいのです。患者特有の疾患を標的とした治療法を患者に提供することは、医師が望んでいることでもあるのです。」

肺癌を対象にしたIPASS臨床試験の中間結果がASCO会議で報告され、腫瘍検査の必要性が強調された。ランダム化試験で初回療法としてゲフィチニブと化学療法を比較し、EGFR変異を有する患者はゲフィチニブのほうによく反応することが判明した。他の患者は化学療法のほうが良好であった。

ほぼ全参加者がゲフィチニブまたはエルロチニブからベネフィットを得られる可能性のある患者特性、すなわち、アジア人の非喫煙者または軽度喫煙者であったため、試験は個別化医療に適したものであるが、実際にゲフィチニブの恩恵を受けたのはそのうちの一部(EGFRに変異を有する患者)だけであった。

「このことは、これらの薬剤が最も有益となるのは誰かを予測するためには、単に医師を頼るだけでなく、患者が遺伝子検査を受ける必要があることを示唆しています」とSequist氏は指摘した。

「とてつもなく複雑」

患者から組織検体を採取する必要があること、および多くの腫瘍が標的薬剤に対し次第に抵抗性になることが、新分野が直面する多くの困難の一つである。「もう一つの厄介な問題は、遺伝子変異に対する特許が将来的に一部の施設で検査の範囲を狭める可能性があることです」と研究者は述べた。

とはいうものの、現在の医療システムの中で癌の個別化治療をいかに機能させるかを含め、今回の計画から貴重な教訓が得られる可能性がある。臨床試験医師らは互いに経験を共有し、昨秋の会議の要約を年内にも公開する予定である。

「現在の医療システムの中でそれを実施することはきわめて困難なことです。病院が今どうするか、癌治療がどうあるべきかということではありません。現在のシステムの『問題を解決し』、このアプローチの有用性を医学界に示す必要があるのです」とKris氏は言う。

さらに、「容易ではありません。しかし、われわれおよび実践している施設はすべて、このアプローチを前進させ、標準治療にするように取り組んでいます」と続けた。

—Edward Winstead

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榎 真由 訳

小宮 武文(胸部内科医/NCI研究員・ハワード大学病院) 監修

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