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2009/09/08号◆特別リポート「癌標的治療-ヘッジホッグと呼ばれる標的を撃つ」

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2009/09/08号◆特別リポート「癌標的治療-ヘッジホッグと呼ばれる標的を撃つ」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年09月08日号(Volume 6 / Number 17)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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特別リポート

癌標的治療-ヘッジホッグと呼ばれる標的を撃つ

新しい抗がん剤を人において初めて試験を行う際の主目標は、薬剤が安全で有望であるかを判断することであり、患者が劇的反応を示すことは稀である。そのため、先週発表された待望の臨床試験において、試験薬が治療不可能な皮膚癌の患者に有用であると示されたことは、患者にとっても研究者らにとっても喜ばしい報告であった。

本経路は、胎児が発育するのに必要不可欠な細胞内相互作用のカスケードであるヘッジホッグシグナリング経路の阻害を狙った薬物の試験である。本経路は、大部分の成人組織では休止する傾向にあるが、ある種の癌では不適切に活性化している。この重要な経路が不正に活性化された時に停止させる目的で、多くの企業が実験的なヘッジホッグ阻害剤を製造している。

本経路を活性化させる変異は基底細胞癌では一般的にみられるものであり、本試験では、この疾患では、基底細胞癌が既に拡大していたか、きわめて浸潤性が高かったため外科手術はもはや選択肢にないという、この疾患ではきわめて稀な症例の33人を登録した。しかしながら、この患者群のうち半数の患者がこの試験薬による治療に反応を示し、一部の患者では劇的に効果が認められた。

「この効果を確認できたのは素晴らしいことでした。というのは大部分の第1相臨床試験では正しい投与量を得るのと薬物動態を知ることのみが目的だからです」とトランスレーショナル・ゲノム研究センター(TGen)の試験責任医師Dr. Daniel Von Hoff氏は述べた。「これは何か本当に特別なものであり、われわれはさらに詳しく知りたいと思っています。」

患者に投薬を開始してから一部の腫瘍は縮小し始め、副作用は管理が可能であったと先週New England Journal of Medicine(NEJM)誌で研究者らは報告した。試験薬(GDC-0449として知られる錠剤)は一部の患者では作用しなくなったが、他の患者は20ヵ月以上服用したと共著者であるジョンズホプキンス・キンメルがんセンターのDr. Charles M. Rudin氏は報告した。

新たな選択肢

「この試験にとりわけ期待を寄せた理由は、実際、われわれには進行性の基底細胞癌患者に提供する薬がほとんどなかったからです」とRudin氏は続けた。「われわれは今回忍容性が高く、かなり頻繁に患者に臨床効果を誘導できる薬を得ることができました。」

ジョンズホプキンスとTGenに加えて、デトロイトのウェイン州立大学カルマノス癌研究所で治療が行われた。本試験は本薬を製造しているジェネンテック社主催であり、当社はこの稀なタイプの進行性皮膚癌患者を対象として 第2相臨床試験を開始している。

本薬は、髄芽腫という脳腫瘍のある小児および若年成人でも試験が行われている。NEJM における第2の報告では26歳の転移性髄芽腫患者の症例でGDC-0449に対して著しいが一過性の臨床反応を示したことが述べられている。投薬開始の数週間以内に、当患者は寝たきりでかなりの痛みのある状態からまったく痛みがなく運動できる状態まで回復した。残念なことに、最終的には疾患が進行して患者は死亡した。

「当初のスキャンでは素晴らしい結果で、この患者のような進行した疾患では本当に劇的な回復でしたが、その回復はまったく一過性のものでした。確かに、基底細胞癌の大多数の反応は、それより持続するとみられます。」とRudin氏は語った。

本報告書に付随する論説の共著者であるミシガン大学総合がんセンターのDr. Andrzej Dlugosz氏はその結果を「きわめて画期的」と称した。同氏は2件の報告により次代の癌治療の展望が明らかになったと指摘した。

