元喫煙者も健康的な生活習慣であらゆる原因の死亡リスクが低下

健康的な生活習慣を遵守している元喫煙者は、遵守していない元喫煙者に比べて、あらゆる原因の死亡リスクが低下することが、米国国立衛生研究所(NIH)の機関である米国国立がん研究所(NCI)の研究者らの新たな研究によって示された。死亡リスクの低下は、がん、心疾患、肺疾患などの特定の原因で認められた。元喫煙者を対象にした生活様式の介入については、これまで確実な研究が行われておらず、今回の新たな知見は、米国における5200万人の元喫煙者にとって重要な意味をもたらすこととなる。

健康的な生活習慣(身体活動や健康的な食事などの実践)を遵守することで、遵守しない場合に比べ、19年間の追跡期間で死亡リスクが27%低下したと関連付けられた。

2022年9月22日付のJAMA Network Open誌に掲載されたこの知見は、NIH-AARP Diet and Health Studyに参加した大規模な元喫煙者グループの解析から得られた。

本論文の筆頭執筆者であるNCI疫学・遺伝学部門所属のMaki Inoue-Choi医学博士は次のように述べた。「(生活習慣との)強い関連性を見て驚きました。体重、食事、運動、アルコール摂取について、エビデンスに基づく推奨事項を遵守する元喫煙者は、遵守しない元喫煙者よりも死亡リスクが低下しています」。

禁煙によって多くの健康効果が得られることは周知の事実だが、喫煙経験のない人に比べて、元喫煙者は病気や早期死亡のリスクが依然として高い。

過去の研究では、健康的な体重を維持し、身体活動を行い、健康的な食事を摂取し、アルコール摂取を制限するなど、健康的な生活習慣の推奨事項を遵守する人は、病気や死亡のリスクが低下することを示唆している。しかし、元喫煙者を対象にした同様の遵守の利点について調査した研究はほとんどない。

本解析は、1995〜1996年にNIH-AARP Diet and Health Studyに参加し、生活習慣、人口統計、その他の健康関連情報への質問票に回答した元喫煙者159,937人を対象とした。研究開始時、平均年齢62.6歳であった参加者を約19年間追跡した。2019年まで及ぶ追跡期間中、参加者86,127人が死亡した。死因などの死亡関連情報は、National Death Indexから得た。

研究者らは、各参加者について、遵守総スコア(遵守なしから完全遵守まで)を算出した。総スコアは、世界保健機関からのガイドラインに基づくBMI(*)、Dietary Guidelines for Americans2010-2015に基づく食事の質、Physical Activity Guidelines for Americans第2版に基づく身体活動、Dietary Guidelines for Americans2020-2025に基づく飲酒の摂取に関する各スコアの合計である。

*BMI = 体重(kg) ÷ [身長(m)の2乗]

遵守総スコアが最も高かった参加者は、最も低かった参加者に比して、あらゆる原因の死亡リスクが27%低いことが認められた。さらに、最高スコアの参加者は、がんによる死亡リスクが24%、心血管疾患による死亡リスクが28%、呼吸器疾患による死亡リスクが30%低いことが認められた。一般的な健康状態、その他特定の健康状態、1日の喫煙本数、禁煙年数、喫煙開始年齢を問わず、この死亡リスクの低下が確認された。

研究者らは、個人の生活習慣に関する推奨事項の遵守から得られた効果も評価した。個別のスコアにおいても、最高スコアの参加者は最低スコアの参加者よりも死亡リスクが低下していた(身体活動では17%、体重では14%、食事の質では9%、アルコール摂取では4%の低下)。

Inoue-Choi医学博士は次のように指摘した。「最大の効果を得るためには、複数の生活習慣推奨事項を遵守することが望ましいですが、単一の生活習慣推奨を取り入れた人でも、効果がみられます」。

研究者らは、自己申告データに基づく研究では関連性を示すことしかできず、因果関係を確定することは不可能であると注意を促す。その関連性を覆すことができる多くの要因を照査していたが、彼らが観察した関連性に影響を与えうる別の要因の可能性を除外することはできないとのことである。

また、より多様な集団における元喫煙者の生活習慣の推奨事項の遵守と死亡リスクとの関連性を探るためには、さらなる研究が必要であるとも述べている。

「NIH-AARPの研究では、主に社会経済的地位が比較的高い白人集団を対象にしています。これらの研究を他の集団にも拡大する必要があります」と、Inoue-Choi医学博士は語った。

監訳:東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/奈良県総合医療センター)

翻訳担当者 平 千鶴

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原文掲載日 

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