CD19/CD22同時標的CAR-T細胞療法が一部の小児白血病で完全寛解率99%

ASCOの見解

「これらの患者の完全寛解率が99%を示したことは非常に驚くべきことであり、1年後の転帰からも非常に期待が持てます。それと同時に、COVID-19パンデミック時に短期間で200人以上の患者を治療し、簡単な採血から迅速にCAR-T細胞を作製する臨床医の能力は見事です」と、ASCOエキスパートのStephen P. Hunger医師は語る。

再発および難治性小児B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)に対するキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法に関する過去最大の試験において、中国の臨床医らは、CD19を標的とするT細胞と、CD22を標的とするT細胞の2種を迅速に作製し、治療抵抗性または再発高リスクの白血病患者194人の99%で病変陰性をもたらすことに成功したことが本日、Clinical Oncology誌に掲載された。  

【試験要旨】

◆目的: 第II相試験により、再発または治療抵抗性B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)の小児患者において、CD19を標的とするT細胞とCD22を標的とするT細胞を併用投与することで病変陰性を達成できるかどうかを検討する。

対象者: 2019年9月17日から2021年12月31日の間に、中国の上海市とその近郊にある5つの都市部病院に登録された20歳以下の小児232人。

225人の小児が評価された。

◆結果: 治療抵抗性白血病患者または白血病の再発を経験した患者194人の99%で完全寛解を達成した。全体の12カ月無イベント生存率は73.5%であった。43人の患者が再発した。 

◆意義: CD19標的CAR-T細胞およびCD22標的CAR-T細胞の併用投与は、再発または難治性B-ALL患者の新たな標準治療となる可能性がある。反応の持続性を確認するにはより長期のフォローアップが必要である。

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急性リンパ性白血病(急性リンパ芽球性白血病、ALL)は小児がんの中で最も一般的ながんである。最新治療によるALLの5年生存率は、20歳未満の患者で89%である¹。本試験は、治療抵抗性または治療後に2回以上再発したことのあるごく一部のB-ALL患者を対象とした。

革新的なアプローチにより、簡単な採血の後、登録から細胞注入までの平均7日間でCAR-T細胞が作製された。これは、CAR-T細胞の一般的な作製工程が通常1カ月を要し、細胞の凍結融解(細胞の活性を低下させる可能性がある)を必要とするのとは対照的である。

各患者に対して、研究者らはCD19標的CAR-T細胞およびCD22標的CAR-T細胞を別々に作製し、これらを一緒に注入することで2つのB細胞抗原を同時に標的化した。ほとんどのCAR-T療法は1つの抗原しか標的化しない。前臨床モデルにおいて、同時標的化により抗原消失後の再発リスクが低減する可能性が示されたことから、臨床医らは、この併用投与により薬剤耐性の出現を遅らせる、あるいは阻止できると仮定した。

「不妊症、重度神経認知障害、脳腫瘍といった生活を一変させるような副作用を引き起こす可能性のある骨髄、精巣、または中枢神経系への局所放射線照射を一部の患者で回避できることもあり、このレジメンは新たな標準治療になり得ると考えています」と語るのは、責任著者である聖ジュード小児研究病院(テネシー州メンフィス)腫瘍学、病理学および総合小児医学部門のChing-Hon Pui医師である。「複数回再発を繰り返した末に、B-ALLに対してCAR-T細胞療法を受けた最初の小児が、つい先日10年無病生存の節目を迎えました。この試験の意義がお分かりいただけると思います。今回の発見によって、このような画期的な事例が数多く生まれることを願っています」

主な知見

治療抵抗性白血病または白血病が再発した患者194人の99%で完全寛解が達成された。全体の12カ月無イベント生存率は73.5%であった。43人の患者が再発した。

本試験における部位別の12カ月無イベント生存率は、ドナーからの正常幹細胞移植を行わずにCD19およびCD22標的CAR-T細胞療法を受けた小児で69.2%、精巣単独再発の小児で95%、中枢神経系単独再発の小児で68.6%であった。

次のステップ

一部の患者は、CD19およびCD22標的CAR-T細胞の反応消失を経験した。CD22標的CAR-T細胞は、CD19標的CAR-T細胞ほど着実には増殖せず、かつ長くは生存しなかったと研究者らはみている。研究グループは、CD22標的CAR-T細胞の長期生存性と活性を高めることで転帰が改善するかどうか、今後の研究で明らかにしたいとしている。また、この試験では精巣症例数が比較的少なかったことから、今後の研究で転帰の生物学的根拠を明らかにし、精巣奏効率が他の身体部位にがんが再発した小児の奏効率に比べて高かった理由を確認する必要があると指摘している。

[1] Cancer.Net:急性リンパ性白血病(ALL)の統計情報(英語): https://www.cancer.net/cancer-types/leukemia-acute-lymphocytic-all/statistics

監訳:北尾 章人(腫瘍・血液内科/神戸大学大学院医学研究科)

翻訳担当者 工藤 章子

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原文掲載日 

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