同氏は、その結果をさらに大規模な試験で確認する事が必要であると述べ、分子標的抗がん剤でしばしば起こるように、なぜ一部の患者がその試験薬に耐性を引き起こすのかを解明することが重要であると述べた。(髄芽腫の男性患者について薬剤耐性のメカニズム解析は先週電子版サイエンスに掲載された。)

3つの戦略

Von Hoff氏は、今年前半に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で、試験参加した少数の患者における結果について報告し、そこで氏は「ヘッジホッグ経路は癌研究において最も画期的で将来性のある標的の1つである」と語った。

同氏はその際に、ヘッジホッグ阻害剤が癌治療に役立ちうる点を3つにまとめた。その3つとは、ヘッジホッグ経路により促進される腫瘍を標的とする、従来の薬剤送達を改善する、腫瘍を生じる可能性のある稀な細胞群を攻撃する手段を提供する、である。

ヘッジホッグ経路は、胎児の発達において重要である一方、ある種の自己再生細胞(癌の幹細胞とも呼ばれる)でも活性化するとみられ、ある種の癌の発現に重要であると一部の研究者らは信じている。多くの研究者らは、ヘッジホッグ経路を阻害することにより、これらの細胞を不活化する構想を探究している。

ヘッジホッグ阻害剤は、腫瘍周囲の局所環境を変化させることで、従来の抗がん剤を増強する作用もあるとみられている。5月に英国の研究者らはIPI-926と呼ばれるヘッジホッグ阻害剤が化学療法薬と一緒に投与された際にマウスの膵臓腫瘍に化学療法薬が到達するのを助けたと報告した。併用治療を受けなかったマウスに比べて、併用治療を受けたマウスは経過良好であったと同研究チームはサイエンスで報告した

「膵臓癌研究の団体間では、ヘッジホッグ阻害と、膵臓腫瘍に対する薬物送達改善能および最終的には延命の可能性について多大な関心があります」とインフィニティ・ファーマスーティカルズでIPI-926を開発したチームを主導するDr. Margaret Read氏は述べた。

さらに、「科学界では、ヘッジホッグ阻害剤は基底細胞癌に効くだろうという期待が以前から大きく、その一つが効いたということがわかったのは素晴らしいことです。現在の大きな疑問は、果たしてこの阻害剤は他の何に効くのかということです」とも述べている。多くの癌でのヘッジホッグ経路の重要性を示唆する前臨床データに基づき、氏の研究グループと他の研究グループはさまざまな腫瘍でヘッジホッグ阻害剤の試験を行っている。

基底細胞癌と髄芽腫に加えて、ジェネンテック社は、ヘッジホッグ経路が活性化している可能性があるが、ヘッジホッグ経路で変異が発現しているとは考えにくい大腸癌および卵巣癌のような癌においてヘッジホッグ阻害剤の試験を行っていると、同社の医学責任者であり基底細胞癌の論文の共著者であるDr. Josina Reddy氏は語った。

最終的に、ジェネンテック社は進行中の臨床試験結果に基づき、局所進行性および転移性基底細胞癌の症例に対する治療としてGDC-0449に対する承認を求める計画を立てていると彼女は言い添えた。

一方で、最近の研究で認められた劇的効果により、抗がん剤開発への比較的新しい手法の展望が描かれているとRudin氏は告げた。

「われわれは、疾患に重要な関わりをもつ分子生物学を標的治療の開発につなげ、効果がみられそうな患者に対して試験治療を行います」と彼は述べた。

【画像下文訳】GDC-0449を用いて治療を受けた髄芽腫の男性患者のPET(ポジトロン放出断層撮影)スキャン。スキャンA(左側)は治療前の患者を示す。スキャンB(真中)はGDC-0449を投与して2カ月後に劇的な腫瘍の縮小を示すが、1カ月後のスキャンC(右側)では癌は進行した。(New England Journal of Medicine提供図 ©2009)

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福田 素子 訳

林 正樹(血液・腫瘍医/敬愛会中頭病院)監修

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