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米保険会社の事前承認制は治療遅延などの弊害をもたらす―腫瘍内科医が回答

米国臨床腫瘍学会(ASCO)調査によりがん治療に対する事前承認の悪影響が明らかに

事前承認(診療前の保険会社による保険適否審査)制度ががん患者に悪影響を及ぼしていることが米国臨床腫瘍学会(ASCO)の新たな調査でわかった。調査によると、事前承認による必要な治療の遅れ、がん治療成績の低下、医師が担当患者の治療を外れる事態が発生している。

調査に参加したほぼ全員が、事前承認のプロセスが原因で患者に弊害が生じていると回答した。それには、疾患進行(80%)や死亡(36%)など、患者の健康状態に多大な影響を及ぼす事例が含まれる。患者への弊害として最も報告が多かったのは、治療の遅れ(96%)、画像診断(94%)の遅れ、第二選択治療しか受けられない(93%)または治療を受けられない(87%)、自己負担額の増加(88%)であった。

「今回の調査で、ASCO会員が長年にわたり現場で経験してきた内容が明らかになりました。それは、(事前承認のせいで)がん治療の受け入れがたい遅れや否定に直面する患者さんが数多くいるということです」とASCO会長のLori J. Pierce医師(FASTRO、FASCO)は述べる。「また、こうした弊害が死亡報告などの治療成績の低下にどの程度つながっているのかについて、その全体像がはっきりしました。現在の事前承認要件とそのせいでがん患者さんが被る影響を政策立案者が顧みないとすれば、それは無慈悲な話です」。

調査では、事前承認要請の対応でがん専門医がぶつかる難題についても尋ねた。ほぼすべての回答者が事務処理要件の煩わしさ、支払い側からの回答の遅さ、審査過程に対する臨床的妥当性のなさを挙げている。

診療の必要性を証明するのに面倒な書類が必要:97%

保険会社からの回答が遅い:97%

承認要求が通らない:96%

不服申し立ての過程について:94%

事前承認の審査者に臨床的専門知識がない:91%

事前承認制度に臨床的妥当性がない:91%

審査過程が不透明:91%

Pierce医師は次のように話す。「ASCO会員の間で、事前承認ががん患者さんに及ぼす影響を心配する声がますます大きくなっており、それを契機に経験に関する最新のデータを収集・検討することになりました。2018年には、健康保険プラン提供会社や医療関係機関が事前承認制度改革の合意原則に署名したにもかかわらず、健康保険は適用されないままでいます。ASCOは、患者さんを守り、患者さんが必要な治療を適切な時期に受けられるようにするための方針を引き続き支持します。同時に健康保険会社に対し、合意した制度を取り入れるよう求めています」

今回の調査では以下について、このような平均値が得られた。

事前承認要請に対する支払い側の回答までの時間:5営業日

事前承認要請が承認業務の担当者の処理可能限度を超えている割合:34%

事前承認ががん患者の重篤な有害事象につながっていると認識されている割合:14%

事前承認に(1営業日を上回る)「著しい」遅れが生じている割合:42%

調査では回答者に、事前承認の対応で現在用いられているリソースをほかに配分できるとすれば、患者へのどのような対応業務を拡充するかを尋ねた。回答に共通してみられた話題は次のようなものであった。

「より多くの患者を診る」

「支援的業務を拡充させる」(新規患者の案内、経済面の相談、患者教育、栄養カウンセリング、心理社会的支援)

「外来患者業務」

「緩和ケア」

「研究」

この結果は、事前承認制度の現在の構造による容認できない事実上の代償、および全アメリカ国民が払っている(手続きや医療における)犠牲を物語っている。

今回の調査と次のステップについて

この調査はASCO会員を広く対象に、医療実施機関にて2022年6月27日から7月30日にかけて行われ、300件の回答を得た。回答者の多くは、臨床診療の主要分野が腫瘍内科の医師であり(55%)、地域/病院を基盤とする医療機関ネットワーク/機関(35%)、自費診療施設(34%)、学術機関/大学(29%)の医師の割合がほぼ均等であった。また、事前承認の手続き開始に当たるのは請求書担当者が最も多かった(31%)。

ASCOは、事前承認に関する新たな意見報告書に今回の調査結果を記載している。報告書では、ASCO会員の事前承認への懸念事項を詳述し,事前承認業務への管理強化を目的に連邦政府の政府立案者,規制当局,その他の利害関係機関に対する推奨事項を作成している。

ASCOは、2018年の事前承認制度改革案の導入以来、Improving Seniors’ Timely Access to Care法(高齢者が今より適切な時期に治療を受けるための法案)を支持している。この法案が制定されれば、Medicare Advantage(MA、メディケア・アドバンテージ)における事前承認が簡素化される。MAプランでは事前承認プロセスを電子化し、MAプランを提供する保険会社には適切な時期に決定を行う責任を課し、事前承認の適用範囲を報告するよう求めるためである。同法案は2022年9月に米下院議会を通過し、現在上院で審議が行われている。ASCOは法案の上院議会通過を引き続き支持している。

詳細はこちらからasco.org/priorauth

事前承認についてASCO会員による調査概要報告の全文はこちらから。

 

監修:加藤 恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)

翻訳担当者伊藤 美奈子

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